姉、理解が追い付かない。
紙刺繍の工房を立ち上げからは毎日があっという間に過ぎ去り、気が付けば数ヶ月達、ミランダとコナーさんと出会ってからは更に加速した気持になり、
「あまりにも時間が足りないから、朝早く起きるようにしているのに時間が足らない」
数枚の書類の確認とサインを済ませ、テアさんに書類を手渡し、椅子から立ち上がりソファまでの短い距離の間にポツリと溢せば、
「お忙しいのは理解しておりましが、体を休めていただく事も忘れないでくださいね」
紅茶を差し出しながら心配そうなハンナさんの表情と言葉に、微笑み、
「そうですね。気を付けます」
返事を返し、紅茶を一口飲み口の中に広がる香りと少しの渋みを楽しんでいると、
「本日は雨ですので、午後からのお出かけは馬車を用意させますのでご利用ください」
テアさんの言葉に、上半身を捻り後ろにある窓から外を見ると、ガラスには水滴が流れ落ちいつも見えている木々が白いモヤの中に見え、早朝より雨脚が強くなっているのが解り、
「心使い、ありがとうございます」
テアさんにお礼を告げると、微笑み返してくれ
「では、私は奥様に書類を提出して参りますね」
一礼をして部屋から出ていく姿を見送り、ハンナさんにソファに座って貰い話し相手になってもらい
「それで、ルイはミランダの手を握って走って行ってしまって、慌てコナーさんの手を引っ張って追いかけました」
数日前に街に出かけて出来事をお茶請けに話をすると
「話に聞く吟遊詩人ですね」
ハンナさんから返ってきた言葉に首を傾げ
「ご存じなのですか?」
尋ねると、
「はい。隣国である1つの国では有名な話を歌ていると聞き及んでおります」
真剣な表情で告げられた言葉に
「有名な話ですか?」
つい尋ね返せば
「なんでも次期国王殿下と平民上がりの少女との身分を越えた恋話です。皆が好きな話ですからあっという間に話は広がります」
屋敷に働いている者の中には休み中に聞きに行った者までいるそうですよ。
コロコロと笑いながらの言葉になんとも言えない複雑な気分になり、心の中でため息を落とすと、
「確かに噂というのは話せば話す程大きく膨張し、嘘か本当か分からなるものです」
先程関わり、急に真剣な表情と硬い声になり告げられた言葉に真剣に頷き返すと、
「どんな話も鵜呑みにせず、1度自分の知識と照らし合わせ、調べたりなど話の本質を見抜いていただけると嬉しく思います」
視線を合わせ、告げられた言葉に短く返事をしながら返事を返すと
「エスメ様は吟遊詩人の歌を聴き、どう思いましたか?」
硬い表情を少し綻ばせばながらも、硬い声のまま尋ねられた言葉に
「おかしいと思いました」
歌全体の感想を短く伝えた後、
「男性には婚約者との個人感情は分かりませんが、違う女性と恋に落ちるのは良いと思います」
思うだけならば自由だ。
迷惑さえかけなければ。
だけど、貴族間との結婚は感情だけではなく権力関係や家の為などの破棄できない契約で結ばれるのが常識で、吟遊詩人か歌う婚約者の関係はどこも変では無い。
けれど、
「婚約者の貴族女性がいじめを行ったという所に、まず引っ掛かりを覚えました」
いじめの話がとても庶民よりで驚いた。
教科書を破いたり、噴水や階段から落としたり。
前の人生の記憶があるので、いじめは犯罪。
そう心身に染み付いている。
が、工房経営の勉強をしていると、なんとなく妨害に遭っているのではと感じる書類をみる事がある。
それとなく、気付かない様に小さい物から
見せしめる気付かせる様な大きな物まで。
貴族は見栄と自尊心が高い人が多い。
前世の社会人として母親としての経験と今世で学んだ事を合わせ考えると、どうも引っ掛かりを覚えてします。
「女性に怪我がないのは何よりですが、貴族女性ならば学園に辞める様にする事など簡単でしょう」
手間暇と労働を考えるなら手っ取り早い方法が早い。
前世の様な社会ならまだしも、今世は身分制度がある。
平民からの貴族への養子となっても、マナーや貴族間の関係、自領の勉強など多岐に渡る勉強をそんな直ぐに覚えられるのだろうか?
確かに平民との関係は新鮮で心惹かれただろうけど、王家と貴族との関係は大丈夫なのだろうか?
何より
「女性が隣国の外務省の関係者と王家に対等に渡っていけるのでしょうか?」
ポツリとこぼした言葉にハンナさんが驚いた表情をし
「エスメ様が深くお考えですね」
意外だった様で返ってきた言葉に、
「なんとなくですが、見ている書類やイルさんやお祖母様の動きを自分なりに考えまして」
前世で販売業で様々なお客様対応からも学びました。
など、言える事ではないので、笑って誤魔化しつつ告げれば
「私の考えなど足元に及びませんでした」
どこか誇らしげに告げられた言葉に首を振り、
「たまたまです。それに歌を聞いてすぐは違和感だけで、ルイの浮気野郎と言った言葉に気付いたので」
まだまだです。
苦笑しながら告げれば、ノックの音が聞こえ返事を返すとテアさんが入室して
「浮気野郎ですか?」
テアさんが目を大きく開け驚きのながらの言葉に、改めて始めがら話を始めると、
「確かに浮気野郎ですね」
小さく笑ながらの言葉に、3人で頷き合い喉を潤す為に冷めた紅茶を1口飲みカップを戻すと、
「途中にイルさんとお会いしまして、コチラをお届けするように仰せつかりました」
長方形の箱を言葉と共に差し出されたので受け取り箱を開けると金色のチェーンと台座に付いた魔法石のアクセサリーが現れ、
「今朝、工房から届けられたとイルさんから伝えられました」
箱から取り出し顔の前に掲げると、魔法石とチェーン、小さな台座のみのシンプルなブレスレットは自分好みで
「流石、親方さん」
大雑把に身振り手振りで説明したのみだが、きちんと理解してくれ作り上げてくれた事が嬉しく微笑んですと
「どなたかのプレゼントですか?」
ハンナさんの問いかけに、頷き
「喜んでくれるかな」
渡したい人物を思い浮かべ今、居るであろう部屋といる場所を思い浮かべていると、当人の声が聞こえた様な気がして、受け取った時の反応を思い浮かべ小さく笑っていると、
体が揺れるような気がして、楽しみすぎて笑い体を揺らしているのだと思い落ち着くように深呼吸を仕掛けると、ハンサさんとテアさんの慌てた声が遠くに聞こえ
引っ張られる様に視界が横長にブレれ身体から意識が引っ張り出される感覚に、慌てブレスレットから顔を上げると、
驚いた両親と弟の従者の顔が見えた。
第166話
姉弟の学園が終わりましたらミランダの国にうちの子可愛いでしょとドャしに行く予定です。
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ネタバレを含みますが短編に本編終盤の弟ディランの心境と日々を書いております。
お時間ありましたらお読みください。
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