姉、優しさに触れる
2023/04/12誤字修正をおこないました。教えてくださった方ありがとうございます。
ガタガタ日除けの幌が揺れと木の車輪が石を踏む度に揺れが大きくなり、お尻が痛くなるが言い出す事ができない重い空気に、視線を彷徨わせるも誰1人目が合う事も口を開くこともなく、仕方なくぼんやりと意識を違う方向へ持っていく。
ディラン心配してないといいな。
別れ際に見た必死な表情に胸が痛む。
持っている箒を使ってここから飛んで帰っても良いけれど、助けて欲しいと言われたことが気になり動けないでいた。
日照りが続いているということは植物が弱っていると言う事よね。
土が乾きすぎている所に水を撒いても吸いが悪いと書いてあったわ。
水魔法がいいのだけど。
家族の前で祖父との約束に
『人前で許可無く魔法を使ってはいけない』
指切りをし約束したことを思い出す。
助けたい、でも人前では魔法は使え無い。
もやもやした気持ちだけが残りため息を吐き出す。
「どうした、お嬢様」
隣に座る青年から伺うように覗きこまれ声をかけられ、視線を合わせるように顔を動かし
「いえ、大丈夫です」
微笑みながら返事を返すも、
「疲れただろ。今日は進める所まで行って野宿することになる」
大きな手で頭を撫ぜられ申し訳なさそうに苦笑し、
「お嬢様にはこんなボロ馬車、乗り心地も悪いだろうし誘拐まがいに連れて来てしまったから俺らの事も怖いだろ。ごめんな」
ゆっくりと何度も慈しむように撫ぜられ告げられての言葉にそう言えばと思うも、
「私でお役に立てる事ができるなら喜んで着いて行きます」
身に付いている淑女の微笑みと共に思いを伝えればどこか複雑そうな表情と共に
「良い両親に育てられているんだろうな」
羨ましそうに言われた言葉に良く分からず微笑みで誤魔化せば、
「そのまま大きくなってくれよ」
からりと笑顔にで返された後、首ごと左右に動く程力強く撫ぜられた。
その後は馬車から降りる事なく数度短い休憩を取りながらも目的地へと進んで行く。
「お兄さん達が住んでいる村はどんな所ですか?」
幌の布と布の間から見える空を眺めるのに飽き始め、何気に問いかければ、
「これと言って何もないどこにでもある村だよ」
先程、話をしてくれた青年が相手になってくれる。
「何もない、ですか?」
告げられた言葉の想像ができず聞き返すと、
「お嬢様は屋敷から出たことないから分からないか」
1人納得しながらも、
「何も無くはないな。村人の家と小麦畑がある。後、ヤギがいるな」
村の様子を詳しく教えてくれた。
「小麦畑とヤギがいる村」
本で読んだ文章を思い出してみるも中々想像する事ができず考え込めば、
「そのうち見飽きる程見れるさ。ヤギも見せてやる」
貴族様は屋敷から出ないと聞いた事があったが本当なんだな。
実感したのか先程と同じ言葉を言われ、思わず
「見たことが無いだけで、知識としては知っているわ。小麦は実を収穫して石臼で引き粉状にした物からパンやお菓子を作ったり、押して平にした実をスープに入れて食べるのよね。ヤギは動物で取れるミルクからチーズを作り、農閑期の時の収入源ですよね」
少しだけ怒りが込み上げつい反論をするように言葉を返してしまい淑女としての行いから外れて行為に慌て口を紡ぐも、
「きちんと勉強してるんだな」
関心したのか頷きながら告げられた言葉に、
「私より弟の方が物知りなの。立派な領主になると思うわ」
怒りが消え、褒められたことに嬉しくなりいつもの様にディランの自慢を加えれば、
「お嬢様のところの領民は立派な領主御一家で幸せ者だな」
家族のことが褒められた事に嬉しくなり笑顔で礼を告げれば、馬車に居る全員の雰囲気が明るくなった。
そこからは誰もが思い思いに口を開き、話を盛り上がる。
家族の事を中心に思い出話から、愚痴や自慢話や惚気話まで多種多様に会話が広がり、ついには飼っているヤギの愚痴まで進んだことに男性達は声を上げ、エルメは片手で口を隠しながら小さく笑い続けた。
先程まで見えていた青空が茜色に染まり、あっと言う間に鉄紺色の空へと変わり少し経った頃、
「今日はこの辺りまでだな」
先程まで楽しく話していたが、御者からの声と馬が止まった事に皆が頷き、各々が立ち上がり動き出す。その急な行動について行く事ができず戸惑えば、
「お嬢様はそこで待っててくれ。俺達は周辺の見回りに行ってくる」
青年が声をかけてくれたが、
「私も」
着いて行こうと慌て上がるも、
「良いって。疲れただろ」
頭をひと撫ぜし足早に馬車に荷台から出て何処かへ歩いて行っしまった。
見送ることしかできず、どうすれば良いのか分からずに立ち尽くしていれば、
「お嬢様、こっちに来て火の当番でもするかい」
長時間、御者をしていた年配者に声をかけれ馬車から降り焚き火の近くまで凝り固まっていた体をそれとなく伸ばしながら解し近づき、
「お爺さん、体は大丈夫ですか?」
失礼にならない距離を空け腰を下ろしながら聞けば、
「ありがとう。大丈夫だ」
穏やかに微笑みとともに頷かき返され、
「お嬢様のほうが疲れただろう」
どこから出てたのか木のコップが手渡され恐る恐る中身を眺めていたからか
「水だ。飲んでくれ」
告げられた言葉に礼を告げ、ゆっくりと喉を潤す。
ひと口目は喉を潤し、2口目は少しだけ口の中に留め舌を潤し、数回に分け飲み
「ありがとうございます」
飲み干し空になったコップを返せば
「もういいのかい?」
心配そうに問われるも
「ええ。もう大丈夫ですのでお爺さんも飲んでください」
微笑み返しゆらゆらと揺れる焚き火に視線を動かした。
耳をすませば音が聞こえ興味を惹かれると、それに気付いたのか
「あれは梟が鳴いているのさ」
火の爆ぜる音と共に聞こえた言葉に視線で問えば、
「梟は森の賢者と言われている。鳥の仲間で夜になると動き鳴き出すんだ」
穏やかで、慈しむような優しい声に心くすぐったくなり
「森の賢者ですか?とても頭の良い印象を受けます」
誤魔化すように告げれば、
「首を傾げるのが考え事をしている様に見えるからそう言われていると聞いたことがある」
家庭教師の様に疑問を思えばすぐさま答えが返ってくるが、威圧や上から感じる圧も無く、寝物語を話してくれる様な穏やかで暖かな雰囲気に次から次へ質問を繰り返せば、先程見回りに出た青年達が戻り、
これからの事を話された。
このまま野宿で夜を越す事。
自分1人馬車の中で寝る事。
青年達は交代で火の番と野獣が来ていないかの警備をする。
「夜が開ける前には出発する。お嬢様はそのまま寝てても良いからな」
追い立てられるように馬車に戻され仕方なく横になった。
ベットでは無い木の床の上に練れるか心配になるも、うとうとと微睡むも、小さな音に目を覚ます。
何度か寝ては起きてを繰り返すも知らぬ間に意識が闇の中に溶けていった。
第10話
長くなりますのでキリの良い所で切りました。
ヤギはユキちゃんのイメージがありますがあそこは瑞西でしたね。
梟は諸説ありますがこの話が好きなので書いてしまいました。
まだまだ村に着いていませんので道中話が続きます。お付き合いいただけると嬉しいです。
ブックマークや評価、誤字脱字報告ありがとうございます。
とても嬉しいです。
暦では秋に入りましたがまだまだ暑い日が続きますのでご自愛ください。
雨も被害が出ている地域もあるとの事あまり被害が大きくならないよう祈ってます。
ネタバレを含みますが短編に本編終盤のディランの心境と日々を書いております。よろしけれお読みください。
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