六十 公爵家男児は安売りバーゲン中
私は右腕にはハルベルト、左腕にはソーンという、両手に花と喜ぶよりも捕獲された宇宙人になったような気持ちでパーティ会場まで連行された。
車の中では会場に辿り着くまであと三十分は要するだろうが、歩きの私達はほんの三分でエントランスに潜り込めた。
しかし、エントランスホール内でも客達が数珠になっており、ダンスホール扉前で客達を待ち受ける公爵夫妻に謁見するまでの長い行列の後ろをノロノロと歩くしかない。
「で、お前はとっとと親父達の場所に戻りなさいよ。一応君の婚約パーティでしょう。ほい、主役、戻りなさい。」
「うるさい。自分の婚約者を放って行けるか!」
「ハハハ、確かに。一応は君の婚約パーティのはずなのにねぇ。」
「え、どういうことですか?」
「何、うちのお母様の暴走かな。あの人はカーンの結婚と孫を抱ける事を強く強く望んでいるからね、パーティのお題目からハル君の名前を取っちゃったんだよ。正式名称、公爵家男児婚約パーティ。まさか君がハルへの生贄に選ばれていたなんてね。知っていたら俺は母を止めていたし、こんなややこしい事になってはいなかったと思う。」
「ややこしい事って?私がハルベルトの婚約者だという事実は揺るがないでしょう。ねえ、ハルベルト!」
「そう言ってくれて嬉しいよ。俺も君を手放さないが、君は今夜最終の決定が出来るという事らしい。母が言うにはね、世間知らずのお嬢さんが後で後悔しないように、自慢の息子全部とおしゃべりして、好きなのを選んで欲しいのだそうだ。全く、何を考えているのだか。」
私は頭に血が昇ってしまって、社交界の掟どころか今後の両親の事さえも頭から抜けてしまっていた。




