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宰相家、御子息は想う


相変わらずの灰色の雲が空を覆い、強い風が時おり硝子窓に当たる音を聞きつつ、先程の休憩時に飲んだ紅茶の残り香がある自室で、従者から手渡された手紙に目を通す。


とある人物と仲を深めてこい。


父からの命を受け、会いに行った人物からの手紙に逸る気持ちを抑え文字を読んでゆく。


相変わらず姉弟は仲が良い様で、微笑ましく思い読み続ける。


ご息女は相変わらずの様で、日々笑い、楽しみ過ごしている様子が手に取るように詳細に書かれている。


毎日、同じ部屋で過ごし共に勉強をしている話


時おり行われるお茶会にご息女は期限を損ねている話。


ご息女が自分の事になると無頓智で困っている話。


父の命に従い仲を深めてはいるものの、ディランの警戒心の無さと裏表の無い性格に驚いたが、


権力争いに嫌気がさして王都を離れた一族だったな。


家庭教師や従者からの教えと父からの


「貴族間での腹の探り合いは相手が苦手としている」


「表情や雰囲気に全てが出ているので探る必要は無いとは思うが気を告げる様に」


公爵家に行く心構えを頂き、頭の中で違和感を感じた。


また、将来、国と共に支える殿下からの


「僕より緊張していて申し訳ないけど、可哀想に思えてきてね」


僕達のスケジュールの都合で先んじてお茶会というなの面談へと行った殿下の言葉に、そうだろうと頷き聴き役に徹してれば、


「ご息女が、楽しそうに悪戯を仕掛けますと全面に出してディランの後ろから忍び寄ってくるんだ。その姿が可笑しくてね」


愛おしそうにご息女の話をする殿下に違和感を感じるも、


「自分が少しでも反応をしてディランに気付かれたら失敗してしまうのではと、我ながら情けなくも緊張してしまったよ」


殿下の中では良き思い出になった様で嬉しそうに話は続き、


「驚かされたディランの顔をご息女のしてやったりと笑う表情が面白くてね」


声を弾ませ話す殿下の姿に、


これでは冷静にご息女の判断を下せていない。


そう判断し、帰宅後すぐさま改めて公爵家の調査を自分の従者へ出したが、何度調査をしても返ってくる答えは、同じで、


自分の目で確かめるしか無い。


決意を改めて行い、当日を迎えたがディランは冷静に貴族として動いているつもりだろうが、物心つく前から人間関係の裏表、人間の欲望というものに触れきた自分にとっては瞼を閉じていても、ディランが何を考えどう思っているのかが手に取るように解り、


なるほど。

殿下の言葉も一理あるな。


相手が何を考え、どう言って欲しいのかを考えなくて済むが、今後、王都で過ごしていけるのかが心配にもなる。


茶会の席に案内をする為に、横を歩くディランとその少し後ろを歩きディランの従者の視線が忙しなく左右に動かす事に悟られない様に警戒心を働かせるも、


なるほど。

ご息女が姿を現さないかを警戒していたのか。


庭園の席へ互いに着くと本人は隠しているつもりかもしれないが、表にまで安堵感が出ており心の中で納得しながら、殿下より聞いたレモンを使用した菓子を手渡すと、ディランの表情と雰囲気が一気に緊張した。


こんなに感情が出ていて大丈夫なのだろうか?


公爵家の教育に疑問を思うも、何事も思っていない様にマナーに則り差し障りのない話を続けていると、視界の端に女性の姿が見え、


あの方がご息女か。


様々な事を考えていた頭を切り替え、殿下から聞いていたディランを驚かせる行動をするご息女に気づかないふりをした。


が、どうもご息女の表情が暗い。


殿下や他の御子息がら聞き及んだご息女の姿は無く、悲しそうで泣きそうになっている表情に自分の気に入らないのかと考え視線を外し様子を探ると、


「こんにちは。ディランのお友達よね、ようこそ我が家へ」


驚かす為にディランの背後から抱き着いた後、ディランの不思議そうにまた内心慌てている姿を見ていると、ご息女から自己紹介をいただくも、立場上、返す事はせず眺めていれば、


「どうなさいました?何を怒っているのです?」


ご息女を気遣うディランの言葉とご息女の言葉に、


なるほど。

拗ねているのか。


顔合わせと観察をする為に次々にディランに訪れるお友達にご息女は寂しく拗ねているのだ。


ご息女からの謝りの言葉に受け取りを示す為に視線を合わせ頷くと、ディランとディランの従者や屋敷の使用人からの心の底からの安堵感に、


感情を隠しもしない事にもう笑うしかないな。


見極めてやると意気込み、警戒心をいつも以上に働かせていた自分が情けなくなり、見聞きした事を理解し納得し、これからの付き合い方を決めた。


本当の友達として付き合う事を決め、互いに握手をし別れを告げた後日に届けられrたガラスのバラ。


繊細で細部まで作られたバラはご息女を表している様で、つい、


「この部屋に飾るので花瓶を持ってきて欲しい」


そう従者へ告げてしまった。


思い出すのは、寂しく涙を溢すのを耐えている姿とディランに悟られない様に必死に微笑みを作る表情。


殿下から聞いていた笑顔と悪戯を楽しむ姿を見れなかったのは残念だが、ご息女の心内が見れた事に顔合わせの意味もあったと。情報を共有する中、頭の片隅にゆらりと浮かんだ感情、


優越感


殿下にも最愛のディランにも見せていない表情と感情


浮かび揺らめく感情を大きく息を吸い1度は消し去るも、バラを見ていると手を差し伸べ慰めたくなってくる。


お姉ちゃんなのに。


自分を奮い立たせ、自分の感情を律する姿は


自分の父の子なのだから。


次期宰相としての期待も込められているのだから。


必死に感情を抑えている自分と重なり、ふっとした瞬間に無理をしていないだろうか、泣く事を隠していないだろうかと考えてしまう。


毒されている。


その自覚はある。


あの姉弟は自分の様な時に表では微笑みながら腹芸を行う立場の者には癒しの時間しかない。


あのまま、暗い事には触れずに過ごして欲しい。


今度会えた時には笑顔で出迎えて欲しい。


皆の言う楽しく、またディラン同様に愛おしく思う笑顔を向けられたい。


初めて、この家に生まれ、次ぐ立場で良かったと思えた。


ディランからの手紙には、領での日々が書かれている。


ディランの感情が乱れ、流されてしまった事。


空を飛ぶご息女が国境を超えないように言い含めている事。


ご息女がハーブの勉強を始めた事。


ディランなりのご息女への心配が男性にしては柔らかく感じる文字で綴られ、


手紙でのこちらの問いかけに、気を使いご息女の言葉も添えてある。


ご息女なら言いそうだ。


ご息女の言いそうな言葉さと分かるが、楽しく笑うご息女を思い浮かぶる事ができない悔しさの中、


寂しい時には手を差し伸べ、悲しい時には慰めたい。


今の距離では遠すぎる。


近くに居れたら、もっと触れ合うぐらいに居れたら良いのに。


触れてしまえば壊れてしまう様にガラスのバラを見つめ



ご息女を想う。




第111話


3月に入りました。卒業式の話が耳に届く季節ですね。新たな門出に祝福を願いっております。


ブッマークや評価、いいねボタンをいただき誠にありがとうございます。


ネタバレを含みますが短編に本編終盤の弟ディランの心境と日々を書いております。

お時間ありましたらお読みください。

https://ncode.syosetu.com/n4082hc/

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