姉、家令の思い出でを聞く
多忙の時が落ち着だし、イルさんの提案で良く庭でのピクニックの回数が多くなってくると、
心にゆとりができ始めれば、じわりじわりと黒色の感情が広がり出し、時折思い出せとばかりに揺らめき心を震わせる事がある。
「紙刺繍工房へですか?」
突然のイルさんの言葉に不思議に思い首を傾げれば、
「工房も流れが出来上がりゆとりができ始めました。長時間滞在はできませんが顔見せ程度なら時間も取れます」
自分より忙しかったであろうご婦人達を思い出すも、突然お邪魔する事に返事が返せないでいると、
「ご婦人達からも許可をいただき、是非と返事をいただいておりますのでご心配には及びません」
心内を読んだのかイルさんから返ってきた言葉に、それならばと
「お伺いいたします」
頷き返事を返し、差し入れの手配をお願いすればお祖母様のご贔屓のカフェの焼き菓子の提案を貰えたのでお願いをし、数枚の書類を手に持ちイルさんの解説を聞きながら読んでゆく。
あの時、嫌々だったけどフレディと勉強して良かった。
数ヶ月前の事なのに遥か昔の様に思い出し微笑んでいると、イルさんの解説が止まり表情を伺っている事に気が付いたので、
「以前、イルさんの提案でフレディと勉強をしていて良かったなぁ。でなければイルさんの解説付きと言え理解できなかったと思うと、イルさんの先見の目はすごいなぁと思いまして」
思い出し笑いをしながら返事を返すと、
「お褒めいただけ光栄でございます。ですが、私もここまで大きな事業が立ち上がると夢にも思いませんでしたので、まだまだ未熟者でございます」
朗らかに微笑むイルさんの言葉に、
「私もです。お祖母様の凄さを改めて実感しました」
釣られるように笑いながら返事を返し、ちょうど良いと休憩を提案を貰えたので椅子から立ち上がりソファへ移動すると、すぐさま甘めのミルクティーがテーブルの上に置いて貰えたので、
「ミアさん、ありがとうございます」
お礼を告たえると、ショートブレットの乗ったお皿を置いてくれた時だったので同じ高さで視線が合い
「お心使いありがとうございます」
お礼にお礼が返ってきた事に、不思議な気分になり互いに笑い合いミアさんが数歩後ろへ下がったので
「いただきます」
カップを手に持ち甘いミルクティーを一口飲み、ほっと息を零した後、もう一口飲みカップを置きショートブレットへ手を伸ばし一口分に割り口の中に入れた。
ミルクティーの甘味の後にショートブレットの塩見が美味しく、無言のまま繰り返した後、フッと思い出し
「そういえば、生活魔法道具もお祖母様の発案で販売する事になったと聞いてますが、本当ですか?」
近くに控えていたイルさんに尋ねると、
「はい。王都から手紙でご連絡が届いた際に奥様から旦那様へ提案され、物が届き皆で試した後、販売を決定が下されました」
「お祖母様の手腕は凄いですね」
関心しながら頷き返事を返すと、
「奥様は生家である侯爵家の跡取りとして勉学に励まれておりましたが、跡取りである弟気味がお生まれになり旦那様の元へ嫁いで来てくださいました」
懐かしそうに目を細めるイルさんの言葉に興味深く頷くと
「奥様は学生時代成績もトップを争う程でまたマナーも気品に溢れ公爵家の淑女の皆様にも一目置かれていたと聞き及んでおります」
誇らしげに話してくれるイルさんの言葉に頷き返けば
「奥様の話を聞いた旦那様は是非嫁に欲しいと、突風の如く馬でかけ顔合わせの約束を取り付けたと思えば、あっという間に最短の婚約を経て結婚となりました」
どこか諦め感じを出した微笑みに、
「最短の婚約期間ですか?」
イルさんの反応に首を捻り、尋ねると
「ルーク殿下やアメリア公爵令嬢の様に幼い頃から始まる婚約もありますが、通常、婚約期間というのは半年から1年程と言われております」
王家と高位貴族は特殊な婚約期間なのだと事例を上げながらも、
「旦那様は、王都へ向かったかと思えば3ヶ月も経たない内に奥様を自領へお連れし、ご結婚されました」
告げられた言葉に何がイルさんをしょっぱい表情にさせているのかわからずにいると、
「エスメ様、婚約期間の最短6ヶ月はウエディングドレスをデザインから制作までの最短時間でございます。
また、遠方のお知り合いへの結婚のお知らせと移動時間とお迎えの晩餐会への準備期間でもあります」
ミラさんの言葉に理解でき手を打ち頷けば、イルさんの心情が少し解り
「異例中の異例だったのですね」
苦笑しながら伝えると、
「はい。大慌てで全てをこなす事ができたのは奥様の手腕あっての事」
あの当時は忙しく、無計画な旦那様に苦言を言いましたが思い出になると微笑ましい気持ちになります。
微笑みながらのイルさんの言葉になんとなく
「今と良く似た感じだった?」
感じた事を漏らすと、イルさんが見惚れてしまうぐらい素敵微笑み
「さようでございますな」
単的に返ってきた返事に背中に冷たい汗が伝うも、
「苦労の後には喜び、時間が経てば懐かしき思い出が待っていると経験し学んでおります。遠慮無くエスメ様の思うままにお動きください」
微笑みが消え、真剣な表情へと変わり
「その動きに応えるのが我ら使用人の仕事であり、誇りでございます」
胸に手を当て礼をするイルさんとその後ろで礼をするミラさんを驚き見つめることしかできなかった。
第157話
新しい月に入りました。亀のごとく進みが遅いのですがこれから暗い話に入っていきます。
なるべく明るく書いてゆくつもりです。
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ネタバレを含みますが短編に本編終盤の弟ディランの心境と日々を書いております。
お時間ありましたらお読みください。
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