三十三 結婚式
俺はミモザの提案には難色どころか完全に賛成だが、ブランズウィックとデトゥーラの今すぐに!の特にブランズウィックが発情してしまった顔をしているところから、嫌がらせに断ろうとチラリと思った。
しかし、兄カーンが何を考えてアールベインを連れて来たのかわからないので、デトゥーラの不安であるアールベインとの元鞘という可能性の芽を潰して兄の面目を潰すのも面白いと俺は親友と元婚約者の結婚を認めた。
そう、イアンやムスファーザに勝手に蹂躙されまくったグリロタルパであるが、俺こそ持ち主で領主であるので、住民の結婚許可は俺が出す事ができるのである。
それも、公式で正当なものだ。
はっは、カーンめ思い知れ。
あの壊し屋の大柄な男は、俺の大事にしていたアンティークのボトルの船や、ようやく見つけたアンティークのオルゴールを勝手に触って壊したろくでなしなのである。
ボトルの船は俺の書斎に置き、オルゴールはミモザの部屋に置けたら、ミモザもきっと喜んでいただろうに。
そこまで考えて、オルゴールはいいかな、と俺は考え直した。
虫を散々に殺して体液も散っている筈の部屋でも、彼女は掃除をすれば平気だと実際に掃除をして住み着いてしまったのだ。
確かに客間としては最上の部屋でもあるが、彼女は深窓のご令嬢ではなかっただろうか。
毒蜘蛛じゃなくて可愛いソーラレイだから大丈夫よ、と可愛らしく笑うが、違う、そこじゃない、だ。
「ヒュー、あなたも写真に入りましょうよ。ああ、デトゥーラはなんて奇麗なのかしら。あなたの優しさや手腕には惚れ惚れするわ。」
褒められて嬉しくない気はしないと、親友夫妻の姿を見返した。
デトゥーラの着るドレスは俺と結婚するために取り寄せていたものだという点は複雑だが、真っ黒のモーニング姿のブランズウィックと並ぶデトゥーラは完全なる月の女神であり、俺の星の入植者勧誘のチラシにしたいくらいに絵になる二人の姿であった。
「ねぇねえ、ヒュー。」
俺の袖を引くミモザは水色の瞳に良く似合う水色のドレス姿で、可愛らしい事この上ないが、彼女は未だに俺をヒューと呼ぶ。
「ミモザ。俺はハルベルトって名前があるんだ。」
妖精のような彼女は小憎たらしいほほ笑みを俺に返した。
「まあ、初めまして。私はミモザ・プーディカと申しますの。」
俺はそういうことかと軽く舌打ちをすると、彼女の前に跪いた。
まるで結婚を申し込む男のような格好だと、俺は自嘲しながら彼女に手をのばし、騙していた彼女へきちんとした自己紹介をしたのである。
「初めまして。私はこのグリロタルパの領主であり、アルティミシアプリンセプス公爵家の四男、ハルベルト・アルティミシアプリンセプスと申します。婚約者としてのあなたの来訪を心より歓迎いたします。」
俺の手にはパシンとミモザの手が乗せ上げられ、俺は彼女の手を握ったまま立ち上がった。
俺を見上げているミモザはやはり悪戯な妖精のような表情のままで、俺は珍しく自分の母親に感謝もしていた。
可愛い子を選んでくれてありがとう、と。
「ふふ。でも、ヒューでいい?私はあなたをただのヒューだって認識しちゃっているから、今更公爵家のハルベルト様って呼べないの。」
俺は彼女に丸裸にされる予定の様だが、名前まで剥ぎ取られることになるとは思わなかった。




