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五十四 自分の出来る事、一緒にできる事

 俺は壇上から新入生を懐かしい思いで見回しながら、愛すべき婚約者が俺の姿に目を輝かせるという素晴らしい瞬間まで手に入れた。


 数年ぶりに首都星に戻ってきた俺は、どうしてこんなにも頑なにグリロタルパに引きこもっていたのかと考えてしまった。


 普通にグリロタルパを栄えさせようと商業活動をするのであれば、グリロタルパの産業を売り込む営業も必要となり、経済が首都星に集約されるのであれば積極的に首都星に足を運ぶ必要もあったのだ。


 実際に、肉の新しい流通経路となるだろう新契約も結べた。


 母が俺を昔の恋が忘れられずに引きこもっていると思い込んだのも無理は無いではないかと、簡単に大口の新規開拓ができた俺は自分の頑なさに大笑いをあげたほどだ。


 兄三人に抱いていた俺のコンプレックス。

 公爵家の息子という肩書が無ければ俺には無価値だという思い込み。


 それらが枯れ地でしかなかったグリロタルパを豊かな星に変えようとした己の原動力にもなったのだろうが、実際に成功もしているのならばそろそろ俺は自分自身によくやったと褒めて自信を持つべきなのだ。


 執事のシュミットは俺が首都星に行く理由を聞くや、涙を流して流石です坊ちゃまと、俺の一歩前進した気持ちをがっかりさせるようなことを言ってくれたが、彼は最高な執事として俺の首都星への凱旋帰国の手配を完璧に整えてくれていた。


 そう、凱旋だ。

 俺は取りあえず成功者であるはずなのだ。


 俺は自分の後輩がこれから希望を持って頑張れるようにとマイクに向かった。

 いや、もうすでに原稿の最後まで俺は彼等に語っている。

 そう、原稿の言葉は全て終わった。


 ここからはたった一人の後輩へのエールである。


「私の星グリロタルパでは絶滅危惧種というソーラレイの繁殖が認められ、実は今後の開発がストップされてしまっております。これを不運と見るか好機と見るか、恐らくは不運でしょう。ですが、我が星を自然環境保護施設及び絶滅危惧種の繁殖場としての環境整備ならば開発も可能ですし、その場合の開発は政府からの援助金となるものです。いいですか、君達も今後せっかくの成功に影を差す事が起きるかもしれない。だが、それを不運としてではなく、試練でもなく、次の成功へのステップだと活用するしたたかさを持っていて欲しい。また、自分一人で考え込むのではなく、信頼できる誰か、親友でも恋人でも家族でも、助けを求めることこそ次の成功の扉を開く鍵です。」


 俺はミモザから目を離せなかったが、彼女も俺から目を逸らさなかった。

 そのうえ、俺の言葉が一言一句ミモザに伝わっているという証として、彼女が俺に対して俺への思いを俺にだけわかるように唇を動かしてくれたのである。


 あ、い、し、て、い、る、わ。


 俺から変な空気が漏れ、今の俺の顔は真っ赤になっているかもしれない。

 そんな俺に、きっと、俺の事情を知っている俺の恩師で俺を壇上に担ぎ上げた怖い男が咳ばらいをした。


「ハハハ。すいません。学長が怖くて言葉を忘れてしまいました。ええと、一番大事なアドバイスとして、入学式当日に卒業生がのこのこと大学に来るものでは無いですね。見覚えのある教授に捕まえられて、大昔にレポートで泣いた時のように式前三十分で原稿を書いて読み上げろときた。では、皆様の今後の活躍と成功を祈っております。入学おめでとうございます。」


 俺は俺を見つめるミモザに微笑み返した。


 結婚後はどうするか、君一人が抱える事ではない。


 一緒に話し合って考え合って、そして、手を取り合って、俺達は前を進もう。


 本当にそれだけをミモザに伝えに来ただけなのに、恩師が学長になっていて、祝辞と寄付を強要されるとは思わなかった。

 まあ、ミモザが俺の婚約者だと恩師に伝えてあるから、カーンの余計な横やりからはミモザを守って貰えるだろうから、いいか。

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