父、主人として迎える
息子の従者であるフレディがノック後に慌てた様子に嫌な予感がし手に持っていた羽ペンを置き心整え、どうしたのか問えば、
「エスメ様が平民に肩に担がれ外へ行ってしまいました」
想像を遥かに超えた言葉に声を失うも、
「現状報告を聞きたいディランを呼べるかい?」
なんとか意地と根性と貴族としての誇りで言葉を絞り出すと、返事と共に一礼し退出するのを見送ると、大きな溜息と共に頭を抱え込んだ。
どうしてそうなった。
この言葉がしか頭に浮かばず唸っていれば、自分付きの従者の旦那様と呼びかける声に、ゆっくりと顔を上げ、
「リリーを呼んできてくれる?それと執事も後、飲めないかもしれないけどお茶の準備もよろしく。後、聞き終わり次第王宮へ行くので馬車の用意も」
彼なら言わなくてもやってくれるだろうと信頼もあるが主としてこれからやってくる妻と子供に少しでも安心感が与えられる様に場を整えた。
従者が退出すれば自分しか居ない空間についもう一度ため息を落とし、報告へ行かなければならない場所を思い腹部が痛んだ気がした。
暫くし、顔色の悪い妻のリリーがノック後に入室しソファーへ座るよう促した。
少し震えているリリーを落ち着けるよう隣に座り抱き寄せる。
「旦那様、エスメが外に出たと」
震える声は不安を表しており、払拭してあげたいがそれだけの情報を持ち合わせておらず、
「ディランが全てを見ていたというから話を聞いて判断をするけど、捜索隊は組むから」
外では特殊な存在と扱わるが自分達の子供だが、心配し大事に思うことは悪い事ではない。
「ありがとうございます」
少し安心できたのか顔色は悪いままだが震えは止まっており、互いに軽く抱き合い額を合わせているとノック音が聞こえ、リリーと視線を合わせた後ゆっくり離れ入室の許可を出した。
入ってきたのは顔色を真っ白にし今にも倒れそうな雰囲気の息子ディランと表情の硬い騎士団長に
夫婦で息を飲み、ディランに挨拶寄り先に座るよう促すも
「申し訳ありません」
見ているのも痛々しく深々と頭を下げ謝るディランに
「謝罪は受け取った。まずは座りなさい。その後、報告を聞こうか」
父としての言葉より長として言葉をかけた方が良い気がし、言葉をかければ頷き、リリーの横に腰掛けた後、
いつもの様に箒に跨り飛行の練習を繰り返し行っていおり、休憩に入るとエスメが慌しく
「ちょっとお花畑に行ってくる」
との言葉と共に屋敷とは違う方向へと駆け出した。
おかしいと感じ後を追うも途中から箒で空に飛ばれ見失うが、飛んでる方向へ走れば裏門外にて姉を発見するも、
数人の男性と青年の肩に担がれ姉が連れていたが、その時に
「ちょっと人助けに行ってくるね。行ってきます」
と姉の口から告げられた。
後を追おうと裏門の鍵を持って現れた騎士に開けて貰い、数人の騎士に後を追わせたが街に出られ人混みに紛れられ見失った。
「現段階で分かっている事はここ迄です」
奥歯を噛み締め感情を抑え込み告げられた後、手を握りしめ塞ぎ込みディランに
「お前が悪い訳では無いよ」
出来る限り優しい音で告げるも反応は無く次の言葉をかけようとするがリリーがディランに手を包み込み
「あの子が判断して行ったのなら、貴方は気に病むことは無いのよ」
母親としての慈しみと優しさの音で励ますがそれでも反応は無く、
「こちら側がいくら守ろうと頑張っても本人の意思でその壁を超えてしまったら我々は手の打ちようがない」
そうだろ?ディラン。
地上にしか居られない自分達が必死になりエスメを守ろうとしても本人が選び取り空を飛んで終えばエスメを追いかけ捕まえようと思うのは難しい話だ。
何より気になるのは『人助けに行ってきます』明らかに連れ去った者達と話をしていたことを表している。
ディランが悪い事など何1つ無い。
全てエスメが判断した事。
それはディランも分かってはいるが目の前で起こった事に後悔と罪悪感が湧かなない人間では無い。
うちの子達は優しいすぎる。
育て方を間違えたとは思わない。
貴族になれぬ娘に貴族として領主になる息子。
将来の事を考え貴族としての勉強を平行に娘の事も任せてきた。
出来ればこの件も任せたいが、感情に囚われ顔を上げることが出来ない息子にリリーが抱擁をし
「ディラン。貴方には負担ばかりかけてしまって申し訳なく思っているわ。今回の事もそう。あまり自分を追い詰めないで」
励ましの言葉を聞きなんとか顔を上げることができたのを見取り、
「騎士達と使用人の数名を街に出て、足取りを追えないか聞き取りを。人選は任せるけどあまり目立たせない人物を選んでくれ」
壁に沿うように控えていた執事と騎士団長に命をさせば1礼し退出をする。
なるべく目立たせないようにしたいが、連れ去られた直後に甲冑のまま追いかけているなが相当目立ったはずだ。
噂が立ち探りを入れてくる貴族もいるだろう。
なるべく事を大きくしたくはないが初手は終わった後でどうする事もできない。
陛下と側近の方々と相談しなければ。
リリーとディランの雰囲気から自分は居なくても大丈夫だと判断し、
「僕は城へ行ってくるから屋敷の事を任せるね」
リリーへ告げれば
「お任せ下さい。何かありましたらすぐに使者を向かわせますわ。旦那様もご無理せずに」
女主人として表情引き締めた言葉の後、心配そうな表情の言葉に頷きソファーから立ち上がり、
ディランの頭を撫ぜ従者が開けた扉を出、少し早足で馬車へと向かう。
ガタゴトと揺れ音のする馬車にのり妻の心配する一言と息子の頭を撫ぜ大きくなった事を実感できた事で少し癒されるも、向かう先に事を思うと腹部がキリキリとした。
第15話
お父さんという立場と主の立場という2つを書いて見たかったのですが難しいですね。
ブックマークに評価、そして⭐︎ボタンいただきありがとうございます。
誤字脱字報告、助けていただきありがとうございます。
まだまだ油断できない天候と気温ですのでお気を付け下さい。
ネタバレを含みますが短編に本編終盤のディランの心境と日々を書いております。
よろしけれお読みください。
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