姉、弟はまだ幼子だと思う
見慣れた風景を横目に入れながら、正面に座っているイルさんを眺める。
普段とは違う服装は雰囲気が変わり、毎日顔を合わせているはずなのにどこか心が落ち着かずにいると、
「いかがなさいましたか?」
今の心情は見抜かれているのだろうけれど、言葉にするのは気恥ずかしく、
「お祖父様からいただいたお小遣いをどうすれば良いのかと思いまして」
手の平に乗せてもらってからずっと握っている数枚の金銀のコインを、手を開いて視線を向けると
「旦那様が仰る通り、エスメ様が欲しいものをご購入されるのがよろしいかと思います」
微笑ましそうに告げられた言葉に、数度瞬きをし、
「分かりました。欲しい物を見つけたら買います」
落とさない様に改めて握り締め、何を買おうか思いを巡らせる。
刺繍の本を買っても良いかも知れない。
紙刺繍の為の紙や刺繍糸でも良いかも知れない。
紙の見本に数枚見繕っても良いかも。
あれやこれを思い浮かべながら
「エスメ様は街でどこか行きたい場所や見たい場所などはございますか?」
イルさんの問いかけに、
「紙と刺繍糸を取り扱っているお店があれば、行って見たいです」
先程まで考えていた事を言葉にすると
「かしこまりました。他に何かございますか?」
頷きと共に続いた問いかけに、考え込んでみるが
「今は思い付かないです」
考えたままを答えとして返すせば
「では、気になるお店ございましたらお声がけください」
にこやかに微笑んだ表情と共に聞こえた言葉に短い返事と頷きで返し、イルさんと街に着くまで雑談を始める。
「お祭りの日に街へ行ったのですが、その時はディランとフレディに任せっきりだったので、今日は楽しみです」
楽しかった思い出だしながら告げると、
「さようでございましたか。祭りとはまた違う雰囲気ですのでゆっくりと楽しんでいただかるかと思います」
頷きながら返事を返してくれるので、
「屋台で沢山の買い物をしたけど、ディランもフレディもお金を払わせてくれなくて、姉として少し情けなかったです」
小さく笑いながら誰にも言っていない感情が入った思い出話を続ける
「おやおや」
優しい微笑みで時折頷きや相槌をくれるので、つい
「とてもカッコ良くて素敵だったんです。けど、私も姉としてにディラン喜んで貰いたかったのに」
自分勝手な気持ちも言葉に出てしまい、
「可愛い笑顔で姉様、ありがとうございます。て、言って貰いたかったのに」
唇を尖らせながら出てしまった言葉に慌て、
「ディランは私の事を考えて行動してくれて嬉しかったのに、情けない事です」
苦笑しながら付け加えると、
「ディラン様もエスメ様から、笑顔でお礼を貰いたかったのかと思います」
イルさんのから予想外の言葉に、小さく驚いていると
「そうですな。大好きな人の前ではかっこいい姿を見せたいという男心ですな」
穏やかな微笑みから少し悪戯心を出したように楽しそうに笑いながらの言葉に、
「おとこごころ」
自分より小さなディランの姿を思い出しなら、口の中で言葉を転がすと、
「好きな人の前では見栄を張りたいくなる。そして喜んで貰えれば嬉しくなる者です」
イルさんから告げられる言葉は理解できるものの、
まだまだ子供のディランに男心というのは不釣り合いなような気がして首を傾げると
「幼くても、大人でも、この気持ちは変わりません。大好きな人には常に笑顔でいて欲しいと願う物です」
イルさんの言葉に納得しつつも、
自分に中にもある気持ちなので男心とは違う気な。
頭の片隅で思いながら、頷き返し、違う話題へと移ってゆく。
屋台では飲んだ果実の大きく、3人同じ果実を飲んだのに味が違った話。
クックの親友のお店の話や屋台で見た珍しい物の話に
ルイと出会った話。
屋敷ではディランが話してくれたであろう話を自分の感じた事を言葉に出して話してゆく。
イルさんも細かく把握し、何度も聞いたであろう話を嫌な顔をせずに聞いてくれるので、自分主体で話を進めていると、あっという間に馬車は街の入り口に着き、
「では、参りましょうか」
差し出された手に自分の手を乗せ、馬車から降りた。
第142話
外に出た時に思わず「寒い」と声を出してしまう程の寒さで驚きました。
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ネタバレを含みますが短編に本編終盤のディランの心境と日々を書いております。
お時間ありましたらお読みください。
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