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姉、工房で歓迎を受ける


午前の休憩の時間を狙い、紙刺繍工房に向かう為にイルさんと馬車に乗りゆっくりと流れる風景をぼんやりと眺め、お祖父様からのお使いと手渡されたお小遣いを握り締め、ぼんやりと外を眺めていた。


「すまないが、焼き菓子を買ってきてくれないか?」


眉を下げ申し訳なさそうに告げてくるお祖父様に頷き返事を返すと、


「エスメが気に入った物、食べたい物でいい。帰ってきたらその菓子で皆でお茶をしよう」


大きな掌と首が左右に揺れる程力強く頭を撫ぜてくれ、見送りをしてくれたお祖父様を思い出し、お使いで買うお菓子と店の候補を頭の中で考えてゆく。


街に着いたら、お祖母様のご贔屓のお店に頼んでいた差し入れのお菓子を受け取り、その足で工房へ行く予定だけど、


「イルさん。差し入れを取りに行く前にお使いの焼き菓子を注文しに行きたいです」


正面に座っているイルさんへお願いを告げると


「畏まりました。お店はどこかお決めになりましたか?」


普段と変わらぬ微笑みでの問いかけに、


「祭りの時に、料理長のお友達お店にお邪魔して食事をいただいたのですが、とても美味しくお祖父様お祖母様に食べて貰いたいとディランとフレディと話していたお店です」


頷き、返事を返すと、


「お話を聞かせいただいた店でございますね」


微笑みを深くし頷いてくれ、


「はい。とても美味しいお店なんです」


お祭りの日のディランとフレディの美味しそうに微笑みながら食べる姿を思い出し、告げると


「それは楽しみでございますな」


朗らかに微笑むイルさんに頷き、馬車を街の入り口で止めイルさんの手を借り馬車から降り、そのまま手を繋ぎ、足早に大通りから奥へ進み目的の店に入ってゆく。


「いらっしゃい」


元気な女性の声に


「こんにちわ」


同じ様に挨拶を返すと


「これはお嬢様。お久しぶりでございます」


キッチンから慌てクックが飛び出し前に立ち挨拶を返してくれた。


「お久しぶりです」


淑女の様に微笑みながら返しつつ、


「実はお願いがありお邪魔しました」


来店理由を告げると、大きな体を小さくし恐縮しながらも頷いてくれたので、


「食事を中心としている事は解っているのですが、持ち帰りの焼き菓子をお願いしたいのです」


申し訳なく思いながらお願いを告げると、目を見開き、


「焼き菓子でございますか?」


驚きの声に眉を下げながら微笑み返し、


「お祭りの時にいただいた食事がとても美味しく、ですが中々お邪魔し食事をする事もままならず。でもどうしても食べたく思いまして」


普段よりゆっくりと言葉を告げ、呼吸1つ分開けた後、


「我儘は重々に理解しております。が、叶えていただけませんか?」


先程と同様にゆっくりと告げると、クックにも伝わったようで、


「かしこまりました」


小さくしていた体を背筋を伸ばし深く頷き返事をくれた事にほっと息をこぼし、


「ありがとうございます。アフタヌーン前には受け取りに来たいと思います」


淑女らしく微笑みとお礼を告げ、イルさんと共に店を出て今度は大通りにあるカフェにより差し入れの焼き菓子を受け取り、工房へと足を踏み入れれば、


「少しお待ちください」


ボーイからの言葉に頷き引かれた椅子に腰を下ろし外を眺めていると、幼い姉弟の姿が目に入り微笑ましく眺めていると、身長の差からかどうしても姉の速さに弟がついて行けない様で、


「お姉ちゃん、待って。置いていかないで!」


必死に足を動かし声をかけるもその差は開いてゆくばかりで、必死に姉を呼び止める弟の声にようやく姉が振り向き、


「もう。置いて行くなんてしないわよ」


呆れながらも弟が追いつくまで立ち止まり待っていると、置いて行かれないと安心したのか弟が泣き出してしまし、


「ごめん。もう、泣かなくても良いでしょ」


どこからかハンカチを取り出し、下を向き泣いている弟の涙を拭う為に膝を曲げ高さを低くし涙を拭うと手を繋ぎ、どこかへ歩いて見えなくなってしまった。



ディランに会いたいなぁ


泣いていた弟が言葉にできない感情に戸惑い苛立ち泣いたディランと重なって見え、寂しさを感じると鼻の奥が痛くなり瞼に水分が溢れくるが、瞬きで誤魔化し、普段と変わらない微笑みをしているイルさんの視線を感じ微笑み返し、


受け取った差し入れをイルさんに託し工房へお邪魔すると


「まぁ、お嬢様。忙しいのに良くきてくれたね」


大きな声と歓迎の言葉に、先程まで感じていた寂しさがどこかへ飛んでいってしまし、釣られるように明るい気持ちになり、


「こちらこそ、お忙しい中お邪魔してすみません。こちら差し入れです」


笑顔でお詫びと差し入れを伝えると、イルさんが1歩前に出て出迎えてくれたご婦人に箱を見せれば、


「こんな立派なお菓子。気にしなくてもいいのに。でも、ありがとういただくよ」


笑顔で受け取ってくれ、


「皆!差し入れを貰ったから休憩にしよう」


針を刺していたご婦人達へ声を掛ければ一斉に嬉し言葉と楽しそうな言葉が至る所から聞こえ、皆が机の上を片付け終え、用意されたお茶を手に持ち各々が楽しむ中、


出迎えてくれたご婦人の隣に座り、その隣にイルさんが腰掛けご婦人達の休憩に入れて貰い、


「こちらの配慮が足らず、急に忙しくなりすみませんでした」


予想外の王都からの注文と王妃様からの注文と激務になり、ずっと言いたかった事を言葉に出し伝えると、


「いいのよ。忙しい方が張り合いがあるってもんよ」


「そうよ。それに自分達が作った物が誰かに喜んで貰えているなんてこんな嬉しい事はないよ」


「王妃様にも気に入ってい貰えて、私達も鼻が高いってもんよ」


各所から聞こえた言葉に微笑み返し、ありがたく思っていると


「何より、女1人でも稼げるというのはありがたい事よ」


少し遠くから聞こえた声に視線を向ければ、


「人生、生きてれば色々あるさ。でもこうして手を差し出してくれる人と場所がある。とてもありがたい事だよ」


端のに座っているご婦人の言葉に、頷くだけに止めると、


「そういえば、お嬢様。知ってるかい?なんでも隣国では庶民上りの女性を虐めていた貴族の女性を王様が懲らしめて、庶民上がりの女性と結婚したんだって」


内緒話をするかの様に雰囲気だが、大きな声で告げられた言葉に驚きつつも


「なんだか、物語の様ですね」


返事を返すと、


「でも、続きがあって、貴族の女性は虐めて無かったと言うんだよ」


真剣な表情で話す言葉に眉間に皺を寄せ


「それは」


言葉を濁し返すば、


「ろくに調べずに寄ってたかって懲らしめたそうだよ」


「ひどい話だよ」


各が感想を漏らすのを聞きながら


前の人生でよく読んだ話だけど、本当にあるんだ。


心の片隅に感想を溢した。


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