三十六 魔が差したんだよ
小児愛好者的変態だったらしき兄は、俺の婚約をぶち壊す気持ちらしい。
兄を書斎に連れ込んだ俺は、まずミモザを変態の手から守るために、俺とミモザの絆ともいえる出会いの話を彼に聞かせて諦めさせようと試みたが、自分の方が絆が深いと笑い飛ばされただけだった。
「お前は軍のイメージキャラクターのシュバルツコフ君だったんだろうが。」
「ハハ、バカだな。人間は中身なんだ。俺は確かにシュバルツコフ君だったが、素顔と仮の姿という二人だとしても、お前のたった一時間程度と比べれば一週間も一緒だった俺達は、心の底から分かり合えていたと言えるだろう。」
「いや、絶対にわかんないと思うよ。大体、どうして大将閣下様がシュバルツコフ君に扮装しているんだ。そっから間違いがあるだろ。」
カーンは大きく溜息をつくと、自分はいつだって大変なんだと、四男でふらふらできるお前が羨ましいと、俺に真っ向から喧嘩を売ってきた。
「俺はねぇ、希少生物だって毎日追っかけまわされる可哀想な生き物なんだよ。」
軍部は宇宙の安全を守る。
それが故に、代々軍部を掌握する公爵家は未来の少年少女の養育の為のプロジェクトに出資と協力をしている。
つまり、兄の領地であるバセラ星では、夏になると貴族の子女を集めての林間学校のような事が開催されるのである。
しかも、当時も未婚だった兄は貴族女性達の理想の結婚相手だった。
「もうね、毎年毎年、結婚適齢期のお嬢さんが弟妹の付き添いで母親と一緒に押し寄せてね、俺が彼女達の相手をしたりと大変なのよ。俺のベッドにいつの間にか全裸のお嬢さんまで寝ていたりね。わかる?ヒモがついてなけりゃあいただくけどね、ちょっとでも触れれば、リンリン罠にかかりましたよ、だ。やれるわけないだろうが。」
常に人がいて疲れ切ったカーンは、寝不足だったこともあり判断力が落ちていたのか、林間学校用の敷地内の倉庫に転がっていたシュバルツコフの中に入ってしまった。
適当に床に放っておかれ、死体のようにでれっとしている笑顔のままのクマが、彼を誘っているように思えたのだという。
「わかるよ、疲れてんだろって、さ。」
彼としてはひと時の睡眠をとりたいだけだったのだ。




