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どうしてあなたが婚約者の従者なの?  作者: 蔵前
グリロタルパに奴らも来る!
31/68

三十 恋心はどうやって掻き立てるのか

 あの大騒ぎの一夜から既に丸一日。

 つまり、ミモザが我が星に来てからまだ四日目が始まったばかりでしかいないという事だ。


 ミモザが事件を呼ぶのか、俺の両親、特に姦計に長けていると誉高い我が父である公爵様の仕掛けというべきか、明日には我が従弟で人間の皮を被ったヒヒと俺が逆らってはいけないらしい公爵長男様というカーン・アルティミシアプリンセプス、つまりバセラ侯爵という二人が我が星にやってくる。


 あの夜の出来事は、あの出来事を起こしたイアンとムスファーザによると、軍部の失態の尻拭いだったのだそうだ。


 レインの夫を逮捕したはいいが自供を取る前に自殺され、さらに、自分の夫に濡れ衣を着せたレインによって証拠も何もかも消されており、麻薬密売組織をこれ以上探ることができないお手上げ状態になったのだという。

 そこで、ムスファーザが俺の星に潜伏し、麻薬密売組織の人間を非公式に血祭りにあげながらレインを上げる証拠を探っていたのだという。


 遠乗りに現れた無人攻撃機は、俺の星に辿り着いたばかりのレインが飛ばしたものだ。

 彼女は俺の婚約者を探り、そして、ミモザを殺した後に俺を慰めながら俺との結婚を考えていたそうだ。


「もう面倒臭くてね。自白が一番かなって思うじゃない。」

 牧場の柵に寄りかかりながら、俺のシルクシャツと黒革のパンツを俺以上に着こなしている可愛い男が、可愛いとはいえない視線で俺の横顔を見つめた。

 俺は牧場の中で馬を歩かせているミモザやデトゥーラから視線を動かせないという風にして、ムスファーザを見返す事はしなかった。


 俺の家を巨大蜘蛛だらけにした男を許してはいない。


 このグリロタルパが絶滅危惧種のソーラレイの大繁殖地だと、知る必要もない余計なこともつま開きにしてくれた男なのだ。


「ごめーん。軍部に報告しちゃったから、開発にちょっと影響あるかも。」


 影響どころか、これ以上の農地開墾が不可能になったのだ。

 もう少し穀倉地帯を広げたかったのに!


「ふふ。まだ怒っているんだ?仕方がないじゃない。人を使って確実にミモザが殺されるよりもね、僕が提案した方法を使って失敗してもらった方が確実にミモザが安全でしょう。」

「ミモザをブタの餌にする事もですか?」」

「ううん。あれはアカシアちゃんだね。ブランズウィックに仄かな思いを抱いている純朴な青年に持ち掛けたのさ。ミモザを排すればデトゥーラ様がハルベルト夫人になれますから、謝礼としてあなたにブランズウィックの一生を任せましょうってね。」

「それで、彼はどこ?シャンデリアから吊るされていたのはルビンじゃ無かったですね。あれは一体誰ですか?」

「さあ。」


 俺はムスファーザに振り返っていた。


「さあって、あなたが殺した男でしょう。」

「そうそう。手当たり次第に組織の連中をやっちゃってね、自白どころじゃなくなっちゃって。イリアには反省していなさいって狭い部屋に閉じ込められるし。ひどいよね。僕が戦場にこんにちわしたらこうなるのわかっていた癖に。」

 俺は両手で顔を覆った。


 軍部の失敗ではなく、ムスファーザがやりすぎて裁判用の組織の人間もいなくなってしまったからこそのレインの自白だったらしい。


 レインは自分の幸運を喜ぶべきだ。

 トップの誰かが麻薬組織壊滅の手柄を欲しいと騒いだがために、レインは殺されずに捕縛されるだけという幸運に恵まれたのだから。

 手柄を欲しがる誰かがいなかったら、きっとレインも人知れずムスファーザに殺されていたのだろう。


「シャンデリアに死体を吊るす意味が解りませんけどね。」


「哀れな青年という証人がいないからこそ、アカシアもレインも口が軽くなったのよ。私が哀れな青年の姿に驚いて投げつけられた蜘蛛にも対処できなかった、というシチェーションも必要でしょうし。」


 真っ黒い乗馬ドレス姿のイリアが突然俺の脇に立ったが、こんな大柄のくせにすぐそばに近づくまで存在を感じさせないという所に俺はぞくっとした。

 彼がその気になったら、自分が死んだこともわからないうちに俺は死んでいるだろう、と。


「ミリアの監督は良いのですか?」

「デトゥーラとブランズウィックの仲睦まじさで、あの子はちょっと仲間外れみたいで可哀想よ。そう思わなくて。」


 俺が馬場を見返すと、ぽつんと馬に乗るミモザのいたいけな姿が目に入った。

 彼女は俺に見つめられている事に気が付くと、にこっと子供のように嬉しそうに微笑んだのである。


「あなたのおっしゃる通りです。マイレディ。」


 俺はイアンの手を取って甲にキスをすると、俺の婚約者の乗馬レッスンの為に牧場の柵を乗り越えた。

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