七 晩餐会
私がハルベルトに会えたのは、招待された夕飯の時に、である。
この場所に当り前だが使用人である保安官の姿は見えず、私とハルベルトとイリアという三名だけの寂しい晩餐だ。
卓上には蝋燭の炎が揺らめいているが、花の類は一切ない。
しかし、真っ黒の晩餐用のタキシードを着たハルベルトの姿が、卓上花の不在を補う程に素晴らしいどころではなく、デトゥーラが彼の傍を離れたくないと望んだのもわかる気がした。
包帯で覆われた目元では、あの月よりも輝けんばかりに美しいが控えめなデトゥーラの存在を見過ごすことは当たり前であろう。
いや、あんなに優しいデトゥーラの存在に気が付かないはずはない。
では、彼は自分の体の状態で彼女を斬り捨てたのではないか。
彼はだって、後ろに立つ従者に色々と介助されている事にこそイラついているじゃないか。
同情はいらないっていう、プライドによる拒絶なのではないのか?
私は彼に話しかけようとして、だが、今回も口を開く前に彼の口が従者の差し出したフォークに乗った食べ物によって塞がれ、私も口を閉じるしかなかった。
これでは会話もできやしない。
先ほどから何度もこんな状態の繰り返しなのだ。
私の皿は新しい料理の皿に取り換えられた。
彼の皿も新しいものだ。
すると、皿の交換のために下がっていた従者が再び前に一歩踏み出した。
「あの、あなた。少し下がったままでいて下さるかしら。私はハルベルト様とゆっくりとお話がしたいの。」
うわ、従者は物凄く私に対して反抗的な目を寄こした。
が、すぐに頭を下げて壁際に引っ込んだのは、私の隣のイリアの目線によるものだろう。
彼女は私を彼女の娘同然に可愛がるのだ。
「ふふ。すいません。ミモザ様。私は介助なしで食事も出来ないものでして。」
「あら、そうかしら。皿は常にあなたの目の前。フォーク類は既定の位置。それから、皿に乗っている料理の説明は、そうね、お皿は普通のディナー皿よ。その真ん中、時計の真ん中にテリーヌ。一時と三時、そして九時と十一時に飾りともいえる野菜が乗っているわ。」
ハルベルトは私に対して、それはその口が裂けましたか、と聞きたくなるほどに口角を上げ、迷うことなく自分のフォークを取りあげると、一時方向にあったレタスを上手に掬い取って口に運んだ。
「ああ、自分で食事をしたのは何日ぶりだろう。」
なんて素晴らしい声なんだろう。
低くてうっとりするような、でも擦れてもいる。
彼の声は、なんだか腰の辺りがざわざわするような、不思議な感覚も私の身体に呼び起こした。
「あなたは何て素敵な声なの。」
ハルベルトは本当にうれしそうな声を出して含み笑いをした。
うわあ、本気でなんて素敵な声なんだ。
「君こそ本当にいい子だよ。」
ハルベルトよりも深くいい声を出したイリアの足を私は蹴っていた。
「もう。伯母さまったら。」
「あら、だって。あなたは経験が少ないからね、比較対象って必要だと思うの。」
「うーんそうね。だったら、次はデトゥーラも一緒は如何かしら。あら、完敗だわ。あんなに素敵な淑女は見たことが無いもの。彼女の作ったバナナクリームパイはそれは美味しかったのよ。」
ぶふっとハルベルトは酷く咽せ、再び介助が必要な程だった。
そして今度は私がイリアに足を蹴られていた。