姉、弟と従者を連れ仕事をする
ゆっくりと暗闇が白みがかり、肌に当たる空気が冷たく瞼を開けると、鷹色が目に入り
ディランの部屋だぁ。
動きの鈍い頭でぼんやりと手を伸ばすが、
起こすにはまだ早いわ。
ゆっくりと音を立てないように慎重に動き、前日にフレディが用意してくれた衝立に身を隠しメイド服に着替える。
大きな姿見の鏡を使いながら髪の毛を纏め上げ室内帽に入れ込むと、扉の開く小さな音が聞こえたので衝立から顔だけを出すと、
「エスメ様、おはようございます」
小さな声での挨拶に微笑み
「おはようフレディ」
挨拶を返し衝立から出てフレディの元へ行くと室内帽が乱れていたのだ手早く直してくれた。
「ありがとう」
「どういたしまして」
互いに小声での会話に笑合い夢の中にいるディランへ近づき、そっと寝顔を眺めると気持ち良さそうな表情に
「起こさず、ずっと見ていたい」
心から溢れ出た感情を言葉で落とすと、
「確かに忍びないですが、起こさないと拗ねてしまいますよ」
毎日、ディランの寝顔を堪能しているフレディの言葉にグッと言葉を詰まらさせるも
「そんな表情も見たい」
様々な葛藤と感情が溢れ出てしまい両手で顔を隠すも、
「エスメ様、急ぎませんと間に合いませんよ」
いつもの事とさらりと流されてしまい、
「フレディは毎日この葛藤と闘っているのね」
苦渋の選択をし、出ているディランの額からこめかみを撫ぜ、
「ディラン。起きて」
声の大きさを普段と声に戻し伝えるも、
嬉しそうにへにゃりと笑うディランに歓声を上げかけ、慌て両手で顔を覆い叫びたい衝動を抑える為に顔を上に向け
「かわ、かわいい」
もうだめ。
ほんとむり。
ボソボソを言葉をこぼしている間にフレディによってディランが起こされ、気が付くと着替えまで完了しており、
「お着替えの手伝いしたかった」
未だ治らない感情の嵐と表に出さないようにしつつ、言葉を溢せば
「お心使いありがとうございます。いつもフレディに手伝って貰ってますので大丈夫ですよ」
苦笑と共に返された言葉に口を開けるも、
「ディラン様、エスメ様、時間が迫っているのでは?」
フレディの言葉に、窓を見ると、藍色の空から太陽が登り始めているようで明るくなり始めており、足早でキッチンへと向った。
寒の戻りなのか昨日より温度が低く、誰もいないキッチンはいつもより寒く感じ
「待っててね。すぐ釜に火を入れるから」
ディランとフレディと離れ、小走りに釜戸の前にしゃがみ、火打石を使い薪に火をつける。
火がついた釜から熱が広がりキッチンが少し暖かくなったのを体感した後、
「外に水を汲みに行くってくるから、ここで待ってて」
木で作られたバケツを手に外へ行こうとするも、
「僕もご一緒させてください」
ディランとフレディが慌て着いてくる姿に、
「外は寒いから中で待ってても良かったのに」
横に並び、歩くディランに言葉を告げれば、
「いえ。姉様の働く姿を全部見たいのです」
首を緩く振り告げてくるディランに
「失敗しないように頑張らないとね」
嬉しく思い、少し茶化しながら伝えると。
「失敗しても姉様らしくて良いと思いますよ」
微笑みながら返してくれたディランの言葉を聞きつつ、井戸から水を汲みバケツへと移しキッチンへ運ぶことを見守ってくれているディランとフレディを連れ繰り返し、最後の1杯を汲みキッチンへ戻り、パンの発酵具合を3人で眺めていると
「おはようございます」
キッチンメイドやクックがキッチンに集まり、ディランとフレディと離れ朝のメニューの説明を聞き皆がそれぞれの仕事を始める。
お皿の柄を確認し、カトラリーを磨き、使用した道具を洗い終わり、ひと段落し
「お待たせ」
壁側に立っていたディランとフレディに声をかけ、いつもの様に食堂へ移動すると、失礼にならない様に珍しそうに周りを見ているディランをフレディに託し、
3人分の食事をトレーに乗せて貰い、着席しているディランの前に置くとフレディが手早く配膳してくれた。
「いただきましょう」
前に置かれている野菜たっぷりのスープとパンを珍しそうに見ていたディランに声をかけ食事を始めると、たわいの無い話で花を咲かせるも、
「そろそろランドリーに行く時間ね」
持ってきたトレーに空になった皿をフレディと集め、
「ごちそうさまでした。美味しかったです」
作ってくれたクックにいつもの様にお礼をいい使用した皿を洗っていると、
「ごちそうさま、美味しかったよ。いつも美味しい食事ありがとう」
ディランの声が聞こえ横目で見ていると恐縮しているクック長と真剣な表情で話しているディランの姿を眺め手早く終わらせると、
会話を終わらせたのかディランを目が合いそのまま3人でランドリーへと移動した。
「おはようございます」
いつもの様に挨拶をすると、作業を始めていたランドリーメイドの皆から挨拶が返り、
「ディラン、フレディ。暑かったら部屋から出て待ってても大丈夫だからね」
湯気が立ち込めるランドリーに入り、腕捲りをしながら伝えると、
「分かりました」
頷き、邪魔にならないように壁側へ移動するディランとフレディを横目で見ながら自分のメイド服を洗い、食事に使用したナプキンを湯気に当て、冷え固まった油を溶かしてから洗剤を使い洗ってゆく。
何気に前世で覚えた事を実行してみた所、手早く、綺麗に落とせたのでその後は全員で湯気を使用し襟についた汚れや、食事用のナプキン。
シャツのシワにと大変活躍している。
いつもの様に、2人がかりでシーツを洗いに入る。
今日は途中で終わる事はなく、全て終わらせると
「お待たせ、ディラン。フレディ」
ずっと壁側にいた2人の元へ早足で近寄る。
「お疲れ様でした」
「お疲れ様でございます」
ディランとフレディから労りの言葉を貰い
「ありがとう。でも、皆に比べると大した事ではないわ」
微笑みながら返すと、
「皆もご苦労様。いつも綺麗で皺のない洋服を用意してくれありがとう」
ランドリーにいる全員に向けてのディランの言葉に全員が礼をとり、
「勿体無いお言葉」
ランドリーメイド長の言葉に
「ところで、あの湯気の出る装置は固定器具なのか?」
視線を動かしながらの言葉に、
「はい。エスメ様のご提案をいただき、旦那様、奥様に設置していただきました」
礼を解いたメイド長の言葉に少し考え事をしているディランをフレディと見守っていると、
「手持ちできる程の大きさにすれば、移動が少なくなるしもっと便利になるのでは」
真剣な表情で零された言葉に
「ディラン!あなた天才だわ」
言葉に意味を理解し想像してみた所、便利すぎる事に気付き思わず抱き締めると背中を数度軽く叩かれ、離してくれの合図に従い手を解くと、
「図案と火と水の魔法石の準備をせねばなりません」
頭の中で形が出来上がっている様で、
「そうね。善は急げと言うわ」
フレディに視線を送り、頷きの返事を貰い、
「メイド長。申し訳ないのですが、これで失礼します」
メイド長へと退出を告げると、頷きで返事を貰い、足早にランドリーを後にしディランの部屋へと流れ込む。
慌てている雰囲気を察したイルさんは、紅茶の準備の手を止め机の上を整え直してくれ、フレディは紙に数本の羽ペンとインクと魔法石を準備してくれ、
「ディラン、火と水の魔法石で良いのよね?」
透明な魔法石を手に取り確認を取ると
「はい。失敗も見込んで大目にお願いします」
既に羽ペンを手に持ち、紙に向かって書き始めているディランの姿を見つつ、1カラット程の魔法石に魔法を発動させ込めてゆく。
設計図を見ながら、全員で案を出し2つの形にまとめ、お祖母様の元へディランがフレディを連れ、製作の許可をとりに退出すると、イルさんとテーブルを片付けに入る。
お祖母様の許可が出れば、今日中に工房へ届けられ、試作が作られる。
早くて明日に試作品は届けられるはず。
出来上がりを楽しみに、片付けを終えソファに座ればイルさんが紅茶を用意してくれ、
「ありがとうございます」
お礼を告げ、一口飲み喉を潤す。
「数度しか体験しておりませんが、図案の作成は楽しゅうございますね」
少年の様な表情をしながらのイルさんの言葉に、
「私もこの時間が1番、楽しくて好きな時間です」
頷きながら、返事を返す。
今回みたいにあっさりと出来上がる図案もあれば、行き詰まり数日かけてもできない図案もある。
毎回、自分は前世の記憶に頼り発案をするが、ディランとフレディは自分の知識を考えをまとめ、息詰まると、柔軟な考えで閃き発案を出してゆく。
どれだけ努力し時間を作り出し本を読み知識を蓄えているのか目に見えぬ努力に尊敬している。
その反面、ズルしている気持ちにもなるが、そこは魔法石の作成をする事でディランとフレディに貢献できるようにする事に決めている。
誰にでも得意、不得意がある。
それを認めて助け合い、カバーし合えれば良い。
1人心の中で自分を慰め納得し、まだ魔法を込めていない石に魔法を込めた。
第127話
桜が満開になると、なぜか天気に敏感に反応してします。今年は入学式まで桜は咲いているといいな。
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ネタバレを含みますが短編に本編終盤のディランの心境と日々を書いております。
お時間ありましたらお読みください。
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