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第三話:そして追放


 太陽が真上近くまで登った頃、遠くに馬車が見えてきた。プルトニア所属の旗を掲げている。


 ――どうやら迎えが来たようですね。


 結局、朝方まで会話は続き、その場で寝てしまった彼女を荷台へと運ぶことになった。


 最初はこちらからも色々と聞いていたのだが、後半もなると、ただの愚痴をこぼす彼女に、僕はもっぱら相槌をうっているだけだった。

 色々、溜まっていたのだろう。しまいには向こうの世界での出来事に対する愚痴に発展して何のことやらさっぱりだった。


 彼女は向こうでは、ごく普通の家庭に育ったいち学生に過ぎず、特別な事は何もなかったとの事。

 そうするとどういう基準で勇者として召喚されてしまうのだろう? 謎は尽きない。



 馬車が到着し、数名が荷台より降りてきた。と、最後に降りてきた人物に目が釘付けになる。

 

 宰相、オルクスが自らやってきたのだ。


「ご苦労様です!」


 馬車に近づき声をかける


「貴様。誰だ!」


 オルクスのすぐ隣にいた男に詰め寄られる。


「護送についていた兵士です」

「こちらは全滅と聞いて来ている。そもそも勇者や勇者パーティがやられて、ただの兵士が生きているものか!」


「お待ちなさい」


 オルクスが男を制した。


「話ぐらいは聞いてあげましょう? ただし、あなた……。もし敵を前にして逃げたりしたのなら敵前逃亡で重罪よ。心して話してちょうだい」

「はい。不意打ちの魔法攻撃により遠くにふっとばされたのですが、気がついてすぐに駆けつけました。しかし、その時には報告に戻ったラルクと勇者様以外はすでに手遅れで。ラルクを逃した後、襲撃者は何とか倒して勇者様と共に救援を待っていた次第です」

「何と! 勇者様は生きているのですか?」

「はい。今は荷台で休まれています」


 オルクスは少し考えるそぶりをみせた。そして、声を上げた。


「ラルク君!! 聞いていた話と違うようだけど、どうなの!!」


 ラルクが馬車から転げるように出てきて、オルクスに駆け寄った。


「オ、オルクス様。私がこの場を()った時はまだ襲撃者とそこの兵士が対峙していて……。そ、そうだ! そこの兵士は偽物です。一兵士があんな化け物に勝てるはずがない。その兜、顔が分からない事を利用して成り代わっているんです!!」


 絶句した。コイツはいったい何を言っているんだ?


「なるほどね。あり得なくはないわね」

「お待ちください。濡れ衣です」

「なら、襲撃者の遺体はどこかしら?」

「こちらに仲間の遺体と一緒に運んであります」


 答えつつ、ヤバイことに気がついた。


 ――敵の遺体、黒焦げでしたね……。


「これじゃあ分からないわ。ラルク君の言う可能性もあるわね~」

「フルフェイスを脱ぎます。これで証明できるはずです」


 こうなると落ち着くとか言ってられない。すぐさま兜を脱いだ。


 しかし、オルクスは怪訝そうな顔をして、


「はぁ。私がいちいち一兵卒の顔までを覚えていると思ってます? 暇じゃないのよ」


 なるほど。彼にとって、いち兵士とは、その程度の認識しかしていないのだ。しかし、


「確かに、オルクス様はご存じないかもしれませんが、ラルク! 君には分かるだろ!!」


 彼の事を知っていたのは、不幸中の幸い。

 決して仲は良く無かったが、同じ兵士学校の同級生で、僕の方が座学も実技も上回っていることに腹を立てて、身分などよく分からない所でマウントを取りにきていたので、顔を知らない訳がないのだ。


「ブッ! ブライ……。い、いや、お前なんか知らない……」

「はあ!? 仮に知らなかったとしても、君は襲撃者の顔を見てるはずだ!」

「ぬ、布で口元を隠していたから。しっかり見ていない」


 コイツ……。次から次へと嘘を湯水のように……。襲撃者は自信があったのか、ガッツリ素顔を晒していた。めちゃくちゃだ。


「はぁ……。意見が食い違うわねぇ。どう判断すべきか……。そうだわ!!」


 オルクスは何かを閃いたようだ。その場のみんなが注目した。


「現状、あなたの正体が分からないでしょう。だから、あなたがプルトニアの地を踏む事を許さない事にします!」

「はあ!? どう言う事ですか?」

「そのままの意味よ。あなたは国外追放。今後、プルトニアへの入国を禁じます」

「なんでそうなるんですか!?」

「あら、あなたにとってもその方が良いはずよ。あなたが襲撃犯なら死罪。それを見逃すと言っているのよ」

「いや、だから僕は襲撃者じゃありません。前提がおかしいです!」


 何だ? どう言う状況なんだ? 意味がわからないぞ。


 どう言えばわかってもらえるか、思案していると、


「お待ち下さい! 宰相様!!」


 荷台から勇者が駆け寄ってきた。どうやら、騒ぎに気が付いて起きてきたようだ。


「この方は、確かに私を助けてくれました。襲撃者ではありません。現に私が生きているのがその証明ではありませんか?」

「勇者様は襲撃者が倒される所を目撃されたのですか?」

「そ、それは……」


 助かったと思いきや……。


 ――彼女はその時は気を失ってましたね。


「で、でも、襲撃者の目的は私の命のはずでしょう?」

「そうとは限らないでしょう。プルトニアに潜入するのが目的の可能性もあるわ」

「そ、そんな……」


 オルクスは勇者の方に向き直って、無感情にこう言った。


「それと勇者様。起きて来られたならついでにここでお伝えさせていただきますね。あなたは()()です!」


「え……」


「だって、そうでしょう。共に来てくれた仲間を3人も死なせたのですもの。彼らの親に申し訳がたたないわ。本来なら死罪でもおかしくはないのだけど、呼び出した私にも責任があるから命だけは助けてあげるわ」

「そんな……。魔王討伐はどうするおつもりですか?」

「まあ、簡単ではないけれど、()()()()するわ。だからあなたは、い・ら・な・い。どこにでも行きなさい。ただし、プルトニアには立ち入り禁止です」


 なんて事だ……。僕だけでなく彼女までが追放だと。


「さて、話はおしまいです。さあ、あなた達、ご遺体を収容しなさい。しっかり親御さんの元にとどけてあげないとね」



 そこからの彼らの行動は早かった。襲撃者を含む、遺体を乗って来た馬車に積み込むとさっさと出発してしまった。後には、僕と勇者だけが残された。


 ――これからどうするかな?


 ショックじゃなかったと言えば嘘になるが、僕の頭は意外と冷静だった。そもそも出世の望めないプルトニアはいずれ出ようとは思っていた。家族や友達に会えなくなるのは辛いが旅立ちが早まったと思えば……。


「あの大丈夫ですか?」


 僕は彼女に話しかけてみた。彼女はあまりの事にその場に立ち尽くしている。


「…………」

「な、わけないですよね。すみません」


 ――な、なんと声をかければ……。


 勝手に召喚しておいて、この仕打ち。その心中や僕には到底分からない。

 土地勘も何も無い場所に一人放り出されてしまったのだから。

 

 あれこれ考えていると、


「あの……」


 彼女から話しかけて来てくれた。


「何でしょう?」

「足手まといは承知でお願いしたいのですが、私とパーティを組んでいただけませんか?」

「はい?」

「も、もちろん、あなたにメリットが無いのは重々承知なのですが、もう私にはあなたしか……。お願いします」


 彼女はその綺麗な瞳で真っ直ぐ見つめて、そのあと深々と頭を下げた。


 なるほど。あまりの出来事にそこまで気が回らなかったが、お互い追放された者同士、協力するのが最善だろうな。


「顔を上げてください。もちろん。僕で良ければ喜んで。」


 その言葉に彼女はパッと顔を明るくして両手で僕の手を掴んできた。


「あ、ありがとうございます」

「い、いえ、こちらこそ」


 急な彼女の顔の接近に思わず照れてしまった。

 こういう事には慣れていない。


「じ、じゃあ契約成立という事でどうしましょう? とりあえず、当初の目的通りベルトラの村にでも向かいますか」

「は、はい。よろしくお願い致します」


 僕たちは歩き出した。時刻はまだ昼前ごろ、今から向かえば、徒歩でも夕方頃には着くだろう。

 繁忙期には初級ダンジョン目当てにそこそこ冒険者が訪れるが、この時期なら宿も問題なく取れるだろう。


「そういえば……」


 2、3歩後ろを歩いていた彼女が話しかけて来た。


「うっかりしていました。お互い名前を名乗っていませんでしたね。一晩を明かしたのに申し訳ございません。私は『芙蓉(ふよう)カナメ』って言います。カナメって呼んで下さい」


「こちらこそ。普段あまり名前を聞かれないのですっかり忘れてました。僕はブライト。『ブライト・エストニック』と申します。芙蓉様、よろしくお願いします」

「やだ、カナメって呼んでくださいって言ったじゃないですか。それに『様』付もやめて下さい。勇者もクビになった訳ですし」

「そ、そうですか?じゃあ、よろしくカナメ……さん」

「もー。固いですって。私が同行させてもらってる形なんだから、遠慮はいらないです」


 彼女の笑い声が響き渡る。少しは元気になったようで良かった。

 

 問題は山積みであるが、とりあえずベルトラに着くまでは考えないことにする。

 

 こうして、僕の旅は唐突に始まったのである。





追放まではこれで終了です。


この後、少し別視点で説明をはさんでから、村からの勇者との旅を書いていければと思います。


よろしくお願い致します。


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