弟は従者を慰め諌める
姉様が突然現れた。
その日は、珍しいくお茶会や外出予定の無いお母様が1日屋敷にいるという事で皆で集まりお茶会をしようとお父様からの提案で、集まっていた。
近状報告を交えながら、自領での出来事を話していると姉様中心の話になり、
約1週間程かけて届く姉様からの手紙は日記なのではと思う程の枚数と内容にお母様は呆れながらも楽しそうに話、お父様も心待ちにしている事は話を聞いていて分かった。
なんでも、新しい事を思いついたそうで、
楽しみにしていて欲しい。
手紙の最後に書かれていた一文に、様々な感情が生まれたが、
姉様の楽しみにしていての言葉は、誰かを助ける道具が閃いた事に良く使われる言葉で、お父様もお母様も複雑そうにしながらも、何処か嬉しそうで、
今度は何を思い付いたのか。
心の中では楽しみに思うも、その後の事を考えるとため息を落とすとフレディの複雑そうな微笑みが目に入り、
フレディ宛の手紙にも同じことが書かれていた事が分かった。
「紙を作るとは思わなかったよ」
ポツリと告げたお父様の言葉に、微笑みながらもお母様は頷き、
「ですが、上手く作成できれば紙の安定供給ができますわ」
他国から輸入品として仕入れはしているが、国内で作れるならば安価で売買され平民達にも手の届く品となる。
勿論、他国からの輸入品はランクを上げ高級品として扱われるので買取価格は今と同様の価格と仕入れ量となる。
相手国との良好な関係を崩さないように細心の注意が必要ではあるものの、姉様の作った生活魔法道具の売買がある以上はこの国は有理的立ち位置は変わらない。
外交官の緻密な計算と陛下の匙加減のおかげで国同士の大きな問題にはなっていないが。
両親の話を聞きつつ、王都に帰って来てから新たに学んだ知識を使い考え込んでいれば、部屋の空気が騒めきを感じ、無意識に考えることに没頭していた事に気づき瞬きを数度し現状を把握する為に両親を見ると
「お母様、お父様?」
姉様の声が聞こえ、慌て声が聞こえた方向に振り向くが黒い布に視界に広がり戸惑うも、見慣れた背中であることに気付き
「フレディ」
背中の主のみにだけ聞こえるように小声で呼びかけるも反応は無く、ただ警戒心が強くなった事は分かった。
見える範囲で現状を確認すると、驚きと戸惑い困惑しているお母様の表情に警戒し顔を強ばらせてながらもお母様を背に庇うお父様。
「フレディ」
嬉しそうに自分の従者の名を呼ぶ声にフレディは体を強ばらせ何が起こっていも対応できる様に警戒体制に入った。
「あのね、フレディ。これを」
何か差し出しているのであろうと想像できる言葉にフレディは動く気配は無く、見えない場所で起こっている事にフレディと両親の反応を見ながら想像するしかできず、
自領にいる姉様がどうしてここに?
ないより急に現れたのは何故なのか。
まだ自分達が知らない魔法があるのか?
それとも、姉様に扮した何者かが侵入して来た?
もし、侵入者ならば何が目的だ?
姉様が自領に居る事は王家も高位貴族も各国の外交官も知っている。
それなのに姉様に扮してやってきた意味はなんだ?
我が家にある物といえば、姉様の発明した生活魔法道具は市場に出ている物ばかりだ。
最新のアイロンもつい最近発売になり即完売はしたが貴族のほとんどは手に入れているはず。
となると、他国からの侵入者だろうか?
「あの、エスメです」
戸惑いながら自分の名前を告げる者に
「君が娘だという証拠はあるかな?」
長として警戒を表に出したお父様の問いに
「しょうこ」
口籠もりながら返した言葉は困惑し戸惑いを表しており、
いつも笑顔で元気の姉様からは考えられない程の弱々しい声に、心が痛むが、侵入者の可能性も捨てきれず黙り込んでしまった者に雰囲気を探ろうと神経を尖らせる。
どれだけ待っても声が聞こえず、警戒心を強めるとゆらりと慣れた魔力を感じ、
「姉様」
自分の姉だと確信を持って呼びかけると、反応を示したのかフレディとお父様に部屋にいた使用人の警戒が強まると同時に、
姉様から魔力が溢れゆらりと広がり部屋を覆ってゆく。
今までとは違い、不安手に揺れ蠢く魔力は姉様の心情を表しているようで両親を見れば、姉様の魔力の漏れに気がついた様で、驚きの表情をしており、
フレディの背中から出ようと動くも、
「ルーズヴェルト公爵様、伯爵夫人。突然の事でご迷惑をおかけし大変申し訳ございませんでした」
他人の様な呼び方に、驚き動きを止めると
「エスメ、待って頂戴」
お母様の慌てた声に
「待つんだ。リリー」
お父様の背から出ようとしているお母様を肩を抱くように抱きしめる中
「わたくしが自分の産んだ子供がわからないとお思いですか!?」
声を荒げるお母様の姿に危機感を感じ
「姉様」
呼びかけるも、返事は無く
「エスメ、行かないで」
手を伸ばし懇願するお母様と何か言わねばと唇を動かしているお父様の姿に嫌な予感がし、動きを制してくるフレディを制しながら
「姉様」
名を呼び顔を出すと、光に包まれ透けている姉様の姿に
「姉様!」
振り向いて欲しくて、顔を見せて欲しくて、いつもの様に笑顔を見せて欲しくて、
自分はここにいるのだと気づいて欲しくて、今まで出した事のない程の大きな声で呼びかけるも
姉様は聞こえていない様で段々と薄くなる姿をただ見送る事しかできなかった。
「エスメ、さま」
声を振るわし姉の名を呼ぶフレディと、座り込み体を震わせているお母様を慰める為に背中を撫ぜるお父様を横目にフレディの背中から出て先程まで姉様が立っていた場所に立てば、
つま先に何かが当たり、膝を曲げ拾えば、
台座に魔法石が鎮座しチェーンが付けられており、
先程の何かを差し出したと取れる言葉はコレの事を言っていたのか。
よくよく見れば、純度の高い魔法石でランクも上位の石であることが分かった。
フレディに渡しに来たのだろう。
だけど姉様もなぜ自分が王都の屋敷に居ることすら解っていなかったんだと思う。
自分は何者でもない自分なのだと、いつもの声と態度で告げて欲しかった。
いや、自分勝手な願いだな。
お父様も傷ついた表情をしているが、家長として正しい判断した。
だから攻める事は無い。
自分だって、お父様と同じ行動をとっただろう。
姉様の持ってきたアクセサリーを見つめているとお母様が気持ちを立て直した様で、手早く自分とメイドとお父様専属の従者に指示を出し動き出す。
呆然と立ち尽くしているフレディの手を握り、
「お母様、僕も手紙をお願いしたいのですが、できますか?」
告げれば、笑顔で是と返事を貰えたので手早く挨拶をし、動きの鈍いフレディを引っ張り部屋を出て足速に自室へと入り、未だ呆然としているフレディと向き合い
「フレディ、守ってくれてありがとう。感謝している」
従者として最善を尽くしてくれたフレディに感謝を述べると、
「ディラン様」
ぼんやりとしながらも目に光が戻り、戸惑いながらも頷いてくれた、が、
「主としてはとても感謝している。でも、姉様の弟としても怒ってもいる」
対応の出方について、怒っているだと告げれば大きな体を揺らし、視線を様も彷徨わせるが
「だから、フレディと姉様の仲直りに僕はいっさ手を貸さない」
少しでもフレディの中にある心が軽くなれば良いと思い、心優しい従者に告げれば
「かしこまりました」
頷きが帰って来たので意図は伝わったのだろう。
「ゆっくりしている暇はないぞ」
自分に言い聞かせ動き出す。




