三十五 カーン大将閣下様
軍部のチラシで見たことのあるハンサムが、ヒューのお兄さんだった。
そして、妙に馴れ馴れしいカーンという名のバセラ侯爵様は、私の事をよく知っているよと言い張るのだ。
私は首をかしげるばかりだが、カーンはデトゥーラの懸念事項である王子について一瞬で対処してくれたのでそこは評価しなければならない。
ヒューの館に来た彼は、思いっきり影の薄かった第三王子を私達に紹介し、デトゥーラと対面させるや、はいさようならと、首都星に帰してしまったのである。
まあ、流れとしてはこうだ。
とりあえず王子とデトゥーラを対面させると、カーンは従弟でもあるらしい王子に言い放った。
「よし。再会できて思い残すことは無いな。ほら帰れ。俺と弟の邪魔だ。」
「帰るわけ無いだろう!デトゥーラは私の妻となる女性だ。結婚など私が認めないと言えば認められないものだ。再生機で処女に戻せば、目の前の男の種なども消えてなくなる。デトゥーラ、待たせてすまなかった。そなたは本当に美しい。」
ブランズウィックの殺気は物凄く、私までひゃっと脅えるものだった。
しかし、誰も動けない冷気の中でありながら、間抜けな王子は殺気に気付かないまま元気に騒いだのだ。
「なんだその目は!騎士は王家に従うものだ。お前の方から妻を差し出して当たり前だろう!」
すると、ひょろっとしてヒューの外見の方に似ている王子は、絶対に適わないだろう体の大きなカーンにがしっと肩を抱かれ、その場にいる誰もが聞き取れる音量だったがカーンとしては囁き声の恐ろしい声で窘められた。
「俺の親父の恩人の嫁に手ぇ出す気か?ワープで行方不明ってよくある事故だ。お前は経験したいのかよ。」
宇宙の安全を守る軍の大将閣下様が直々に脅したのだ。
王子だってちびるだろう。
アールベインは真っ青になって震え、カーン直々の手で王子の侍従に手渡され、王子は乗ってきた宇宙船に再び乗せられて帰国の途についている。
デトゥーラとブランズウィック夫妻、正しくはベイカー夫妻は一瞬でカーンの信奉者となり、私もこの事態は喜ばしいと彼には感謝だ。
だが、やっぱり首を傾げたい。
「これで面倒は消えたね。それじゃあ、俺とミモザちゃんは再会を祝おうか。吃驚したよ、うちの母さんが君をオケラ星に送っちゃったって聞いてね。俺こそ君が大きくなるのを待っていたというのにねぇ。婚約解消は大丈夫だよ。より良き結婚のためのステップアップなら、君の経歴に傷はつかない。」
「あの、お会いしたことがありましたか?」
カーンは自分の胸を右手でバシッと音がするほどに押さえ、傷ついたような目で私を見返した。
「忘れたの!鳥のヒナを巣に帰したいっていう君の台になったり、君と一緒に落とし穴という大きな穴を掘ったあの日の事を!」
ハイ、思い出しました。
ただし、私と一緒に遊んでくれたあの日のあれは、軍のイメージキャラクターだった白熊さんだった。




