殿下は報告書に微笑む
灰色の厚い雲に覆われ、時折吹く冷たい風が窓から見える木々を揺らす姿を時折見ながら、薪が爆せる音を聞き、従者に手渡された書類を読み込んでゆく。
街の動き、周りの領の冬の状況
麦の収穫量に領主からの税収の納め具合
決定権はまだまだ無いが、決定事項や現状況などは見ているだけで学び、陛下や宰相など各部署がどのように考え動いているのかを探る為の勉強になる。
成人したての自分にはまだ慰問を中心とした仕事だが、将来の事を考えればどれだけ勉強しても足らない。
知識不足を補う為の勉強が自分の知識不足と生い立たられる時もある。
心の中でため息を落とし、顔を上げると机の端には花瓶に入ったガラスのバラが目に入る。
そう言えば。
手に持っていた資料を一旦端に置き、新たに違う書類を手に持ち目を通すと、書かてれている状況が思い浮かび、凝り固まった頭と、落ち込んでいた心が浮上して行くのが分かり、
僕も姉弟に毒されているな。
心の中で苦笑し、姉弟の詳細に書かれている文字を読んでゆく。
ご息女がデイランと一緒の服を着て跳び上がらんばかりに喜んでいる姿。
太陽が昇る前から起き、誰もいない極寒のキッチンで火を起こし、雪積もる外に出て井戸で水を汲む姿。
必死に使用した皿を洗い、ランドリーでは自分で服を洗う姿。
ユキガッセンという遊びを楽しそうに計画しディランを心情を揺さぶらせたらしく、
ディランも大変だっただろうに。
苦笑と第三者の立場での好奇心で書かれている報告書を読み込んでゆく。
少しつづ王族としての自覚が出てきた頃、陛下と王妃に呼ばれ伝えられた話は、今も忘れることができない。
かの女王と同等もしくはそれ以上の魔力を持つ者が女性。
その女性は公爵家で生まれたが、法律に従い、貴族籍から外されている。
公爵家ではお前と同じ歳の跡取りがおり今後の為に関係を作ってもらう。
異様な空気が室内を漂う中での話に、緊張し背中に冷たい汗が伝うのを感じながら頷いた。
家庭教師から聞いたかの女王は優しき人物だと思った。
物心付く前からの教育で感情を排除し、戦地を送られたが心を取り戻し戦いを終わらせ周辺国との関係を修繕し、この国を立て直し、この国に心を砕き発展させた。
自分が同じ立場だったらどう行動しただろうか?
女王の様に心を砕き国に貢献し、国を思い、生を終わらせることができるだろうか。
政治の勉強を学ぶ度、頭の片隅で考えてきた。
優しき女王と同じ魔力を持つ少女が居る事に驚き、心が掻き乱されたが、
「今は親世代で関係を作り、見守っている所だ」
陛下の言葉に、乱れた感情が表に出てしまった事を悟り恥じると、
「貴方が驚くのも無理はないわ」
微笑ましそうに王妃からの言葉に頷き返すと、
「聞く所によれば、とても活発なご息女と聞いておりますが」
王妃から陛下に話を促すように言葉を変えると、
「ああ。公爵家の庭を駆け回り、庭師と共に洋服に土を付けながら育てているそうだ」
今まで会ってきた令嬢とは違いに想像が付きにくく戸惑いながら耳を傾ける。
「先日、様子を見に行った際は、暑そうだからと風魔法を発動させ部屋を涼しくしてくれた」
陛下から告げられた言葉に言葉を出せずにいると、王妃も同じだった様で
「悪意は無く、純粋に、お父様とお客様が暑そうだったから。と、帰り際に報告を受けた」
何か面白い事があったのか目元と口元緩めながらの陛下の言葉に、さらに驚く。
魔法は国が窮地に陥った時に使用する物だと教えられてきた。
それを生活に取り入れるとは思いもしなかった。
その後も、
「宰相が行った際は水魔法で虹を作り上げたそうだぞ」
にやりと笑いながら、続けられた報告と表情を取り繕うことも忘れ驚いていると、
「ところで今使っているカップ、お前達はどう思う?」
テーブルに置かれている3客のカップは白色で無地のカップだが、尋ねられた事で改めてカップを手に持ち、観察をするも、絵柄がない事以外分からず首を傾げれば、
「冷えない紅茶は美味しいか?」
陛下の言葉に改めて紅茶を飲むと、冷えているはずの紅茶が温かく、
「ご令嬢が発案し開発し作った物だ」
頷きながらの陛下の言葉に呆然をしたのを今でも鮮明に覚えてる。
あの衝撃は今でも覚えている。
さらに、美味しい紅茶をいつまでも楽しみたい。と作ったという言葉もそうだ。
それ以来、魔法石が埋められた生活道具が一気に増え、貴族達に広がり、商人の関心を惹きつけ、持っているだけで周りの見る目が変わる事から、こぞって買い求める風景も今は慣れたものだ。
そして
初めて会った時にあの日。
公爵家一族は権力を嫌い代々穏やかな性格をしている。
家庭教師から習いはしたものの、緊張しながら向かった先には、自分より緊張したディランが出迎えてくれ、
緊張感が和らぎ、自分が支え、困ったことがあれば率先して助けなければ。
そう思う程、顔色硬らせたディランを見ながら思ったの事も懐かしい。
体を硬くしながらも、庭に案内してくれ会話を続けていれば、嬉しそうに笑いながら、ディランの背後から近づいてくるご令嬢に瞬間緊張したものの、
あんなに感情を表に出しながら、今この習慣に驚かせ悪戯します。としているご息女に厚毛に取られるも、
あまりにも楽しそうに近づいてくる姿に心がくすぐられ、笑いが生まれだす。
自分が反応してしまえば、ご息女の行動が失敗に終わってしまう。
だが、あんなに楽しそうにしている姿は微笑ましく、どうして緩む口を隠すのか難しくなり下を向くと、
「ディラン!」
すぐ近くで聞こえた声に、笑いが漏れそうになるも腹に力を入れ、
慌てるディランに言葉に、笑い出しそうになるのを必死に耐えた。
なんて楽しい姉弟なのだろう。
仲が良いとは報告を受けていたがここまでとは思わず、愛おしく見つけて入れな、ご息女が自分に目を向け、
「貴方がディランのお友達?初めまして姉のエスメです」
笑いながら自己紹介をしてくれたが立場上の都合で言葉を返すことができず、心が申し訳なさで締め付けられるが、自分の失礼な態度に
優しく頭を撫ぜてくれた。
自分が誰か分からない人物にディラン同様の慈しみと優しさを分けてくれた。
心が捕らえられた瞬間だったと思う。
あんな衝撃的な出会いはこれから先、無いと言えるだろう。
色々な事があり自領へと帰ってしまったが、こうしてディランから手紙で詳細にご息女の事を教えてくれる。
ディランから見たご息女はさまざまな事を起こし、楽しんでいる様子が思い浮かべられる。
喜怒哀楽
感情豊かに、誰にも慈しみと優しさを分けているのだろう。
ディランは羨ましいな。
ご息女は様々な事を思いつき楽しんでいる姿を横で見られるのは羨ましいが、
女性のワンピースは着るのは遠慮したいな。
ご息女を思い、女性の洋服着ているディランの心意気は尊敬する。
姉弟の関係を思い、顔合わせた次の日に届けられたガラスのバラを眺める。
ガラスのバラは澄んでおりご息女の心の様に透明度が高い。
側近候補である彼らもお茶会後にご息女が作ったガラスのバラが届けられたと報告を受けている。
彼らも、自分と同じ様に心を捉えられ、いつでも見えるようにバラを飾っているはずだ。
ご息女から貰った、言葉は強く心に刻まれている。
時に励まされ
時に慰められ
時に奮い立たせてくれる
自分にこんなに愛おしく思う人物と会えるとは思わなかった。
ご息女に会える立場に感謝をする。
だが、見ているだければつまらない。
今より近くに居てほしい。
そう思うと、自分の立場が煩わしいが仕方ない。
ゆっくり手を伸ばしガラスのバラの花弁を撫ぜる。
早く会いたいな。
第110話
2月が終わりますね。日にちが少ないないので他の月よりあっという間に終わる気がします。
ブッマークや評価をいただき誠にありがとうございます。
ネタバレを含みますが短編に本編終盤の弟ディランの心境と日々を書いております。
お時間ありましたらお読みください。
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