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どうしてあなたが婚約者の従者なの?  作者: 蔵前
グリロタルパ一日目!
6/68

五 友と賭け事

「どうしたの、大笑いして。今日の子は良かったのかな。」


「いかがわしい店に遊びに行ったように思えるから、その言い方はやめてくれないかな。」


「ああ、すまない。だけどさ、似たようなものでしょう。次々とお嬢さん方がやって来ては、恥も外聞もなく君のご指名を受けようと必死だ。」


 優男にしか見えない外見ながら、軍隊では特殊部隊員だったブランズウィック・ベイカーがノックもしないで俺の部屋に入ってきた。

 彼は目の手術をしたばかりで、真っ青な美しい瞳は包帯で覆われている。

 彼の怪我は俺の親父への襲撃犯との攻防で受けたものだ。


 爆弾から体を張って公爵を守った男は、健康と視力を失ったのだ。


 ただし、目の手術は成功しているので、数か月後には日常生活に無理が無い程度には視力が回復するだろう。


 体は残念ながら、だが。


 宇宙の端から端まで旅行できる時代であるのに、父へと投げ込まれた手榴弾、細胞の崩壊を招く放射性物質をばらまく汚い爆弾だが、それを受けた人の体の完全な再生だけは未だに不可能なのである。


 彼は健康だった時のようには内臓が機能していないため、食も細くなり、食べても栄養の吸収ができないからか、日々やせ衰えるばかりである。

 また、彼の動作は九十代の老人並みにゆっくりで、九十代の老人並みに疲れやすいという体になってしまってもいるのである。


 彼は自分の体の今後を知るや首都星の病院で自殺しかけ、父は彼を俺に託した。


 俺は父の恩人を喜んで受け入れ、彼は居心地が悪そうでもあるのだが、俺の友人ともなってくれ、俺へ憎まれ口を叩くぐらいの関係にもなってくれた。

 それでも、俺や父に恩返し、を考えていそうなそぶりもある。

 いや、恩返しは我がヨモギ一族が君へだよ、と俺は彼に言いたい。


「君の機嫌が良さそうな所を見ると、君は彼女を宇宙船に今日のうちに乗せちゃったのか、今日の子が君の好みだったのか、どちらかだね。」

「宇宙船に乗せられなかったし、うん、好みでも無かったよ。俺はまだ結婚したく無いものね。そこで、頼まれてくれるかな。」


「いいよ。俺で出来ることなら。」


 ブランズウィックの声には喜びさえ見える音が含まれており、俺はこの時初めて彼が居心地が悪いのは無力さを自分に感じていたからだと思い当たった。

 俺達は何と彼に残酷な事をしていたのだろうか。


「よかった。俺はね、嘘を吐いちゃったの。俺はハルベルトの部下の保安官ですよって言っちゃってさ。ねえ、ブラン。俺の振りしてくれる?ミモザにはあのイアン教官もついているから怖くって。」


 ブランズウィックは、目元が隠れているのに口元だけで物凄ーく嫌そうな表情を作り、明日にでも首都星に戻りたいとも言い出した。


「頼むよ。俺はデトゥーラの時と同じ失敗をしたくないんだよ。彼女がどんな人間か見極めたい。」

「――いいですよ。ですけどね、見極める時間など無いと思いますよ。こんな姿を見れば誰でも婚約破棄をしてくるでしょうし。」


「あら、そんなことは無くってよ。今のあなたの方が女心を惹くと思うわ。」


 突然の低い男の声による貴婦人の言葉に、俺達は同時に振り向いた。

 畜生。

 首元が美しいダイヤモンドカットの黒のカットソーに、巻きスカートを合わせて足元がロングブーツという、美しいが美しすぎて恐ろしい存在が俺の部屋の戸口に佇んでいたのである。


「まあ、まあ、ブランズウィック。あなたの具合はよろしくて。」


 教官は俺という存在を完全に無視をして、彼の教え子であったはずのブランズウィックに一直線に近づいて、そして、なんとナイフをブランズウィックに対して煌かせたのだ。


 しかし、盲目のはずのブランズウィックはそのナイフを交わして、代わりに自分が持っていたナイフを教官の顎の下に正確に向けた。


「素晴らしいわ。あなたはまだ使えるわね。」

「あ、ありがとうございます。」


 うわ、ブランズウィックはイアン抱きしめられ、なんと、イアンの腕の中で感涙に咽はじめたではないか!


 そして、魔物はブランズウィックを幼子のように撫でている。


 ブランズウィックは俺よりも数段外見のいい男だ。

 金髪に青い瞳の彼の造形は世の女性の垂涎の的であり、彼の病室には俺の母と姉が日参し、そして彼の自殺を見咎めたのだ。


 あれ、もしかして、俺の母と姉のせいで彼は死にたくなったのだろうか。


 ブランズウィックを見返せば、彼はまだイアン教官の腕の中にいた。


「あんたは、何しに来たんだ。」

「あら、普通に私の可愛い姪っ子を虐める男を退治しによ。で、臆病で馬鹿なプリンちゃんは、あの子に嘘をついて、あの子を見極める?偉くなったものね。」


 俺は彼に扱かれた時、アルティミシアプリンセプスという苗字で呼ばれた事は無く、プリンとしか呼ばれなかったと思い出した。


「親に言いつけられた婚約者などいりません。何もない男の俺に惚れてくれたのならば、俺はそんな女性に何でも差し出すつもりですよ。」


「あら、まあ、プリンちゃんたら。よろしくてよ。受けましょう。その賭け。あなたはヒューとしてあの子と付き合って、あの子があなたに惚れて、何もないあなた自身を欲しいと望むならば、あなたは全てをあの子に差し出す。あの子があなたを選ばなかったら、私が責任をもってあの子を連れ帰るわ。ふふ。素敵な星ね、ここは。私のファーファも喜びそうな楽しそうな星だわ。ありがとう。」


 え、俺は丸裸にされるのか?


 で、ファーファって、あのムスファーザ・リリオぺの愛称じゃなかったか。


 あの殺人狂か?


 あいつがこの星に来る?


 俺を丸裸にして財産を奪うために俺は殺されるの?


「待ってください。ここはハルの夢そのものなのです。何もなくても良いなんて、誰でも口に出せるセリフです。ここはもう一つ条件をつけませんか。」


 おい、ブランズウィック、お前は何をするつもりだ。


 しかし、魔王は俺などチラリとも見ずに、ブランズウィックに対して目を輝かせて口角を上げた。


「よろしくてよ。さあ、言ってごらんなさいな。」

「彼女の言葉が嘘だった場合、また、ハルが彼女を愛したら、そこで全ての約束事はクリアにしましょう。ハルが彼女を愛したらあなたの言う丸裸になったも同じ状態です。いいでしょう。」

 ブランズウィックの言葉を聞いて、イアンはようやく俺の方に視線を向けた。


 肉食獣が狙いをつけた目線である。


「あなたはよろしくて?」


「俺がどうしても彼女を愛せなかった場合はどうなるんだ。俺は意味も無く丸裸か?俺はしたくも無い結婚をして、骨の髄までしゃぶられろ、と?大体、彼女が俺を愛してくれても、俺からの愛が無ければ不幸だろ。」


「じゃあ、あの子に学費を出してあげて。あの子は環境局の環境保安課で働くのが夢なのよ。星々の、人間が入植するようになって絶滅していく動物を助けたい。なんて可愛らしい私の愛し子かしら。」


 畜生、俺の中でミモザへのポイントが加算されてしまった。

 俺は勿論ですとイアンに答えていたのだ。

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