二 第一印象
もう何度目だろうかと、俺は宙港で待ちくたびれていた。
母は俺の生活がどうしても哀れに思うらしく、次々と新たな婚約者を広大な枯れ地と有名なグリロタルパに送り込んで来る。
大学時代からの恋人に失恋したからこの地に引きこもっているのだと彼女は思い込んでいるが、それは全くの誤解だと言えば言う程頑なにそうだと思い込むって、これは単なる老化なのだろうか。
俺はこのグリロタルパが好きなだけなのだ。
広大な土地には牛や馬を放牧させ、人工池など灌漑設備などもこの数年かけて整備し、枯れ地は年々と豊かな穀倉地帯へと変われる兆しを見せている。
休みになればビール片手に池に放した鯰や鯉を釣り、町民達の間でもめ事があれば仲裁に駆け付ける。
この暮らしが楽しくて堪らないのだ。
そして母のお節介に辟易した俺は、ついこの間、結婚式を上げそうになった。
デトゥーラ・メーテル。
伯爵家の長女である彼女は家の責任をしっかり背負っており、責任感の強いそこが好ましいとも思ったが、彼女はとんだ食わせ物だった。
俺と結婚したらすぐに首都星に戻り、そこで俺の金を使って面白おかしく暮らすつもりだったのだ。
俺は婚約破棄をして、手切れ金として彼女へいくらか手渡すことまでした。
それなのに彼女はこの星に留まり、親に勘当されたからと居座ってもいる。
この事態を俺が母親に相談したのが間違いだった。
同じ女性ならば女性の心がわかり、メーテル伯爵家にデトゥーラのとりなしをしてくれるはずだと期待した俺が馬鹿だったのだ。
彼女はその返礼として、新たな婚約者を俺に送ってきた。
ミモザ・プーディカという、オジギソウの学名そのままの名前に俺は吹き出してもしまったが、我が家名がヨモギなのだから似合いと言っちゃあ似合いだ。
さて、そろそろ到着だろうと苛立たしく乗客出口を見回すと、物凄く大柄な神々しいとまで言える美女と、迷子になったばかりのような少女が歩いてきた。
途中で大柄な美女が背を向けて電話をし始めて、そして、そんな連れにウンザリしたかのように少女は首を軽く振り、そして俺と目が合った。
真っ黒の毛先に少し癖がある長い髪に、水色の瞳という妖精だ。
水色の地に水彩画のような花々が裾に描かれている膝丈のタンクドレスはこの荒野のような星には不釣り合いだが、足元がどこまでも歩けそうなタクティカルブーツな所は気に入った。
否、どうしよう。
俺は彼女の外見がどこもかしこも気に入っているのである。
まるで、デトゥーラの時のように。
デトゥーラを思い出した事で、同じ轍を踏む失敗から俺は引き戻された。
蜂蜜色の金髪に菫色の瞳をしたデトゥーラは、月の女神のようで俺は彼女の外見にとても好感を抱き、結婚へ足を踏み入れる気にもなったのだ。
そして、俺は惚れっぽいのか、再び目の前の婚約者に好感を抱いている。
しっかりしろ。
俺は心の中で自分を叱責しながら婚約者へと歩き出しており、水色の瞳を真ん丸にして俺を伺っているという、俺が大丈夫だと今すぐ言ってやりたいほどに所在なさげな少女の真ん前にと辿り着いた。
俺は彼女を見下ろして、俺の非礼を彼女に詫びた。
「すいません。ハルベルトさんは急な仕事で来れませんので、部下の私が案内いたします。私はヒュー・グラント。ここの保安官をしています。」
そこで電話を終えたらしい美女が振り向き、なぜか知らないが彼女は物凄い殺気を俺に浴びせてきた。