姉、勇気を振り絞る
どんよりとした曇空が毎日続く中、キッチンにランドリーの勉強をし続けていると手際が良くなり、手空きの時間が増えてくる。
新しい仕事を任せてもらえる時もあれば、無い時もあるので、毎日時間調整をしながら手を動かしていると、頭に浮かぶのは紙刺繍の進行状態。
自分の刺繍技術は横に置いとくとして、刺繍に慣れているお針子さんが紙に刺繍をすればあっという間に素敵な刺繍が仕上がり、見本ができてゆく。
リーフチェーンも可愛かった。
シンプルに金糸で四隅を直線縫いするだけでも可愛く、銀糸にしても品良く仕上がりいつまでも見つめてられ
灰色の紙色を生かし月と星も可愛くて良かったけれど、今までになかったデザインだったのか驚かれ楽しそうに刺繍してくれてたのを思い出すと、
前世のよく見たデザインは今世では無いのかもしれない。
背中に冷や汗を伝うのを感じつつも、やはり好きなデザインは欲しい欲があり、
気にしないで行くことに決めた。
何より、確かめる行為が手間だと思い気にしない事にし、
本で読んで思い付いた。
文章を読んで想像してみたら可愛いと思った。
など、乗り切ることにした。
そして次に出くる思い付きは紙に色を付けたいだった。
糸の染め粉を知りたくてイルさんに相談しつつ、前回、簀桁に糸を張ったように今回も同じ様にして紙漉きを行い様子を見る。
「書きにくいかも」
羽根ペンの先が引っ掛かり描き直したり、インクが滲んで文字が読めなくなったりと失敗に近い状態にため息をつきつつ、
「書く面ではなく裏面として考えると良いかも」
デザインの1つとして取れる方向に舵を切り、沢山の案を持ちすぎると全部が半端になってしまう為、まずは紙を漉き、見目の良い紙を作る事を中心に進める事に決めた。
メッセージカード程の大きさならば紙の厚みがあっても然程気になら無いだろうとのイルさんの言葉に従い、毎日紙を漉き、簀桁の調整と天日干しと陰干しでの違いを観察する。
「この、紙を漉く道具は枝でも良いのでは無いですか?」
気が付くと庭師のおじいさんが漉いた紙の様子を見てくれたり、天日干しをしている時間の雑談に付き合ってくれたりとしている時の一言に、
「枝ですか?」
思い付きもしなかった言葉に、疑問で返すと
「ええ。わしなりに紙漉きについて聞いてみたのですが、生産国では枝を使い作成していると聞いております」
仕事外の事を気にしてくれていた事に驚きながらも、
「思い付きもしなかったです。探してみます」
朧げに思い出した前世の記憶を引っ張り出しながら頷いて見ると、
「わしに心当たりの枝がありますのでお任せください」
微笑みながらも告げてくれた言葉に、申し訳なく思いつつも本職に任せるのが近道と考え直し
「よろしくお願いします」
お任せするために頭を下げると、苦笑しながら頷いてくれた。
沢山の手を借りて作っている事に申し訳なく思うも、皆が楽しそうに笑い時に真剣に案を出し合っている姿を見ていると、もう仕訳ない気持ちが薄れてきて、
「そろそろ、ディランとフレディに刺繍し送ろうと思います」
自分も動かねばと、練習に練習を重ね、お祖母様から家族内のみならと許可出ているので次へ行動を移すために針と糸を手に、意気込みを告げると
「喜んでいただけると思いますよ」
ハンサさんの笑顔と
「ディラン様もフレディ様も驚かれるでしょうね」
テアさんの言葉に頷き返し、出来上がった中で1番出来の良い紙を手に取りデザインを考えてゆく。
リーフチェーンも可愛くていいけれど、花柄も捨てがたい。
けれど自分の技術ができている範囲が1番良い。
柄の刺繍ではなく文字を刺繍するのはどうかな?
でも、シンプルすぎて驚きが少ないかな?
テーブルの上には見本にとお針子さんやテアさん、ボニーさん、ハンナさんが刺繍した紙が置かれており、1枚1枚手に取り考えてゆく。
四隅を縁取りし、文字の刺繍をしてシンプルに纏めるのが自分のもできるのでは無いかと、紙を指挿しながらデザインを説明したら、
ハンナさんもテアさんも頷いてくれ、ディランには金糸、フレディには銀糸で刺繍することに決め、
深呼吸をし、意識を集中させ、心を奮い立たせ
手に持った糸の通った針で紙に刺した。
1針1針慎重に刺し、時に全体のバランスを見ながら微調整もしつつ、1番伝えたい言葉を作ってゆく。
糸が短くなり、新しい糸を針に通しまた一文字気持ちを込めて針を刺す。
ゆっくりと慎重に刺し、1枚仕上がれば、すぐさま金から銀へと糸を変え同じ図案で刺してゆく。
短い言葉に沢山の気持ちを込めて細い糸を何度も同じ箇所に刺し太くし見易いようにしていく。
なんとか2枚出来上がり顔を上げると、部屋の中に灯りが灯されており、
「お疲れ様です」
ハンナさんの言葉に数度瞬きを繰り返せば、
「テアがイルさんを呼びに行っておりますのですぐに送る様に手配してくれると思います」
言葉と同時に差し出してくれたハーブティに口を付けると体が欲していたのか一口で飲み切ってしまい、すぐさまカップに淹れて貰え、次は1口1口ゆっくりと飲むと、
ノックの音に返事をすればイルさんとテアさんが来てくれ、
「早速、封をし送る手配をいたしますが、手紙はお書きにならずよろしいのですか?」
イルさんの言葉に頷き、
「ディランとフレディには驚いて貰いたいから紙刺繍だけで送ります」
笑顔で告げると、
「畏まりました」
微笑みと共に頷いてくれ、手早く封蝋をし、
「では、明日に送る手配を致します」
2通の封筒を手に持ち、一礼をし退出をするイルさんにお礼と告げ、ハンナさんが準備してくれた晩餐を食べるためにソファから椅子に座り、食事を楽しんだ。
あっという間に終わった1日をベットの中で振り返れば、とても充実して楽しかったと無意識にこぼれた言葉に微笑み、
明日も頑張ろう。
音の無い声をこぼし目を閉じ夢の中へと入っていった。
第152話
センスはどうやって磨かれるのかをグーグル先生に尋ねたところ沢山の案をいただきました。
ブッマークや評価、いいねボタンをいただきありがとうございます。
ネタバレを含みますが短編に本編終盤のディランの心境と日々を書いております。
お時間ありましたらお読みください。
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