第四話:鑑定士に会おう
陽が傾きだした頃、ベルトラの村に着いた。
すぐに、宿に行き寝床を確保に向かう。
幸い、カナメが旅立ちに際してもらった支度金をそれなりに残していたので、何日かは泊まれそうだ。
自分の手持ちは、こんな事になると思ってなかったので、心もとない。
唯一、金になりそうなものは、襲撃者を倒す時に拾った宝剣ぐらいのものである。
特に意識をしていなかったのだが、取り上げられることもなく手元に残った。
明日からは、当初の予定通り、ダンジョンでカナメの経験を積む事になる。
問題なく旅を続けられるようになるのに何日かかるかわからないため節約の必要がある。
相談して、ツインルームを1部屋を借りることにした。
「そういえば、この村には『鑑定士』がいるはずです。勇者パーティーは通常、ここでまず自身のスキルや適性を把握してから訓練を積む手筈だったと聞いていました」
「その件は私も把握していますが、クビにされてしまったから診断は受けれないんじゃないですか?」
「いや、今ならまだ、クビにされたという情報は伝わっていないんじゃないでしょうか」
「だとすると、早めにいくべきですね。鑑定料金は国が負担してくれるとの事でしたから」
僕とカナメは、荷物を宿に置くと村にいるという鑑定士を尋ねた。
鑑定士というと、老人を想像していたが、出てきたのは若い女性であった。
「いらっしゃいませ。ご用件はなんでしょうか?」
「えっと、私はプルトニアで『緑の勇者』を承りました芙蓉カナメと申します」
「これはこれは、勇者様。予定より遅いご到着ですね」
「少しトラブルがありまして……」
「まあ、大丈夫ですか!? 出発早々でお気の毒でしたね」
「いえ、もう解決いたしましたので、ご心配なく。それより早く鑑定をお願いしたいのですが……」
「はい。承知いたしました。あら? お仲間はそちらの方のみですか? パーティは5人と聞いていましたが」
「あ、え、えっと、……そう。トラブルはそれ絡みなんですよ。で、私と彼だけとりあえず鑑定を受けてくる事に……」
カナメが目で助けを求めてくる。
――え、この状況で? どうしろというのでしょうか?
僕が、あれこれ必死に考えてると、
「色々大変ですね~。承知いたしました。では、御二方の鑑定を致しますわ」
どうやら何とかなったらしい。
「では、まず、勇者様から鑑定致しますね」
鑑定士はそういうと、両手をカナメにかざして、なにやら唱え始めた。
「見えてきました。まず、常時効果があるスキルで、『全能力向上補正』、『パーティー能力向上補正』、『全ステータス異常耐性』、そして、『緑の加護』ですね」
「各スキルの説明をお願いできますか?」
「わかりました。といっても、そのままなのですが、ご自身とパーティーメンバーが経験を積んだ時、より大きく能力が上がるといのが、『全能力向上補正』、『パーティー能力向上補正』で、『状態異常耐性』というのは、毒など様々な状態異常に耐性があり、効きづらいって事です」
――なるほど。勇者とのパーティー契約の恩恵は加護以外にもあるんですね。
「あと、『緑の加護』は、パーティー全体に、風属性の魔法に対する耐性がつきます。この耐性は、かなり強力で、経験を積んでいけば、いずれは無効化する事が出来るようになります。また、木々の力を借りた木属性の魔法にも耐性があります。こちらは、木属性魔法の性質上、無効化までには至らないですが、経験を積むことで、木属性魔法の発動を阻害する魔法を習得する事が出来ます」
鑑定士は丁寧に教えてくれた。
どのくらいスキルを持っているのが普通かわからないけれど、これはなかなかに良いのではないだろうか?
「あとは適正ですが、加護同様、風と木の魔法に適正があり、回復魔法も覚えられそうですね。現状では、前衛能力はほとんどないですが、鍛錬次第では前衛もこなす事は可能です。ただ、魔法攻撃主体のほうが早くモノになると思います」
――そんな事までわかるんですね。鑑定士とはすごい。
「さすが、勇者様ですね。現状でわかるのはこのくらいですかね。では、次はそちらの方を鑑定致しますね」
間を置かずにつづけて、僕に手をかざして同様に行う。
「見えて……。ん? これは珍しいかもですね」
鑑定士が何かひっかかるような言い方をした。
「まずあなたは、1つしかスキルをお持ちでないようです。通常は、少なくとも2つは持っているのですが……。しかし、そう落胆しなくても大丈夫です」
「といいますと?」
「その能力が非常に珍しいものだからです」
「そうなんですか?」
「報告が無いではないのですが、私は初めて見ました。『火事場』というスキルです」
「『火事場』?」
「能力自体はそう複雑ではなく、命のかかった局面においてのみ、すべての能力値がはね上がるというものです」
「イマイチ、ピンと来ないのですが」
「つまりですね。強敵を前にした時、反射神経や、反応速度というものが、通常の倍くらいに向上するんですよ。感覚としては、相手の攻撃が遅く感じたり、いつもより良く動けているように感じたりですね」
なるほど。それは強力かもしれない。
「ただ、模擬戦だったり、訓練の時は通常通りなので、お気をつけください。あくまで、あなた自身が命がけと無意識で感じる局面でしか発揮されないので」
自分でON、OFFを調整出来ないのは少し使いづらいかな。
そういえば、襲撃者と対峙した時にいつもより良い動きが出来ていると感じたのは錯覚ではなかった訳だ。
「以上ですね。お役に立てましたでしょうか?」
「ええ。ありがとうござます」
「また、何かありましたらお気軽にお尋ねください」
僕たちは鑑定士の元を後にした。
「いけましたね」
「よかったです。とりあえず、明日から頑張りましょう」
緑の勇者がクビになった事はまだ広まってなかったようだ。
今日の出来事であるから当然と言えば、当然だが、とにかくタダで鑑定をしてもらえたのは大きい。
――さて、明日からはどうでしょう?
どのくらいのスピード感で『緑の勇者』が追放された身であるとう事が広まるかはわからない。
あの宰相的にはそれほどの大した出来事ではないのだろうか? 広まらないという事もあり得る?
わからないが、恩恵を受けれる間は遠慮なく受けることにしよう。
さて、よくよく考えると、昨日からイマイチ休めていない。
まだ、時間はそこまで遅くないが、今日は早めに宿に戻って休むことにしよう。
「そういえば……」
「どうしましたか?」
「お金の事しか考えてなかったのですが、ツインルームを1部屋借りたんですよね?」
「そうですよ。……ん?」
「……」
「……」
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