四十九 宙港にて
「あれ、どうして私が戦艦に乗るの?」
「え、首都星に帰るのでしょう。俺も帰るの。船には空きがあるね。はい、乗って頂戴。」
「答えになっていないし!私の気持ちが決まるまで口説くなってお手紙書きましたよね。食べちゃいました?シュバルツコフ君は羊さんでは無かったですよね。」
「うん。恋人として口説くのは止めた。ただし!俺が素晴らしい人物であるという自己アピールは必要だと思うんだよ。君の中の僕はいつだってシュバルツコフ。笑顔だけの白熊さんだ。等身大の僕は泣くし寂しがり屋だし、優しくしないと死んでしまう兎のような男だ。さぁ、乗った。」
ハルベルトとのお別れは彼の屋敷の前だった。
「俺は待つよ。そして君はゆっくり、とことんに、自分が何をしたいのか考えればいい、いや、考えて欲しい。この星は辺境だ。俺との結婚はこの星に君を縛り付けることになるだろう。」
「ええと、それも踏まえて考えたいの。本当にこの星に住む事になったらこの星に縛り付けられるだけなのかしら?この星で出来る事さえあれば、私は縛り付けられるって事にはならないじゃない?でも、ええ。私を待っていてくれるのはとても光栄なことだわ。あの、体に気を付けてね、ハルベルト。」
ハルベルトはハハハと笑い声をあげると私の両手を掴んだ。
大事なものを包むように両手でそっとだ。
「きっと君に俺は幸せにしてもらえるだろう。だからこそ、俺は待てる。君は自分の幸せだけを考えて、うん、ちゃんと大学でお勉強をしようか。」
「もう!」
そこで邪魔者に邪魔されてしまった。
宙港に俺が連れて行くから、という大将閣下のお言葉と大将閣下の兵隊に囲まれた私達では素直にそこでお別れするしかなかったが、そこからカーンの奸計は始まっていたようなのだ。
ここにハルベルトがいたら、絶対に、私をカーンから引き剥がして予定していた帰国用の船に放り込んでくれたであろう。
「さぁ、早く乗って。軍船の方が優先権があるんだよ。俺達の船が出港しなければ一般船がいつまでたっても出港できない。遊びで星々を廻っている船なんていない。客船だって貨物室はあって、それでちゃんと貨物も運んでいるんだよ。」
私は私よりも世界を知っているろくでなしに、自分の顔をクシャっと歪めて抗議の気持ちだけ伝えると、仕方がないと軍艦の方のタラップを昇っていた。
私を置いて一足先に乗船していたイリアとムスファーザは、私が合流すると遅いわよと逆に叱責してきた。
「え、だってこれは軍船じゃ無いの。一般人の私が乗っても良いの?」
「私達は軍籍のある軍人だもの。この船は家族の乗船が認められている船よ。全く大丈夫よ。それに、予定の客船よりも設備はこちらの方が上じゃないの。損得は必ず考えて行動するべきことなのよ。」
「そうそう。カーンは味にも煩いから食事も最高だしね。損得勘定は大事。」
私は姪を簡単に切り捨てた二人の会話に、そういえば彼らは常に現状を向上させる努力を失わない方々であったと思い出された。
ムスファーザなどは、見覚えがないハルベルトの新品の服にだって目を引くが、胸元のネクタイに輝く物凄く高価そうなルビーのネクタイピンについては、それは一体どうしたのか突き詰めたい。
服だけじゃなく、それも盗んじゃったの?
ああ、なんてハルベルトは懐が広い人なんだろう。
「さあ、急いで船室に行きましょう。」
「え、お茶はいかが?それから船室でいいでしょう。」
私の後ろには大将閣下がいた、そういえば。
そして、大将閣下よりも偉いらしいイリアが、カーンに対して子供を諫める母のように言い返した。
「船室で休む事が先。そのお茶を船室に運ばせても良くてよ。」
これは言うこと聞かないと私達は船室であなた抜きでお茶を飲むよ、という脅しだと思うのだが、カーンは言葉通りに受け取ってしまったようだ。
「あ、そうだね。君達の船室でゆっくり休みながらお茶を飲もう。さあ、ミモザ、荷物を持とうか。さあさあ、君達の船室に急ごう。」
私達は三人ともクシャっと顔を歪めながら、一人能天気な大男の後ろをついていくしか出来なかった。
結局一番偉い人だし。




