姉、友に助けを求められる
昨日の来客を終え、屋敷に留まる約束が解禁となった。
いつもとよく似た時間に起きてキッチンとランドリーへ行き、少しづつ慣れた動く事に慣れてきた体からは重さを感じる事がなくなり、
久し振りに行った紙漉きも、紙刺繍の図案も弛緩を開けた為か良くでき、
今日は何をして過ごそうか。
ぼんやり考えながら自室へと歩いていると、1人の男性が早足で歩いている姿を視界に入り
「エスメ様に来客がござます」
正面に立ち少し慌てた雰囲気と少しの早口で告げられた言葉に、首を傾げると、
「ルイがエスメ様に伝えたい事があると」
まだ、朝と言える時間と突然のルイの訪問に慌て早足で玄関ホールへ向かうと、数人の男性使用人に囲まれており、
「ルイ、おはよう。どうしたの?」
目尻を上げ、どこか怒った雰囲気を出しているルイに慌て駆け寄り尋ねると、
「エスメ、ミランダが危ない!」
叫ぶように告げられた言葉に、驚き、
「少し待っていて!」
身を引き返し、走って自室へと駆け込んだ。
「エスメ様?」
テアさんの戸惑う声と表情を視界の端に捉え、
「すみませんが、今からぬくもり亭へ行ってきます!」
本棚の横に立てかけていた箒を手に取り、再び玄関ホールへと向かい、
「むくもり亭に行ってきます!」
ルイの手を引き、玄関を抜けた所でルイのお腹に手を回し
「ルイ、しっかり捕まっていてね!」
走る勢いのまま箒に跨り空へと飛んだ。
ルイの慌てる声としがみ付く力に、
「落とさないから安心して」
ディランとは違う態度に微笑ましく追いながら、
「ミランダが危ないとはどう言う事なの?」
告げられた言葉に驚き慌て屋敷を出てきたが今一状況が分からず尋ねると、
「昨日ミランダの所から帰る時に、知らない男に声をかけられ色んな事を聞かれたんだ」
箒に跨る事に慣れ安定する体制を見つけた様で、自分の腕の中の収まっているルイの後頭部を見ながら
「ぬくもり亭は、宿で子供が1人でいた事が珍しいからでは?」
ルイの言葉に返事を返すも、
「裏口に居る俺に、偶然を装って聞いてくるのがか?」
帰ってきた言葉に、怪しさが一気に膨れ上がり、
「確かに、怪しい」
同意の意味も込め頷くと、あっという間にむくもり亭へと到着し、気付かれない様に少し離れた場所で箒から降り、ルイの案内で勝手口からお邪魔する。
「ルイ。と、お嬢様?」
女将さんの声に
「おはようございます。お久しぶりです」
挨拶をすると
「おはよございます。本当にお久しぶりですね」
にっこり微笑まれ、ルイに手を引かれ会話もそこそこにミランダの部屋に向かう為に歩くが、
「おや、昨日の」
初めて聞く声は自分達のことを指しているが、ルイの足は止まること無く声をかけてきた男性の横を通り抜けようとするも、
「昨日の話を我が主にしましたら、大変ご興味を引いたようでよろしければ主と会っていただけませんか?」
前に立ちはだかり、有無を言わせない雰囲気に
「悪いけど、後にしてくれないか」
ルイは苛立ちの色を乗せた声で返事を返すが、
「明日には旅立たねばならぬ身、ご予定もおありかと思いますが是非」
笑顔のはずなのに笑っていない様に見え、ますます行く訳には行かないと身構え警戒心を強めが、
「こらこら。怖がらせてはいけないよ」
前に立つ男性の後ろから聞こえた声に聞き覚えがあり、男性の後ろに視線を送れば昨日会った魔術省の役人さんが立っており、
「昨日はお会いできて嬉しかったです」
自分を見て告げた言葉に、頷き
「こちらこそ、お会いできて嬉しかったです」
淑女の微笑みで返すと、ルイから探るような自然を送られ、
「王都からお見えになったお客様なの」
声を顰め苦笑しながら伝えると、
「なんでエスメの客が俺に声をかけてくるんだよ」
疑問と不愉快さを出し小さな声で告げられるも、前の男性に2人には聞こえていたようで、
「不愉快にさせてしまったなら済まない。旅宿に子供だけでいたのが気になって声をかけてしまったんだ」
最初に声をかけてきた男性の言葉に、ルイの眉間に皺を寄せるが、
「お詫びに王都の菓子と紅茶はいかがですか?」
ルイとは話にならないと思ったのか自分に話を振られ、お祖父様とお祖母様の客人である人物の関係者からの誘いに断ることができず、
「ありがとうございます。では、私だけお邪魔させていただきまう」
ルイを先にミランダの元へ行かそうと提案するも、
「エスメ1人で行かす訳ないだろう。俺も一緒に行く」
敏く、断れない雰囲気を察したのかルイの言葉に断ろうとするも、
「では、こちらに」
こと場を挟む隙もなく案内され、部屋へと通された。
第179話
戻り梅雨となっておりますね。気温差がある日々となっておりますどうぞご自愛くださいませ。
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ネタバレを含みますが短編に本編終盤の弟ディランの心境と日々を書いております。
お時間ありましたらお読みください。
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