四十三 方法はいくらでも
ヒューは私の話を聞くと腹を抱えて笑い、でも、馬鹿にした笑いではなく、私の失敗の理由が私らしいという理由での笑いだった。
「素晴らしいよ。自立心溢れる君そのものの失敗だ。そうだね、単なるオーブンを発注しようか。温度調節も時間設定も自分でやらなければいけないという、科学博物館に置いてあるような旧式。俺もね、こんな館を作っても、なんだか違うって感覚があるんだ。映画の中で見た料理や菓子の様々が俺には食べて見たい夢のものなんだよ。」
私はきゃあと歓声を上げてヒューに抱きついていた。
「ええ、ええ。そう、私は旧式のオーブンが欲しいの。それから、ガスコンロも旧式のものが良いの。適当に切った野菜と適当に切った肉で、料理名も無い単なる煮物も作りたいし食べたいの!ありがとう!」
ヒューはハハハと笑い声をあげながら私を抱き締め返し、えっと、顔が近づき過ぎません事よって!
わ、私はこのまま彼とキスをしてしまうの!
「ミモザ。さぁ、お腹がぺこぺこだ。ホットケーキを焼こう。生地は君が作ってくれるかな。俺はね、君の料理を拒否しないようにコンロに言い聞かせをしてみることにするよ。」
「まあ、私が自分で混ぜたホットケーキが焼けるの?食糧庫システムが全部やってくれたものじゃなくて。」
「もちろん!君の言う料理方法がとっても楽しそうだからね。」
私は再びきゃあと喜びの声を上げると、ヒューの手を取って彼の屋敷の台所へと駆け出していた。
彼も楽しそうな笑い声をあげながら一緒に廊下を走ってくれて、私は彼と結婚したらこんな生活なのかもしれないと、とっても未来が明るい気がしていた。
台所に召使がバリケードを張っていなければ。
「え、どうして!すぐに終わるよ。」
「旦那様。恐れ入りますが、ここは旦那様の立ち入られるような場所ではありません。それに、ミモザ様は迎賓館のオーブンとコンロを既に六回は入替えが必要な程に壊されています。」
私は小さくなってごめんなさいとヒューに謝るしか出来なかった。
「いいよ。それじゃあ、ミモザの言う材料だけ用意してくれるかな。俺達は庭でホットケーキ祭りをする。俺は婚約者の手料理が食べたいんだ。」
え?っと私はヒューを見上げていた。
「ミモザ、君のホットケーキに必要な材料を言ってくれ。」
私は彼に促されるまま、ホットケーキに必要な材料を彼に伝え、そして私は彼に手を引かれたまま中庭に連れ出された。
「ちょっと、待っていて。直ぐに戻る。あ、寒くは無いかな。」
「え、ええ。大丈夫。」
彼は再び屋敷に駆け戻り、戻って来た時には、何という事、彼はキャンプ用のコンロを持って来てそれを庭に設置し始めたのだ。
「え、こんなに単純な肉や野菜を焼くだけのコンロがまだ存在していたの?それも、バーベキューコンロなんて、首都星では持っているだけで処罰されるものではなくて?」
地球では無い星々を人が住めるようにテラフォーミングしている事情で、空気汚染をすること自体が人殺しよりも重罪に近い認識なのだ。
「ああ。軍が遠征用に兵士に支給するものだよ。戦場では材料をピタリ用意なんて出来ないものでしょう。あるものをそのままにっていう軍用の備品だけど、君の言う料理にはこれが一番かな。」
「まあ、ムスファーザ伯父様だって持っていらっしゃらないのに。」
「だって軍備品のそれまた未開惑星の探査任務を受けた下級兵士の遠征用グッズだもの。これは俺がこの星に住むと決めた時の父からの冗談のプレゼントだよ。頑張って生き延びろよってね、ひどいでしょう。」
私は彼の言葉に笑い声をあげ、私の為にコンロを設置してくれる彼のためにと、ホットケーキの種を作り始めた。
「ねえ、あなたは薄い方が好き?それとも厚みのあるタイプの方がいいかしら。」
がたっと彼はコンロを倒しかけ、でも、耳まで真っ赤になっている癖に、彼は何でもないと、別の事を考えてしまっただけと私に謝った。
それから、自分は映画で見た何枚も重なっているのが食べたいと答えてくれた。
「ほら、小さいのが幾重にも重なっているタイプ。」
「ああ、焦げたベーコンとスクランブルエッグも添えて、シロップを大量にかけるって言う、あの罪深いホットケーキね。」
「そうそう。アメリカ映画の朝食はそれでしょう!」
私は気合を入れてホットケーキの材料を混ぜ、そして、彼の作り上げてくれた、私が夢にまで見た単純な鉄板に黄色の小さな太陽を描いた。




