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弟は準備をする


「ちょっと人助けに行ってくるね。行ってきます」


裏門の鉄格子から男の肩に担がれ手を振る姉を呼ぶ事と見る事しか出来ず見送ってしまった。


あの後、急ぎ両親への言伝と騎士達へ追うように指示を出したが数刻後に平民に紛れ見失ったと報告を受けた。


姉には王家の影が着いてはいるが、足元にできる影同様に着いているだけの存在で姉を助けるという行動はおこさない。


姉に何があっても助けることは無い。


屋敷の中にある父の執務室に両親とフレディにマルチダそして騎士団長に執事が集まり、先ほど起こった姉の連れ去りの状況報告と現状確認をする為に集まり、目撃者である自分が中心になり報告を行う。


自分の不甲斐なさに音が鳴るぐらい奥歯を噛み締め下を向く中、


「お前が悪い訳では無いよ」


対面に座る父親の言葉にも顔を上げることができず、何も出来ず不甲斐ない自分に怒りと悔しさで手を握り締めると


「あの子が判断して行ったのなら、貴方は気に病むことは無いのよ」


握りしめている手の上からそっと包み込んでくれる。


両親の言葉にそれでも頷く事ができずにいれば、


「こちら側がいくら守ろうと頑張っても本人の意思でその壁を超えてしまったら我々は手の打ちようが無い」


そうだろ?ディラン。


労わるように包み込む様な優しい声に鼻の奥が痛くなり目が潤みだすと、横に居る母から抱かれ、


「ディラン。貴方には負担ばかりかけてしまって申し訳なく思ってるわ。今回の事もそう。あまり自分を追い詰めないで」


耳元から聞こえる暖かく柔らかい声になんとか頷き返すことができた。

ようやく反応を見せた息子の様子に大丈夫だと判断したのか


「騎士達と使用人の数名を街に出て、足取りを追えないか聞き取りを。人選は任せるけどあまり目出さない人物を選んでくれ」


壁に控えていた騎士団長と執事に命を出せば、胸に手を当て一礼をし退室をした。


「僕は城へ行ってくるから屋敷の事を任せるね」


先程の威厳ある声とは変わり、優しい音の言葉に


「お任せ下さい。何かありましたらすぐに使者を向かわせますわ。旦那様もご無理せずに」


屋敷を取り仕切る女主人としての返事と妻としての労りの言葉にを返す。


夫婦の会話を聴き布が擦れる音と共に立ち上がる気配を感じ母親から離れようとするも、抱きしめている腕が緩むことは無く、さらりと頭をひと撫ぜされ心音と共に扉が閉められる音を聞き、1度静まった心が再び乱れ始める。


「大丈夫よ。報告は旦那様が上手くしてくださるわ」


ゆっくりと言葉と共に背中を撫ぜてくれ、荒ぶり始めた心が落ち着きを取り戻し始めた。


「そうね、ディランはエスメが帰ってきたらいっぱい叱ってあげるといいわ」


予想もしていなかった言葉に顔を上げれば、


「エスメには私と旦那様から注意をします。親子の言葉だものあの子も反省してくれると思うけど、また同じ事があれば外へ行ってしまうでしょう。だからね」


心配からかどこか影があった母の表情が一変、悪戯をするかの様な楽しそうな笑みに


「ディランがどれだけ心配したか言葉にして、うんと後悔をさせてあげればいいわ。エスメの事だもの大慌てでしょうね」


両手を胸の前で合わせ、首を少し傾げ品良く笑う姿に呆気に取られるも、母の言葉通り姉の慌てる姿が想像でき、またこの想像がなに1つ間違っていない自信もあり可笑しくて小さく笑った。


確かに姉様は僕に甘い。

すぐに褒めてくるし、抱きついてくる。

挨拶をするかのように大好きと可愛いと言ってくる。


姉の表情と日常の姿を思い出しているとどこからか苛立ちが生まれ、


良い機会だ。少し姉様には反省をしていただこう。


お母様の提案に乗ることにするがあの姉様の事どれだけ効果があるだろうか?


1日ぐらい大人しくしてくれればいいな。


ぼんやりと考え込んでいれば、


「そうだわ!ディランが泣いて訴えれば効果抜群だと思うの」


名案だとばかりに嬉しそうに告げてくるお母様に


「それは最終手段にとっておきます」


もう大人なので恥ずかしいは事できません。

そう言いかけるも、確かに姉には覿面かと思い直し提案を有難く受け取ることにする。


父の優しさ、母の思いやりを感じ重い息を吐き出し母から離れようと体を動かせばすんなりと動く。

体を離してしまうと優しい温もりが無くなりどこか寂しく感じるも、


「ディランは憂いな表情をしていても可愛いわね」


とろけるような表情の言葉に、驚き照れ臭く恥ずかしくなりながら、どこか擽ったく居たまれない気持ちになり


「僕にそんな事を思うのはお母様の姉様だけですよ」


顔中に熱が集まり熱くなるも、フレディの微笑ましそうな視線に気付き咳払いをし無理やり雰囲気を変え、


「お母様の案を成功させる為に策を練ってきます。状況が分かりましたらどんな小さな事でもいいので教えてください」


ソファーから立ち上がり、一礼をし父の執務室を後にし、はやる気持ちを抑え紳士らしくゆっくりと堂々と屋敷内を歩き、自室へと入って行く。


無意識に体の奥から息を吐き出し、座り慣れたソファーへ腰掛け先程の執務室でのやり取りを思い返す。


お父様曰く


『緊急事こそ悟られぬ様に普段より気をつけ何事もないように日常を演じることが必要だ。

私達が慌てこの出来事を大きくしてしまえばエルメの存在が今より危ない物になってしまう恐れもある』


日常と変わらぬ行動心がけよ。


主人の命に皆で頷き、姉が帰るまでは日常を演じる事となった。


姉が居ない非日常が始まる不安と日常を演じる責任の重さに目を閉じ、数度深呼吸をし心の奥にしまい込む。


僕の日常と言えば姉の見守りと諌める事。


「覚えていて下さいね、姉様。絶対に反省と後悔させてますかね」


苦笑するフレディと自分しか居ない空間にディランの本音が大きく響いた。


第14話

姉が行ってしまった後の弟のお話です。この後ご両親の話に続きます。


ブックマークや評価に⭐︎を押していただきありがとうございます。

誤字脱字報告もありがとうございます。とても嬉しいです。


まだまだ天候の不安定が続くみたいで少しでも異変がありましたら行動をしてくださいね。



ネタバレを含みますが短編に本編終盤のディランの心境と日々を書いております。

よろしけれお読みください。

https://ncode.syosetu.com/n4082hc/



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