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どうしてあなたが婚約者の従者なの?  作者: 蔵前
グリロタルパで日にちばっかり過ぎていく!
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四十 猛獣の母はそれなりだ

 俺はマザコンなのかもしれない。

 最初は領地に居付いてしまったデトゥーラについての相談で、そして、今回は俺の婚約者に懸想している実の兄についての相談を母親に持ち掛けているのだ。

 いや、相談なんてものじゃない。

 俺は言葉通りに母に泣きついていた。


「あいつをどうにかしてくれ。明日には俺のミモザと婚約発表するぐらいの勢いなんだよ、あのロリコンは!」


 モニター通信の向こうの母、小さな卵型の輪郭に人形のような目鼻立ちをした美女は、漆黒の髪を艶やかに大きくバルーンのように結い上げた不思議な髪形に、やはり人形のような体にカシュクールとなった打合せの絨毯模様のような派手で不可思議な模様のドレスを着ているという姿だ。

 そして美しい女は薄情と思われがちだが、彼女はそれを否定する気は無いという風に、俺の陳情に対して上品そうに笑い声をたてて返した。


「あら、開口一番が、それ?」

「――。」


 俺は単なる通信機器に誰がモニターまでつけようと考えたのかと、このシステムを考えた奴を縛り首にしたいと考えながら母親へ恭しく頭を下げた。

「いつもながらお美しくご壮健なお姿に、息子として喜ばしく思います。」

「あら、堅苦しいのね。」

「――。申し訳ありません。今日のドレスが田舎者の僕には最先端にしか見えないので、それに準じた敬意をと思いました。」

「もう!昨年買ったドレスよ!あなたったら忘れたの!ひどいわね!」

「忘れるどころか、それをお召しになった姿は今日初めてですよ。」


 俺は母親と会話を続けるごとに、「不毛」という真実になぜ気が付かなかったのだろうかと自分を責めていた。

 わかっていたはずじゃないか。

 彼女はあのカーンの実母でもあったのだ。


「母さん。俺を揶揄うのはここまでにしてくれ。あの壊そうにも絶対に壊れないカーンと違って、俺は繊細で弱々しいんだよ。」

「あら、そうかしら。」

「そうですよ。そして、四番目で何の力も無い俺は、自分の領地にいながら、客人でしかない実の兄に面会を乞うにも幾重もの障壁を潜り抜けなければいけない身分です。公爵夫人として、格下の侯爵様に弟の婚約者に余計なちょっかいを出すなと一言お願いできますか?」


 彼女は俺の陳情に対して全く意に返さないという風に小首を傾げただけだった。

 いや、母である彼女は母親が良くする余計な事まで口にした。

 それも、傾げた首の先端に情報が行き届いたからなのか、手を打ち合わせてとっても嬉しそうに、だ。


「あら、まあ。カーンが女の子に興味を?」

「ええ、ロリコンです。女の子に、興味、です。」

「もう、あなたの婚約者と言ったらミモザちゃんじゃ無いの。年齢的にロリコンでは無いわ。ああ、それはおめでたい事ですわ。あなたは結婚にはそんなに興味がなかったのですもの。あの子もようやく身を固める気になったのね。」

「母さん。俺も身を固める気になっているのですよ。ミモザも俺に好意を寄せてくれて、これから、って所なんです。兄の邪魔は大変困るのです。」


 一個師団連れてきたとカーンは俺に言ったが、本当にその通りで、大将閣下様が居付いた迎賓館の並びには領主の俺でさえ本気で近づけないのである。

 無論、俺は抗議もしたし、俺の家で勝手に寛いで遊んで帰っていくムスファーザ様にもミモザとの面会を求めたぐらいなのだ。


「まあ、まあ!素晴らしいわ。ようやくのカーンの結婚式ね。まぁまぁ、招待客はどうしましょうか。ああ、それよりも結婚式のテーマを。ああ!決めることが沢山じゃ無いの!ハル?ママは忙しいからごめんあそばせね。あなたも男の子なんだから、お兄さんのように自分のことは自分でなさいな。」


 ぶつ、っと俺の母親であったはずの薄情者は勝手に回線を切った。


 子供が連絡してこないと嘆く母親は数多くいると思うが、彼女達は絶対に連絡してきた子供の心やら面子やらを傷つける対応をしているに違いない。

 兄と同じようなというのならば、兄と同じように一番に産んで欲しかった。

 俺はあの兄の衛兵に銃を向けられて追い払われたのだぞ!


「もう!ミモザはあなたが俺の妻へと頼んでもいないのに送ってきた人でしょう。その気にさせといて取り上げるって、ひどくないですか!」

「わかーる。その気持ち。僕もこんな星まで呼ばれて頑張ったのに、イリアが全然優しくしてくれない。」


 俺は呼んでもいないのに俺の屋敷をセカンドハウスにしてしまった、俺の真後ろに幽霊のごとく急に現れた男に振り向いた。

 俺の屋敷の客間の一つを勝手に自分の個室にしてしまった男は、俺の部屋から勝手に持って行ったらしい俺の新品の部屋着を着ていた。

「あ、また勝手に着てますね。ご自分の服はどうされたのですか?」

「みーんな捨てちゃった。ぜーんぶ駄目になっちゃっていたから。ああ、そのくらいに、僕は頑張って頑張って頑張っていたのにね。」

 俺よりも少々小柄な男は俺などどうでもいいのか、言うだけ言うと頭をがっくりと下げてテクテクと歩き出し、俺の屋敷のサンルームがある方向へと向かって行った。


 俺は数秒考えて、ムスファーザを将を射んとの馬としてみようかと、彼の後を追いかけた。

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