メイドは現実を受け入れられない。
自分達が仕える主は
純粋無垢の子供かと言われるとそうでは無く
奇才かと言われるとそうでもない。
ただ、皆口を揃えていう
好奇心旺盛で心優しき、子供らしい子供なのだと。
王家からの勅命を受け、マルチダさんを筆頭に家の立場と生まれ、学園での過ごし方に成績と考慮されて選出されたであろう自分達は、
家の格は似たり寄ったりだが年代も違いがあり、
1番若いボニーさんはデビューしたばかりの年齢で
間にはテアさんが入り、
間も無く20歳になる自分が1番年上となる。
次女、三女の自分達はいずれ家をの為に嫁ぐか、貴族の屋敷で働くか、平民となるかの選択の中での勅命に拒否権は無く、
舞踏会やお茶会で話題のルーズヴェルト家のメイドとして派遣され、ご息女の成長を見守り手助けをする様に告げられた。
裏の意味は
密命として御息女の監視をし報告をすること。
お会いできるまでは奥様の元で屋敷の習わしを学び、御息女の話を奥様や旦那様から聞き、王都でご息女に支えているマルチダさんからの報告書を読むだけだった。
貴族家に生まれながらも、貴族籍は無く、だからと言って平民かと言われると公爵家の娘なので違う。
曖昧な立場のご息女様は、立場なんて気にしてないとばかりに日々アレやコレと事をおこし驚かされる。
箒に跨り空を飛んだ事は、マルチダさんの報告書と奥様からのお話で聞いていたが想像が出来ず、心内で首を傾げながら、表面で真剣な表情で頷いたものの、
実際目の前で箒に跨った瞬間に絶句し
宙に浮いた時には意識が遠のきかけた。
その日の夜に3人集まり、よく意識を保った事を互いに褒め称えたが、
そんな事は些細なことだった。
将来家から出て独り立ちをするのだからと、誰も居ないキッチンで窯に火をつけ、井戸から水を汲む。
キッチンメイドや見習いのクックがやるような仕事を率先して行い、ランドリーでは自分の洋服を自分で洗いだす。
一体何時に起きれば良いのかと頭を悩ましたが、
「貴方達の手助けは無用よ」
ご相談した奥様からのお返事に、それはそうだと思うものの、貴族の御息女が行う事なのだろうか?と首を傾げつつも、
ご本人が楽しそうにされているので見守る体制をとる事にした。
どこかで交流を持てれば。
そう思い、ご息女の動きを観察するもののキッチンとランドリーの間の休憩はフレディさんと一緒で話す機会が見つけられず、
それならば、と、ランドリー終わりを狙うも、フレディーさんの迎えでディラン様の部屋に入ってしまので話す機会はほぼ無く、
報告書が日々同じ事ばかりでどうすれば良いのかと頭を悩ましもしたが、少しずつ交流も持て、雪合戦ではご息女の身なりを整える、本来のメイドとしての役目を受けまたわり、
なんとなく、ご息女の性格が掴めてきて、お付きのメイド自信を持てる様になってきた頃
ディラン様とフレディさんが王都へと旅立った。
年齢を考えれば、学園への入学と貴族同士での交流目的。
ルーズヴェルト家へ生活魔法道具を発明し販売し始めてから急速に富を築き王家と高位貴族の立場を強固にしている。
全てエスメ様の閃きでできた物。
思い付きで動くエスメ様を制御できるのは弟君のディラン様とフレディさん。
最近では奥様も制御できるよになりつつあるものの後手になるのは立場上仕方ない。
少し目を離しただけで、屋敷を駆け抜け箒に跨り飛んで行ってしまうエスメ様をどう制御すればいいのか分からず、
ディラン様やフレディさんに助言を貰えば良かったと何度も後悔した。
そして、今。
突然目の前から姿が消えたエスメ様の行方がわからず、奥様と旦那様から状況説明を求められ、手の空いている使用人全員でエスメ様を探し、旦那様と奥様、イルさんと対応を話し合っている中、
「失礼します。エスメ様がお帰りになりました!」
告げている本人も慌て、入室の許可が出る前にドアを開け告げた事に気がついていない程の慌てた姿に全員が一斉に部屋を出て、玄関ホールに向かえば、
下を向き全身を雨に濡れ、雫を滴り落とす姿に息を呑むも
心配し駆け言葉を駆けた旦那様に、力無く微笑みどこかよそよそしい雰囲気に大事だと判断した。
ディラン様やフレディさんが居らず、寂しそうの表情をした姿を見たことは度々あったが、
下を向き、力無く微笑む姿は初めてで嫌な予感が湧き起こるが、まずは主人であるエスメ様を休めせる事だと気持ちを切り替え、ボアさんとテアさんとで尽くし、
眠そうにしているエスメ様を休ませたが、
「エスメがキッチンにもランドリーにも姿を見せなかった様なの。様子を見て来てくれないかしら?」
翌朝、呼び出された奥様の言葉に内心驚きつつ、返事を返しエスメ様の部屋へ向かう。
祭りの当日もディラン様が旅立つ日も朝の仕事を休まなかったエスメ様が?
昨日、心の隅に追いやった嫌な予感が蠢き、ただ疲れて寝坊しただけだと自分に言い聞かせ部屋に入れると
エスメ様は
水の様なものに包まれ、身を丸め浮いていた。
何が起こっているの?
目の前の光景に理解ができず、呆然としていると
「エスメ!」
いつの間にか誰かが旦那様と奥様の元へ報告へ行ってくれたのか、大きな声で名を呼び荒々しい動きでエスメ様の近づく旦那様の姿を見つめながら、
目の前の光景が信じられず立ち尽くしてしまった。




