姉、日常を大切にする
23/01/28 誤字修正をおこないました。教えてくださった方、ありがとうございます。
ディランとフレディの最終日
慌ただしい雰囲気の中、昨日に引き続き朝の練習をディランとフレディと共に終了させ、部屋に戻ると、
「ディラン様、エスメ様、工房から試作品が届いております」
イルさんの出迎えと告げられ手渡された物は予想とおり、蒸気が出る道具の試作品が届きディランと共にはやる気持を抑えつつ、ディランお手元を覗くと、
前世でよく見たアイロンの形をした魔法道具が入っていた。
「早速、ランドリーに行きましょう」
意気揚々とディランの出て握り、部屋を飛び出して行こうとするも
「姉様、お待ちください。まずは試運転をしなければなりません」
ディランの言葉とともに静止を求められ、渋々動きを止めると、
「フレディ、ランドリーに行き捨てても良い布がないか尋ねてくれないか?それとキッチンに行き、油や調味料などを借りてきてくれ」
次々とディランの指示がフレディに飛び、頷きと共にフレディは部屋を出て行く。
「姉様、フレディが帰ってくる間に試運転を済ませましょう」
白シャツに黒色のスラックス。今日から男性の洋服に戻したディランが、アイロンを手に真剣に真面目につげてくる姿がとてもあべこべで、それもとても可愛らしく、
「ええ。そうね」
思わず微笑んで返すも、ディランもイルさんも気にしていない様で、ソファに座るとアイロンを手渡され、
「姉様、魔法を発動させ、ゆっくり、少しづつ魔法を流して下さい」
拳1つ分開けて横に座ったディランの注意にクスクス笑いながら、
「分かっているわ。いつもの事だもの」
アイロンを左手に持ち、アイロンに集中をする。
まずは火魔法を発動させアイロンの底を温める。
蒸気が上がる程の高温まで温めると、今度は水魔法を発動させる。
アイロンの底を冷やさない様に水魔法を微量に行き渡らせ、温度を安定させながら水の量を増やしてゆく。
白く上がる蒸気の量が増えるのを確認でき、
「姉様、お疲れはございませんか?」
羽ペンを手に何かメモを取っていたディランの問いかけに、
「ありがとう。大丈夫よ。まだまだ湯気を出す事はできるけど、どうする?」
濛々と上がる蒸気を眺めながら問いかけると
「では、1度、魔法の発動を止めていただいて、冷めるまでの時間を知りたいです」
ディランの言葉にイルさんが時計を机に置いたのを確認し、
「ディラン。止める合図を頂戴」
高温の蒸気をディランやイルさんに当たらない様にアイロンから目を離さなさず、お願いをすると、
「分かりました。後30秒後に合図を出します。よろしくお願いします」
的確な指示が返り、合図に向け左手に意識を集中した。
ディランの停止合図前のカウントダウンに耳を傾け、合図に合わせ魔法を停止させた。
蒸気が治るのを待つも、中々静まらず集中を解いたからか重みで腕が震え出し、持っているのが辛くなってきたが、高温のままのアイロンを置く事ができず、必死で持っていると、
「エスメ様、お預かりいたします」
両手で持っている事に気づいたイルさんの言葉に、
「お願います」
震える手と高温のアイロンをイルさんに当てないように気を付け手渡し、一息つくと、
「やはり、重いですか?」
眉を下げ、心配してくれるディランに笑顔で
「長い時間、持ち上げて使うと人によっては疲れてしまうかもしれないわね」
図案を書いている時に、アイロンを底の部分は鉄で作る事はすぐに決まったが、持ち手を中心とした部品と魔法石を埋め込む部分はどうするか話し合ったものの、
「こういうことは職人さんにお任せするのが1番良いと思うわ」
いつまでも終わらない議論にさまざまな案が混ざり合い混乱と集中力が切れてしまったので、自分なりに出した答えを声に出した所、あっさりと採用され、
「そうですね。僕達よりも工房の職人達が知識も経験も多いですから、良い方向へ進めてくれるかもしれませんね」
ディランの一言で、先ほど出た案を数枚にまとめ、職人届けた所、持ち手は木製になり、魔法石は底の中心部にある凹みに設置されており、アイロンを使用しても邪魔にならない。
また、鉄でできているため長年使用できるし、持ち手の木製は使えば使う程、飴色へ変化が楽しめる。
愛着が持ちやすいアイロンとなった。
ディランの発案した物が形となりお祖父様とお祖母様の元へ運ばれ、使用許可が出ればランドリーメイドが使用できる。
これがあれば、皺伸ばしも簡単にできるし、油汚れもその場で出て移動と時間の節約ができるので仕事が早く終わる事ができる。
良い事付くめのアイロンを眺めていると、ノックの後、ディランの入室許可の声の後にフレディとラントリーメイド長が一緒に部屋へ入ってくた事に首を傾げると、
「ディラン様とエスメ様の発案した物を見たくフレディさんに我儘を言い連れてきていただきました」
突然の訪問、お許し下さい。
メイドの礼を取りながらの言葉に、
「構わない。忙しい中、来てくれてありがとう。今日中にはメイド長にも使用してもらい意見を聞くつもりだったんだ」
ディランの返事にメイド長が頭を上げ、イルさんが持っているアイロンに視線を向けたので、立ち上がり
「メイド長。これは手に持って使う物で」
イルさんからアイロンを受け取ると、先程と同じ様に火と水魔法を発動させ、
「フレディ、手拭の上に皺がある布を置いて欲しいの」
ワゴンに乗せていた布から、手拭いの上に捨てるはずのシャツを置いてもらい、前世の様に水蒸気に当てた後、ゆっくりアイロンをシャツの上に置き滑らせた。
前世ではアイロンは苦手の家事だったため、化学繊維のシャツばかり着ていたけど、今世ではそうはいかない。
みんなは初めて使うのだから、私が率先して使って便利な物なのだと認めてもらわないと。
下手とか苦手など言ってられない。
ディランの為に頑張らなければ。
心の中で意気込み。
皺があったシャツを綺麗に伸ばし、襟の折り目をしっかり付け、袖もアイロンをかけ、
「メイド長。いかがですか?」
アイロンをフレディに手渡し、皺を伸ばしたシャツを掲げメイド長の前に出すと、シャツに手を触れ細かな確認が入ったが、
「素晴らしいですね。熱と蒸気はエスメ様の発案した道具で理解しておりましたが、こうして洋服の上に乗せ滑らせる事で、短時間で終わらせる事ができます」
驚きと嬉しそうに頬を緩めているメイド長の言葉を聞いた後ディランを見ると、小さく微笑んでおり、
「メイド長から見て、この道具は便利な道具に見えますか?」
ダメ押しとばかりに尋ねると、
「勿論でございます。これ程に便利な道具はございません」
深く頷き、力強く伝えてくれた言葉に、
「ディラン、他の実験もやってしまおう。そしてお祖父様とお祖母様の許可を貰いましょう」
釣られるまま、ディランへ向けて告げれば、同様に深く頷いてくれ、
「はい。フレディ、ルイ、メイド長。協力を頼む」
各自、自己判断で動き出してくれたので、あっという間に調味料を使用し、どれだけ落とせるかの実験をおわらせ、
「では、姉様。行ってまいります」
日が傾き出した頃、実験結果をまとめた紙を持ちディランとフレディはお祖母様の部屋へ向かうのを見送り、残ったイルさんとメイド長をで片付けを手早く終わらせ、
「お疲れ様でございました」
イルさんに促され、ソファに腰掛け淹れたばかりの紅茶を一口飲み喉を潤す。
「エスメ様、明日のランドリー仕事はお休みされてはいかがですか?」
メイド長から告げられて言葉に、突然の言葉に驚き返事を返せずに入りと
「ディラン様とフレディさんは明日、王都へ向かわれると聞いております」
続けられた言葉に、息を飲み、動きを止めると
「クックとも話しました。明日は全ての仕事をお休し、ゆっくりディラン様とフレディさんとお過ごしになるのも良いかと思います」
心配そうな表情で気遣いをくれるメイド長に心使いに嬉しく思うも
「お気遣いありがとうございます。だからこそ、特別な事はせず、2人を見送りたいと私は思っております」
お礼と共に、別れる事を特別な思い出にしたく無いのだと告げれば、メイド長は瞬きより少し長く瞼を閉じた後、
「いらぬことを申しました。クックには私からエスメ様のお言葉を伝えておきます」
メイドの礼を共に告げられて言葉に、慌て
「謝らないでください。メイド長さんとクックのお心使い嬉しく思います。でも、特別な事をすると寂しさが膨らんでしまいそうで」
尻窄みになりながらも自分の気持ちを告げると、2人に申し訳なく思い、
「ダメですね。私、お姉ちゃんなのに」
愛想笑いをし誤魔化すと、イルさんが飲んでいたカップを下げ、
「蜂蜜入りのミルクティーはいかがですか?」
「私はキッチンから、ティーフードと晩餐はディラン様のお部屋にて行う事を、メイド達に通達してきますわ」
大人の対応で見て見ぬふりをしてくれた2人に
「お心遣いありがとうございます」
笑顔でお礼を告げ、ディランとフレディを待った。
第128話
花冷え所か寒の戻りで衣替えを終わらせてしまったことを悔やんでおります。
皆様、温度差に気をつけご自愛ください。
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ネタバレを含みますが短編に本編終盤の弟ディランの心境と日々を書いております。
お時間ありましたらお読みください。
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