友、友人の為に動き出す
雨の日
エスメさんとルイの言葉に降参して、この地に永住をしましょうか。
そんな事を雑談で話しながら、住むのなら、いつまでも宿に滞在する訳には行かないし、どこかに働きに出て賃金を稼がないと。
そろそろやってくるエスメさんとルイの為に紅茶の準備も終え、慣れた宿の椅子に腰掛けコナー会話を楽しむも、中々来る気配は無く、
互いに首を傾げ、初めての事に首を傾げる中、数刻遅れで聞こえたノック音に顔を見合わせコナーに対応をお願いするが、
全身濡れながら来てくれたルイは、どこか辛そうで
「どうかしました?」
いつも一緒に来てくれるエスメさんの姿は無く、何かあったのかと思うも、長年の淑女教育のお陰で表情にはさん出さずにすんだ。
黙ったまま下を向き動きを見せないルイに困惑しながらも、コナーに視線を送り何か拭くものを持ってくるように視線でお願いし、
「ルイ、廊下にては他の方にご迷惑をかけてしまうわ」
日頃、宿の従業員が稀に通るくらいで他の客に会うことはない物の、いつまでも廊下に立たせておくわけには行かず、扉を大きく開け招き入れた。
下を向いたまま動かないルイを見かねたコナーが髪をふき取り、洋服の上から抑えるように水分を取っていく。
コナーの代わりに紅茶の準備し椅子に腰掛けるように進めるが、動く気配はなく、再びコナーと視線を合わせどうするべきかを考えると、
「ごめん。エスメは当分ここに来れないと思う」
絞り出すように告げられた言葉に、握り締めている左手を両手で持ちあげ、
「ゆっくりで大丈夫ですわ」
冷えた手を温めるように包み込むと、更に力を込めた為手の平に爪が食い込みかけ、
「ルイ。エスメさんに何かあったのですね?だから私に何か助けを求めたい。違いますか?」
エスメさんの不在とルイの雰囲気のみで予想を立て、できるだけ優しく聞こえる様に気を付けながら問うと、
奥歯を噛み締める音が聞こえ、ルイの心の葛藤が手に取るように分かった。
助けてくれたルイの為に自分ができることが役に立て助けられたら。
そう思う反面
元貴族としての立場を利用されるのだろう。
悲しさと寂しさが心の片隅にあり、そんな自分に苦笑しながらも心の内を見せる事などせず、
「ルイ、私達はお友達ですわ。お友達が困っていたら助け合うもの。遠慮なく言ってください」
握りしめた手に力を込め伝えると、震える唇を動かし
「エスメが、泣いてた」
震える声で告げられた言葉に内心驚きつつも、黙ってルイの言葉を待つと
「ここに来るのにエスメと会う為に噴水に行ったら、エスメ、空を見上げてて」
思い出しながらの言葉に相槌だけ打ち返す。
「なんかおかしいな。そう思って見てたんだけど」
深呼吸をし、言葉を探しているように区切りながらの言葉をコナーと聞くも、いつも笑顔で楽しそうに笑っているエスメさんが泣くという事とルイの態度にただ事ではないと思い、
頭の片隅で自分ができる事を思い出し、どう動くことが正しい事なのか探してゆく。
「雨で濡れてたから勘違いかと思ったんだ。けど、エスメがどこかに消えそうに見えて」
体を震わせながら言葉と、消えそうだったと告げられた言葉に眉間い皺を寄せるも、すぐさま表情を元に戻す。
想像でしかないが、エスメ様は母国が危険人物と監視対象にしている人物だろうと確信していた。
と言うより、出会った時に箒に跨り宙に浮いていたのだ。
間違いないと確信しているが、ご本人からその話を告げられていないのこちらからは話を振らない。
エスメ様の人なりは会い会話をしていれば、良くわかった。
楽しい事、嬉しい事、渡りの人が笑ってくれる事が大好きな方だ。
そのエスメ様が泣いており、消えそうだと言う。
何かがあったことは違いない。
「俺、エスメを助けたくて」
下を見ていたルイが顔を上げ、視線が合う。
「でも、ミランダにしか頼めなくて」
先程まで震えていた雰囲気は無くなり、力強い視線と言葉に微笑み
「ルイのお力になれるのなら嬉しいです」
落胆する自分の隠し、求められている貴族の自分を表に出しルイの望む言葉を告げると
「俺に文字を教えて欲しいんだ」
決意を込めた視線と言葉に、想像していなかった願いに数度瞬きを繰り返した後、
「手紙を書いて、ディランにエスメに何があったか聞きたいんだ」
だから、俺に文字の書き方を教えくれ。
悩みに悩み、自分の事にも気を遣ってくれたルイの言葉に
「ディラン様と言うのは、エスメさんの弟様でお間違いありませんか?」
是と答えるはずの言葉とは違う言葉が口から零れ落ちてしまい、コナーの雰囲気が1瞬変わるも、何も感じなかったように振る舞い、ルイと視線を合わせたままでいれば、
「エスメが泣くなんて、ディランに何かあったに違いないからな」
自分の出した答えに確信があるかのように頷き、告げられた言葉に
「確かにエスメさんとのお話には必ずディラン様のお話が出てきますが」
戸惑いながら言葉を返せば
「エスメの中心はディランだから間違いない」
胸を張りな柄の言葉に、
「分かりましたわ。明日から文字の勉強をいたしましょう」
想像していた願いとは大いに違い、心の中で微笑ましくもエスメさんとルイとの関係が羨ましく思いつつ告げると、
「ありがとう」
カラリ笑ながらのお礼に嬉しく思いながら、
「今日はここまでにしましょう。明日から頑張りましょうね」
雨に濡れているルイの体調を気遣い告げると、頷いてくれ
「ミランダ、俺の身勝手の我が儘を叶えてくれてありがとう」
握ったままだった手を力強く握り返されながらの言葉に、少し胸が跳ねたが、気づかぬフリをし
「気をつけて、明日、お待ちしておりますわ」
微笑み、握られられた手をやんわりと外し、コナーが開けてくれた扉に視線を向ければ
「ああ。また明日」
手を振り部屋を出ていく背中を見送った。
ルイが退出すると、部屋は静まり用意したが飲まれることのなかった冷めた紅茶を一口飲み、
「大変な事になっている様ですね」
心を落ち着かせ、前に座ったコナーに告げれは、
「子供の事です。小さく些細な事でも大事件でしょう」
冷静に告げているコナーの言葉もどこか心配をしている雰囲気があり、
「貴族としての立場などを求められるのだと思ったわ」
隠す事なく信頼するコナーに心内を告げると、
「そもそも、ルイが貴族という立場を正確に把握しているかが疑問です」
少し呆れも含まれる言葉に、
「確かに。エスメさんは貴族らしくはないですものね」
いつも笑顔で、作ってきたのだと手渡してくれる茶菓子と会話を思い出し小さく笑っていると、
「貴族を勘違いされても困ります」
ため息と共に零された言葉に、
「領主様もエスメさんの話を聞いていると、私達の知っている貴族ではなさそうよ」
微笑みながら返事を消すと
「権力に興味がない貴族など初めて聞きました」
呆れ混じりの言葉に、
「私達の周りには居ない貴族ね」
頷き、自分の周りにいた貴族を思い出すが、
「明日からは忙しくなりそうね」
振り払うかのようにコナーに話題の変更を告げると、
「ええ。ルイに集中力があることを祈りますわ」
主人の心内を悟ったようで話題変更に了承し会話を続けてくれた。
「体を動かしている方が得意な様に思うけれど、エスメさんの為に頑張って貰いましょう」
「短期接戦です。容赦なくて結構かと」
平民の子供らしく嬉しそうに笑いながらお礼を告げてくれたルイを思い出しながら、明日からの計画を立て女将さんにペンと紙を借りる様にお願いをコナーに託した。
第176話
更新を迷いましたが、少しでも気晴らしになればと思いました。
誤字報告、ありがとうございます。
ブッマークや評価、いいねボタンをいただき誠にありがとうございます。
ネタバレを含みますが短編に本編終盤の弟ディランの心境と日々を書いております。
お時間ありましたらお読みください。
https://ncode.syosetu.com/n4082hc/




