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第二話:気が付いた勇者と二人きり

 

 ガバッ!


 勇者が飛び起きた時、ちょうど、後片付けが済んで戻ってきた所だった。

 辺りはもう暗くなっていた。


「気がつきましたか?」

「……あなたは?」


 まあ、ただの護衛だから仕方ない。

 ちなみに兜を含めて鎧はつけなおした。実はあまり素顔を見られるのは得意ではない。

 なので、制服なのを良いことに兜はかぶっている事が多い。


「あなたとパーティの護衛を命じられていた兵士です」

「そういえば!? 襲ってきた人は!?」

「僕が倒しました。救援間に合わず、パーティはほぼ全滅ですが」

「そうですか……」

「あまり気を落とさないで下さい。あなたのせいではないし、彼らも覚悟の上でしょう」


 そう言ってはみたが、実際はろくに覚悟などしていなかっただろうと思う。

 彼らは勇者を出世の道具としかみていなかったと断言できる。


「いえ、私の責任だと思います。加護もうまく働いていなかったようですし」

「誰も出発直後に襲われるとは思わないでしょう。それに勇者の加護というのも万能では無いと聞きます」

「そうかもですが……」

「ベルトラの村に行くのだって魔王討伐に向けての旅の準備のためと聞いているので、その準備前に襲われてしまってはどうしようもないんじゃないでしょうか?」


 慰めている自分の立場に内心笑った。一兵士の立場で何を言っているのだろう。


 もっとも、ただの慰めというわけでもなく、勇者パーティーは必ず隣の村【ベルトラの村】にある初級ダンジョンにて、各々の実力と連携を強化するというのが通例になっている。

 それは一兵士の自分でも伝え聞いていることだ。

 それまでは、ただの即興パーティに過ぎないのだから襲うつもりならこれほど適しているタイミングもあるまい。


()()()もそうでしたよ」


 そう言った自分に勇者は怪訝な顔をした。


「ちょっと待って下さい。()()()もって言いました?」

「はい? そうですね。召喚された勇者様は()()()()5()()()ですから」


 彼女は驚きの表情で固まってしまった。


 ――え? まさか知らなかったの?


「宰相様から聞いてないのですか?」


 色々と認識の違いがありそうだ。



 夜が更けていく。

 現在、テント代わりの荷台の前で焚き火をして暖をとっている。

 本格的な冬はまだ先だが、夜はそこそこ冷える。


 ――予想通り、迎えは明日だな。


 本来であれば、日帰りの任務であったがために食べ物は何ももっていなかった。

 勇者パーティも同様で、ベルトラで食料類は調達する予定だったそうだ。


「何も持ってなくてすみません。お休みになるようでしたら荷台をお使い下さい。僕が見張りをしておきますので」

「……ありがとうございます」


 あまり元気がない。まあ、隠されていた事がいくつかあったので仕方ないかもしれないが。


 焚き火に照らされた表情は憂いを帯びていた。


 ふと、何かに気づき、ハッとする彼女。そして、


「助けていただきありがとうございました。本来、先に言うべきなのに……」

「いえ、こちらこそ護衛なのに後手にまわってしまい申し訳ないです。あなただけでも助けられて良かったですが、結果論にすぎないので」


 正確にはもう1人生きてるけど。あいつは多分、次会ってもお礼の1つも言わないだろうな。


「色々教えていただきありがとうございました。まさか5人目とは思いませんでした。……最後の希望とか言ってましたし」

「まあ、僕ら末端にはたいした情報は降りて来ないので、一般人が知ってるレベルの話しか出来てませんが」

「いえ、こちらに来てから今まで、本当に余裕がなかったですから。このタイミングでも知れて良かったです」


 他の勇者の召喚について隠していた辺り、僕が知らない所にも色々と秘密がありそうだ。


「私はこれからどうなるのでしょうか?」

「いったんプルトニアに戻って、パーティを再編するのではないかと思います。勇者がこの国にとって重要なのは間違いないですから。」

「ですが、仲間の皆さんを死なせてしまった責任はとらなければ……。こちらの世界でも死者は甦らせれないのでしょう?」

「そうですね。魔法はありますが、仲間を死から回復させるようなもの現状はないはずです。」


 体力や傷を回復させる魔法はあるので、あくまでも()()()()である。今後開発される可能性がないではない。


「先にも言いましたが、本人たちは覚悟していたはずです。魔王を倒しに行くのですから安全な訳が無い。それに出発前にそれぞれ誓約書を書いているはずなので、この旅路での死は、原因がどうあれ罪には問われないはずです」

「そうかもしれないですが……。気持ちの問題です。こんな間近に人の死があった事がなかったので。正直、かなり動揺しています。兵士さんは大丈夫なのですか?」

「この世界にはモンスターとか危害を加えてくる存在が普通にいますからね。死は遠い存在ではないんですよ。ましてや、兵士ですから。覚悟は出来ています」


 答えながら、彼女の気持ちを察した。逆の立場なら確かに今の状況はキツイだろう。


「それにしても、勇者召喚がまさか強制転移とは……。同意のもとかと思ってました」


 話の流れで召喚されたいきさつを聞いていた。なんでも、突然にこちらの世界に飛ばされてきたとの事だった。

 そして、彼女の元いた世界には魔法はなく、モンスターという存在もいないそうだ。

 全く勝手の違う世界から無理やり連れてこられて、勇者として祭り上げられる。


 ――災難だな。


 僕は勇者に同情した。

 今までの4人の勇者は、割とノリノリに見えていたので、そういう事情とは思わなかった。


「それでは、勇者様の目的は『自身の世界への帰還』という事ですね。そして、そのためには魔王を討伐する必要があると」

「宰相さんはそう言ってました。魔王を倒せるのは勇者だけだとも。どう思いますか?正直、魔王を倒してもらいたいだけで、魔王討伐が帰還方法じゃない気がするんですが」

「そこについては何とも。僕も宰相様の事はよく知らないんです。5年ほど前にふらっと現れて、すぐに宰相に抜てきされたみたいです。現王がまだお若いのもあって、実権のほとんどは宰相にあるとか」

「新参者が、なんでまたそんな地位に?」

「何でも自身も昔、世界を救った勇者パーティにいたみたいですよ」


 そう。件の宰相は勇者と共にこの世界に平和をもたらした英雄だという話だ。

 ただ、それは100年以上前の事。

 そうするとゆうに100歳を超えていることになるが……


「悪魔か何かですか?」

「まあ、真偽はともかくとして、宰相としては優秀な方という評判です。たまに勇者を召喚しますけど」

「たまにって……。まあ、他に手がかりもないので、今は信じるしかなさそうですね」


 確かに分からないことを話していても仕方ない。


「あ、あとついでに、もう一つ聞いてもいいですか?」

「なんですか?」

何故、()()()()()()()()()一般兵士をなさっているのですか?」

「あれ? 僕が戦ってる時、意識あったのですか?」

「あ、いえ、すみません。勇者としての『能力』みたいです。簡単に言いますと、私には相手の強さが数値化されて見えるんです」

「どういうことですか?」

「例えば、あなたは『LV.55』ってみえました」

「レベル……? 何となく意味は分かりますが……」

「あ、すみません。私の元いた世界の『TVゲーム』というものではポピュラーなんですが、要するに数字が高い程強いって事です」

「なるほど。それが勇者様には見えるのですね」

「ある程度じっくり見ないと見えないのですが、特に意識をしなくても相手を見ていると浮かび上がってくる感じですね。ちなみに、パーティの皆さんが平均LV.20くらいで、襲ってきた人がLV.35でした。私はまだLV.5です。他にも町の人とか少し見させていただきましたが、今のところあなたが私が見た最高レベルですね」


 強さが数値化されて見える……。異世界から飛ばされてくる勇者に付与される特殊能力ということか。精度がよく分からないが、わざわざ数値化されているという事を考えるとそれなりに正確なのか。

 まあ、個人的には勇者パーティーの誰より高いのは、今までの努力が無駄ではなかったと言う事の証明になるので嬉しく思う。


「なるほど。とすると、隣村にて準備するのは、勇者様のレベルアップも兼ねているのですかね」

「その通りです。宰相様には大体、30くらいになるまでは上げなさいと言われました。ちなみに、モンスターを狩り続けると徐々に上がっていくらしいです」


 宰相はそこら辺の事情を知っているのか。これまでの勇者召喚の経験からか、それとも自身が勇者パーティにいたからか……。


「もちろんレベルで全てが決まる訳ではないそうですが、判断材料には出来ると」

「なるほど、敵と遭遇した時、極端にレベル差があれば、逃げる選択をする事でパーティの生存率を上げられる。この世界の冒険者達からするとうらやましいでしょうね」

「ええ、でも今回の場合は……」

「今後は警戒すべきでしょうね。こちらから発見する分には良いですが、むこうから狙ってこられるとそのアドバンテージは失いますから」

「ですね。特に不意打ちは一番警戒しないと。それにしても誰がくわだてたのでしょうか?」


 襲撃者の件だ。たしかに今回に関しては確実に勇者を狙ってきている。諸々、事情を知っていなければこんな事は出来ないだろう。ましてや、勇者は数日前にこの世界に召喚されたばかりだから、誰かから恨みを買うという事も考え辛い。


「単純に考えると魔王しかいないでしょう。こちらの動きをどう知ったのかという疑問は残りますが、他に勇者襲撃のメリットがある人がいないので」

「そうですね。すると、今もどこかから監視されてるのでしょうか?」

「……」

「……」


 沈黙が流れる。


「ま、まあ、監視されてるならとっくに追撃されてそうですし、大丈夫だと思いますよ」


 確証は持てないが、勇者を殺す気なら、襲撃者を返り討ちにしたとはいえ、護衛が一人の今を狙わない手はないかと思う。


「とにかく、今日は色々あってお疲れでしょうから、お休みになったらどうでしょうか? 周囲の警戒は自分がやっておきますので」

「いえ、一人になると色々考えちゃって、寝れそうにないので、このまま話に付き合ってもらっても良いでしょうか? こちらに来て、これだけ心穏やかにいられたのは初めてなので、色々聞いてもらいたいです。お邪魔じゃなければですが」

「そういうことでしたら、喜んで。」


 こんな機会もうないかもしれない。この機会に異世界の事とか色々聞くとしよう。


 夜はまだ長そうだ。



不定期更新ですが、好評なようであれば、更新頻度を上げたいと思っています。


主人公追放までは短編で一度書いているので、早めにUPする予定です。


良ければ、短編の方もよろしくお願い致します。


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