辺境伯が夢見た日々
数日前に晴れ間と暖かな日差しを見せたものの、再び灰色の雲に覆われ、空から雪が舞い降りていた。
書籍に囲まれ、艷めく飴色の机には何十枚も積まれた紙が置かれているも、
手渡られた報告書を楽しそうに微笑み眺めているのを客人様にと置かれているソファに座り様子をうかがっていると、
「この、ユキガッセンというのは良いな。知略、武力、体力など、どれも騎士達には必要な物が鍛えられる。我が領土でも実戦してみるか」
隣にある領で行ったことに興味を示し、部屋に居る息子と従者につげれば、目礼が返ってきた。
「あのご息女は面白い事を考えるよね」
箒に跨いだり、生活魔法道具にしてもそうだ。
ありそうで無かった物を考え出す。
それも、利益ではな純粋に誰かの為の行動から生まれたものが多い。
素晴らしいことだと思う。
「魔力の事がなければ、お前の婚約者だったのにねぇ」
勿体無いなぁ
報告書から視線を外しソファに座る人物に視線を向けると、驚きと困惑した雰囲気が見て取れ
「妊娠の報告を聞いてから、いつか生まれてくる息子の為に良き妻を探すのは当たり前の事さ。それに家同士の関係を強固にし防衛を手厚くする為もある」
辺境という隣国との国境にある為、関係悪化もしくは突然に反旗が起こった場合真っ先に責められるのは、自領である。
そして、国を守り為にできるだけ自領で食い止め、攻め入る時間を稼ぎ、1人でも兵を減らす事が求められる一族でもある。
「何より僕があの一族を気に入っている。さらに仲を深める為には良い機会だったなのになぁ」
小さく笑ながら伝えられる事に、想像をしたのか耳まで赤くしている姿は分かりやすく初心で可愛くも感じる。
「だから、探らせている者から女の子が生まれたと聞いた瞬間に、祝いな品を手に婚約の約束をとりに行ったのに、保留にされてしまってね」
当時の事を思い出すと自分の若さゆえの考えの浅さに懐かしく笑いが漏れる。
「保留ならまだ機会はあると引いたら、女王様と同等かそれ以上の魔力という事で婚約保留の件は流れてしまった。悲しかったなぁ」
気持ちを落ち着けたのか、顔の火照りは残っているものの真剣な表情に戻り自分の話を聞いている息子に
「ご息女と喧嘩をしたんだって?」
親心と揶揄する気持ちを隠しながら訊ねると
「申し訳ありません」
詫びの言葉の後に言葉が続かず、
「御子息にも喧嘩腰だったと言うではないか。仲違いがなかったから良かったものの、どうしたのさ?」
考えがあっての行動だろうと聞けば
「いえ、自分が未熟だった為の行動です」
帰ってきた言葉に心当たりがあり
「反応を試したかった。もしくは御子息の性格を見抜きたかったと言ったところかな?」
笑みを深め問えば、図星だったようで苦虫を噛んだように表情を歪め頷く姿に自分の幼い頃と重なって見えた。
自分の息子のことが言えない程、隣の領主一族には迷惑をかけてきた。
「気持ちは変わらなくもないけど、程々にね」
一応、親としての言葉をかけておく。
監視をいている者からは、初見は喧嘩越しだったがご令嬢の取り成しで御子息との仲は深まった聞いている。
自分同様、あの人たらし一族に魅了されて帰ってきたのだ。
その話を聞いた時、幼い頃の自分が取った行動と同じ事をしていることに声を上げ笑ったのは自分と壁に控えている従者のみ知ること。
辺境伯などという地位にいると、人の欲望を知り表情の裏を知る。
王都に行けば辺境伯のぞ特殊な地位に名前のみ魅力を感じ、権力、財力など腹に一物抱えた人物が我先にやってくる。
勿論、関係を絶つことはできないので、解っていても理解していても笑みを絶やさず受け流す。
ある程度の数をこなせば、受け流すことも容易はないが、それができるまで無駄に己の感情をかき乱してしまう。
上貴族なら誰にでもあることで、言葉の真意を探ることなど当たり前にしなければならない。
この息子はできるだろうか?
子供ゆえに物事を真っ直ぐと捉えがちでもあるために、よく自分に揶揄われているとは解っているだろ。
これも1つの練習である。
「御子息とはどう?うまく関係は作れているの?」
揶揄う様に軽く訊ねると、
「はい。会えなくなった分、互いに手紙のやり取りを行い関係を深めております」
「そう。では冬開けの事も聞いているだろうから、準備をしておくように」
「はい」
親子というよりは主従関係で会話が終わり、終了の雰囲気を察した息子は礼をして部屋から出ていく姿を座ったまま見送った。
御子息との関係性は上手く繋げたようでまずは良しと言った所か。
あの一族ならどんにヤンチャな事をしても見放す事なく付き合ってくれるのは経験済みなので心配をする事は無い。
「無邪気とは上手く作った言葉だよね」
子供の無邪気は時として猛毒以上の苦しみを生み出すことがある。
ご息女の無邪気は良い方向に用いられる時が大きだろう。
だが、自分達が思い付かない発想をし作り上げ、行動を起こし成功させてしまう。
そこに邪気が無いゆえの怖さと恐怖があるのが気づくものは少ない。
ご息女の性格も表情も上手く気づかせにくい要因だろう。
便利だから。
あったら楽だから。
確かに間違いではない。
だが、作ろう。
魔法を使用しようとは今まで誰も思い付かなかった。
畏怖し、王族や高貴族から厳しい監視が置かれているも、それ以上に利益と発想に価値があるから手を下さない。
国を考えれば王家の考えに従うも自領や自分の徳について考えるなら、振り下ろされた手に乗るフリをして隠し囲い込みをすればいい。
何より
「あの魔力、無くなればいいのになぁ」
願望を込め言葉に出すと従者に睨まれたものの
「そうなれば息子の婚約者として家に来てくれるし、国だって監視体制を解いて無駄に税金を使わなくても良い。そうだろ」
発言の意味を伝えると
「確かにおっしゃる通りではありますが、ご息女の監視の費用はご息女が収めている税で賄い切れていると伺っております」
「自分の事を自分のお金でできちゃうの凄いよぇ」
揶揄しながらの言葉に従者はため息を落とし、付き合ってられないとばかりに自分の仕事に意識を向けたので
カラカラ笑いながら
「家にお嫁に来てくれたら、もっと楽しい日々になるだろうなぁ」
欲しいなぁ
どうしたら来てくれるかなぁ
報告書を片手に楽しく笑と驚きが絶えない日々を想像し無意識に言葉を溢した。
第103話
変わらず雪マークが消えない地域もありますね。外出の際は十分にお気を付けください。
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ネタバレを含みますが短編に本編終盤のディランの心境と日々を書いております。
お時間ありましたらお読みください。
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