【回想】アレク視点①
――こんなはずでは……。
懸命に走りながら、俺はずっと後悔していた。
元々、あまり戦闘が得意ではない事は自分が良く知っていた。
剣技も魔法も中途半端
学生時代から周りの評価はいつもそれだった。
それでも、勇者パーティに志願したのは、自身の境遇のためである。
公爵家の3男として生まれた俺には、そのままでは何も残らない。
父親の後は、長兄が継ぐだろうし、公爵家とはいえ、長男以降の者にまで無条件に与えられる領地はないのである。
選民思想の根強いこの国では、家柄が最も重視され、あらゆる面で優遇される。
しかし、それはあくまで庶民と比べての事で、貴族同士だと話は変わってくる。
相手より自分に何かしらの付加価値がなければ、勝ち残れない。
ましてや、現在、プルトニアの貴族は飽和状態にある。
すべての貴族に割り振られるほどの領地がないのである。
よって、出来るだけ安全に手柄をあげる。これが、俺がこの先の人生を謳歌するために必要な事であった。
現状で、その条件を満たせる最善策、それが勇者パーティメンバーになるという事であった。
国からのサポートを受けることができ、尚且つ勇者にはかなり強力な『加護』というパーティ全体に作用する強力な特殊能力を持っている。
何かしらの手柄をあげるためには、これ以上ない好条件となっているのだ。
パーティは候補者の家柄の高い者から順に選ばれるとの事だったので、立候補さえしてしまえば、選ばれる自信はあった。1つ前の勇者の時に、俺の次兄がメンバーに選ばれたからだ。
そして、その通りになった。だが、
――あんなタイミングで、まさか勇者を狙ってくるなんて。
予想外というか、こんなの予想のしようがない。俺たちの旅は始まったばかりだったんだ。
突然、爆発が起こって、馬車は急停車した。
馬車には通常、結界魔法がかけられている。その結界は、よほど強力な魔法で無ければ、破ることはできないため、足止めが目的だったのだろう。外で護衛の声が聞こえ、そして、すぐに静かになった。
状況確認に出た仲間の悲鳴を聞いて、慌てて、勇者と共に外に出たが、その時にはすでに、護衛の兵士1人と仲間の1人がこと切れた後であった。すぐさま、戦闘に突入したが、こちら3人がかりでも全く動じない敵に、俺は恐怖を覚えた。そうこうしているうちにまた1人やられた。
俺はもはや戦意喪失していた。勇者もまだ実践経験を積んでいるわけではないから動けない。
俺にとって不幸中の幸いだったのは、残る1人の仲間が意外にも善戦してくれたことだ。
彼は、侯爵家の息子で、剣技に定評のある男だった。
彼が何とか攻撃を防いでいる間に勇者をともなって距離をとった。
しかし、仲間の剣をさばきながら奴は魔法を撃ってきた。幸い外れはしたが、体勢を崩され、勇者と共に坂を転がり落ちた。
すぐさま標的を変え、切り付けてきた敵の刃を仲間が追い付いて受け止めてくれたが、それまで。
彼の持っている剣が根本から折れて、敵の刃が深々と胸に突き刺さったのが見えた。
転がり落ちたショックで勇者は気絶したみたいで動かない。
そして、尻もちをついた形で、襲撃者と対峙する事となったのだ。
――死にたくない!!
そこからはあまり思い出したくもない。無様にも命乞いをし、たまたま、生きていた兵士が駆けつけてくれたの見た瞬間、その場から逃げ出した。
もう現場からは大分離れた。隣町とプルトニアをつなぐ道は1本道であるから、このままは進めばプルトニアにたどり着くだろう。
――もう限界だ!
俺は足を止めた。後ろを向いてみたが追ってきている様子はない。
あの兵士が善戦しているのか、ただ見逃されただけか。
どちらにしても、命だけは助かった。
安心したら力が抜けた。近くの木にもたれかかるように座り込んだ。
――そういえば、あの声。駆けつけた兵士はブライトじゃないか?
俺に向かって、何かを言っていたが、全然覚えてない。ただ、あの声は……
ブライト・エストニック
兵士学校時代の同級生で、庶民のくせに、座学でも実技でも俺の上をいく憎き相手。
そういえば、嫌がらせで村までの護衛に推薦してやったんだった。
あいつが勇者パーティに入りたがってたのは知っていた。
庶民は選ばれることが無いにもかかわらず、立候補してきたのだ。
忌々しい。庶民は庶民らしく大人しくしていれば良い。なのにあいつは、現状に常に抗っている。だから、嫌いだ。
とはいえ、アイツのおかげで逃げられた。最後に役に立ってくれた。
――いや、待てよ。
ここで1つ思い当たる。これは敵前逃亡では?
勇者パーティに入る事は、勇者と共に戦う兵士になるという事。兵士、つまり戦う力を持つ者にとって敵を前に逃げる事は恥とされており、重罪とされる。その時の状況は考慮されるが、最悪は死刑である。
――不味いぞ。なんて報告すれば……。他がやられたから報告のためと言えば大丈夫か?
なんて考えてると、また、別の考えが浮かぶ。
――ちゃんと、全滅しているのか?
あの男、ブライトの事は嫌いだが、ずっと意識してきたために分かる事がある。
学生時代、俺が見ている限りにおいて、おおよそ失敗をしていない。もっと言うと、負けるビジョンが浮かばないのである。
――いや、流石にあの襲撃者は規格外だろう。勝てるはずが無い。
そうは思うのだが、どうしても不安を拭い去れない。
ヤツか勇者が生き延びて証言されてしまったら、逃げた事が明白になってしまう。
――戻って確認するか?
そう思ったが、恐怖心が勝る。まだそこに居たら……。
それにもし、ブライトが勝ってしまっていたら……。それこそあってはならない。
自分が惨めすぎる。
結局、全滅を信じて報告に向かう選択しか取れなかった。
再び、歩を進める。足取りは重かった。
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