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姉、繰り返し練習する


肌を刺す様な冷たさと緊張感が重なり、いつも通り呼吸をしているはずなのに息苦しく感じ、深呼吸をする。


初めて会う神官の方々と共にノア様の前に立ち


「では、お2人は最後の神事の手順をお伝えいたします」


ノア様の言葉に頷き返す。


「まずは私達が用意致しましたミモザの花を祭壇に捧げていただきます」


練習用に手渡されたドライフラワーへと加工されたミモザを左側から受け取り、


「当日は屋根の無い馬車の乗り、街の各代表者からミモザを受け取り神殿へ届けていただきます」


正面のノア様の言葉に頷き、理解できたことを伝えると


「馬車は神殿の正面で停車いたしますので、外からお二人で歩いていただき集めたミモザを奉納していただきます」


ここまでは大丈夫ですか?


ノア様の視線での問いかけにディランと共に頷きくと、


「その後は私の祝詞の後にディラン様とエスメ様の順に神事見守っていた者達へ一言いただき終了となります」


言葉での説明を受けた後は実際に順を踏んで立つ場所などの確認を受けた。


言葉だけ聞いていると簡単だけど、立つ場所やミモザを捧げる際への決まり事など細かく覚える事があり、何度も繰り返し練習をした。


ディランと息を合わせミモザを捧げる動きは1回でできたが、どうしても立ち位置がズレができてしまう。


「姉様、大丈夫です。僕と同じ動きを行えば良いのです」


自分しか聞こえない程の小さな声で告げられた言葉に声を視線を向けると、


「もう1度、やってみましよう」


ミモザを片手に自分の手を引いて神殿の入り口辺りまで移動し、


「では、始めますよ」


ディランの始まりを告げる言葉と共に2人で歩き出し祭壇前で立ち止まる。


イル様の祝詞の後、再びディランと同時に足を動かし祭壇の前に立ち、ミモザを捧げ、数歩後ろへ下がるのだが、後ろが見えて居ない為にどうしても歩幅がディランと合わずにいた。


「姉様、僕にエスコートされている様に下がってみてください」


後ろへ下がる瞬間のディランの言葉に、視線で頷き、教えられた通りに頭の中でディランの腕に手を乗せている自分の思い浮かべ、ゆっくりと1歩、1歩と後ろへ下がった。


できた。


ディランと同じ立ち位置に立ち止まる事ができ、体の中に安堵の息を落としながらゆっくりと出入りである扉へと振り向く。


当日はこの後に一言を告げて終わる。


初めて失敗もせずできた事が嬉しく、何より助言をくれたディランへ


「できた。失敗せずに最後までできたわ。ありがとディラン」


嬉しさと喜びのまま礼を告げると、


「僕は何もしておりません。姉様が努力した結果です」


貴族らしく微笑んだ表情の中にどこか嬉しさと困った様な表情に、


「そう言って貰えると嬉しいけれど、後1回だけ練習をお願いしたいの」


屋敷では無く外に出ている事を思い出し、すぐさま淑女の笑みを浮かべディランにお願いをすると


「ええ。1回と言わず何度でもご一緒させていただきます」


頷きと共に返事を返してくれ、2人で扉の前に立つと神官様がミモザを手渡してくれ、ディランと頷き合い祭壇に向かって歩き出した。


1歩1歩確かめる様に慎重に歩き、頭の中で次にする行動を思い浮かべながら進めてゆく。


祭壇にミモザを献上するまでは大丈夫。


問題はここから。


ディランと一緒に祭壇を前にして後ろに下がる。


思い浮かべるのは、先程ディランが助言を貰った言葉。


ディランの腕の手を乗せている自分を思い浮かべ、後ろに下がる。


1歩


1歩


ディランと離れないように意識しながら後ろへ下がる。


そして、下がり終えたら、足を軸にゆっくりと体を動かし祭壇から扉へと体の向きをかえた。


顔を動かし横を見ればディランと肩を並べており、


「できた」


こぼれ落ちた言葉が自分の耳に届くと成功できた喜びがじんわりと広がり


「ディラン。できた」


喜びを噛み締めながらの言葉に


「はい。できましたね」


目尻を下げながら見上げてくるディランに何度も頷き、


「寒い中、何度も付き合ってくれてありがとう」


凍え冷たくなってしまった両手を持ち上げ包み込むと、


「大丈夫です。姉様も寒い中良く耐えてくださりありがとうございます」


どちらの手も暖かさを感じる事はできなかったが、心が満たされ、


「お祖父様、お祖母様、大変お待たせしてしまし申し訳ありませんでした」


ディランと共に壁端で見守ってくれていた祖父母へ詫びの声をかけると


「構わないさ。もう練習は良いのか?」


笑顔で返事をくれるお祖父様と、同じく微笑みながらも心配そうに見守るお祖母様に


「はい。もう大丈夫です」


力強く頷き返し、


「ノア様、神官の皆様も、何度もお付き合いいただきありがとうございます」


貴族として礼を告げると、


「こちらこそ。この寒さの中、幾度も練習をしていただきありがとうございます」


ノア様の言葉に苦笑で返事を返すと、


「これにて神事の練習は終了です。暖かいお茶を準備しておりますのでご休憩をお取りくださいませ」


練習終了の声と冷えた体への心使いに、


「有難い。心使い感謝する」


お祖父様の返事で全員が用意された応接間へと足を向けた。



第109話


梅の開花宣言を聞きました。もう春か来ていますね。


ブッマークや評価をいただき誠にありがとうございます。


ネタバレを含みますが短編に本編終盤のディランの心境と日々を書いております。

お時間ありましたらお読みください。

https://ncode.syosetu.com/n4082hc/

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