八 あなたがデザインしたの?
十九世紀のしきたりでは、晩餐会の後は女性はお茶の為にサロンに案内され、男達は煙草室に移動するのが主であるが、ここは一応未来であるので煙草を吸う男など存在せず、私達は全員でサロンへと移動した。
案内されたサロンはハルベルトの趣味が丸出しの装飾で、アメリカの開拓時代、つまり西部劇の映画の中の一コマのような外見だった。
けれど、私はハルベルトの趣味という点では違和感を感じていた。
なんだかハルベルトはもう少しあっさりとした機能的な空間か、あるいはもう少し壁紙などが装飾されているイギリスの屋敷のような雰囲気の方が似合うし好みだろうと思えるのだ。
そう、このアメリカ風が似合うのは、あの保安官であろう。
「ねえ、ハル。あなたは西部開拓時代のアメリカ風が好きだからヒューにあんな格好をさせているの?」
スツールに腰かけたばかりのハルベルトは、スツールからずり落ちかけた。
「え、アメリ、え?どこですか、それ。」
全くわかっていないって事は、彼の趣味ではなくハウスコーディネータの仕業なのだろう。
確かにこの星の風景を考えると、建てる家も内装もアメリカ的にしたいと考えるだろう。
でも、私が案内された家は西部劇のアメリカ的、ではないような。
「ねえ、私達に提供して下さったお家。あれこそあなたの趣味なのかしら。ドアの形や窓の形が独特で、でも、とっても素敵なの。あれは西部では無くて南部アメリカ式の建物なのかしら。」
「それは違うし、あれは単にスペイン式ですよ。」
私は男性の声にぐるっと戸口に振り向いた。
戸口には保安官姿ではないヒューが立っていた。
ブルージーンズにシャツを羽織っているだけの、ザ、アメリカンという格好だ。
「まあ、保安官。ごきげんよう。」
気軽な格好のヒューは、貴族社会の紳士の礼を私にした。
「あなたはただの保安官では無いのですね。」
「いいえ。ただの保安官です。この星には次々に若きご令嬢がいらっしゃいますから、俺は女性に頭を下げることだけ上手くなりましたよ。」
どうしてヒューはこんなにも刺々しいのだろうと思ったが、とりあえず私は目的のデトゥーラも仲間に入れる、という計画を推進することにした。
「まあ、大変ですわね。ねぇ、ヒューさん。ハルから池の話を聞いたの。ピクニックをいたしませんこと?鯰を釣ってお昼に食べるの。」
ハルベルトはプッと吹き出して、笑いながら私に茶々を入れた。
「それはピクニックと言わないでしょう。」
「あら、ご飯を食べるのが目的ならピクニックでしょう。」
「いいや。鯰を血祭りにあげるのが君の目的でしょう。」
「まあ、本当ね。何匹鯰を釣れるのか競争しましょうか。」
「食べない生き物を殺すのは可哀想ではありませんか?」
水を差してきたのはまたもやヒューである。
「では、あなたはみんなで何をしたら楽しいと思いますか?婚約とかそんな関係は放っておいてね、私達はみんなで楽しく遊ぶべきだと思いますの。それで恋をしたら結婚すればいいし、単なる友情のままだったら、はい、さようなら、お手紙を書いてね、で、お友達のままでいればいいのだし。ねえ、どうかしら?」
ヒューは緑がかった琥珀色の瞳をきらりと輝かせ、数分前まで刺々していたことも忘れた様ににっこりと私に微笑んだ。
「いいね。じゃあ、皆で遠乗りはどうかな。」
「ハハハハ。それじゃあ、主役の俺が行けないじゃないか。」
「何を言うの。君の眼の代りは馬がするから平気だよ。」
私はハルとヒューの気軽な掛け合いを目にして、彼等は雇い主と使用人ではなく友人同士だったのだと気が付いた。
父と父の会社の幹部たちとの関係みたいなものだろう。
表では身分違いだからと雇人と使用人という関係を保っているが、父が考案した社員パーティでは、無礼講だと父と彼等は肩を組んで大学時代の歌をがなり立てたりしているのだ。
でも、うーん。
使用人ではなく友人であるのならば、友人の好きな内装や街並みを作っちゃうの、かな?