姉、目を覚ます
ハーブが漬け込まれている水を飲み終えるとすぐさまお代わりが注がれ、一口大に切られた様々な果実を食べ終えると、2皿目がすぐにテーブルの上に置かれ、
目の前に座るお祖父様とお祖母様を横目で見ると、嬉しそうに微笑んだ姿と壁側に控えているボニーさんとテアさんにハンナさんからの感じる無言の圧に手を止める事ができず飲食を続けるが、
流石のお腹がいっぱいになり、手の動きが鈍くなった頃
「流石にお腹がいっぱいかしら?」
お祖母様の言葉にゆっくり頷き、短い返事を返すとボニーさんがフルーツの乗った皿とハーブ水が残っているコップを下げてくれ、
テアさんから紅茶の入ったカップが前に置かれ
「ありがとうございます」
礼を告げると、目礼を貰えた。
「さて、エスメ。話を聞きたいのだが」
熱さに気を付け紅茶を一口飲んだのを見計らうようにお祖父様からの問いかけに、頷きと短い返事で答えると
「先日、この部屋からエスメの姿が消えたと報告を受け駆けつけたが姿がなかった。どこで何をしていたのかを聞きたい」
先程までの嬉しく笑っていた表情が消え去り、真剣な表情と硬い声で聴これた言葉に、
「王都の屋敷にいました」
思い出すと心が痛むも一族の長としての質問に自分の感情を隠し伝えたが驚いた反応は無く、
「そうか。この屋敷から王都の屋敷に移動するまでの間はどうだ?何か感じた事はあったか?」
次に問われた言葉に首を傾げ、
移動中に感じた事は無く、気が付くと王都の屋敷でだった。
何がなんだか解らず、目の前の光景が理解できなかった。
思い付く限りのことをお祖父様に伝えるも、問われた答えでは無い様に思え口を閉じる。
「では、噴水の広場に移動した時はどうだ?」
次に聞かれた言葉に思い出すが、
あの時はこの場所に居てはいけない。
そう思い、頭に浮かんだ場所に行けるように強く願った。
どう伝えればいいのだろう?
頭の中で言葉を組み立て、声に出し伝えてゆく。
お祖父様は大きく頷いてくれたが、お祖母様は口を閉ざし会話を聞いている姿に王都の屋敷であった事を思い出し、心が震え出す。
娘だという証明ができなかった。
証明ができなければ、家族ではないのだと思う。
何を証明として提示すればいいのかが解らなかった。
何を証明とすれば良いのか解らず考えれば考える程、悪い方向へと考えが進み、それが正しいのでは無いかとすら思い込んでしまいそうになる。
「エスメ」
お祖母様の声に気が付くと顔を下げ考え込んでいた事に気がつき慌て顔を上げると、
「嫌な事を、今は、思い出さなくて良いわ」
微笑みながら視線を合わせ告げられた言葉に、恐る恐る頷くと
「先程までエスメが入っていた水の様な物は何か解るかしら?」
微笑みが消え、問われた言葉に、
「解りません。が、とても暖かくて優しく包み込んでくれた事は分かります」
自分でも、何がなんだが解らず、目を覚ました瞬間に落下しベットの上に落ちた。
何が何だか理解が追いつかないまま、慌てたテアさんとハンナさんに今にも泣き出しそうな表情のボニーさんの声と言われるままに、水が滴るまま湯浴みと着替えを済ませ今に至る事を改めて思い出し、
寒い真冬の日の布団の中に居て二度寝ができる、暖かさと幸せな気持ちだった。
ずっと居たかったな。
名残惜しさを感じるも、流石にダメだと頭の片隅で考えお祖母様の見つめていると、何か考え込んでいるように、間が開いたものの、
「間も無く魔術省から派遣された者がきます」
突然の言葉に、戸惑いながら頷くと
「私達では解らない事だけど、長けた者ならば何か分かるかもしれないわ」
確かに、専属の部署で働く人だから魔法に詳しいはず。
お祖母様の言葉を元に導き出した答えに納得し頷き返すと
「到着前に先触れの使者は来るでしょうが、屋敷から出ることを控えなさい」
告げられた言葉に、確かにと納得し返事を返しながらも
ルイとミランダに当分の間、会いに行けない事を伝え無いと。
数日前まで毎日会いに行った友達への伝言をどうするかを頭の片隅で考え、
「リリーとディランからエスメ宛に手紙が届いていたから後から届けるわ」
耳に入ってきたお祖母様の言葉に意識を切り替えるも、見るのが怖くて頷くだけの返事で返した。




