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どうしてあなたが婚約者の従者なの?  作者: 蔵前
グリロタルパ二日目!
20/68

十九 何がどうして?

「君が何を言いたいのか、俺は馬鹿だから本気でわからないよ。」


「それは君が馬鹿だからじゃないよ。俺もわからないからわからないって言っているだけだもの。今回の事、ルビンは名乗り出る必要は無かったでしょう。ミモザに名指しされても、誰もミモザが襲われるところは見ていないんだ。ミモザが混乱しているで言い抜けられる。それなのにわざわざ名乗り出て、そして追い出されようとしている。俺は彼が一体何を望んでいるのかわからないね。」


 ブランズウィックは包帯で目元を覆ってはいるが、鼻の付け根に皺を寄せて幼い少年のような表情をしたのはよくわかった。


 だが、彼のお道化た表情によっても、俺は彼に対して笑い返すよりも彼には寿命が無いというせつなさだけがこみ上げていた。

 げっそりとこけた頬によって、ブランズウィックを骸骨のようにも見せているのである。


 彼がイアンの膝に頭を乗せて横になっているのは、ただ単に、椅子に座っていられなくなった彼をイアンが自分に引き寄せて横にさせただけなのだ。

 最近では髪の毛も薄くなっており、輝ける金髪は乾いたトウモロコシの髭のようでもある。

 それでも彼が魅力を失う事は無く、そんな彼を眺めているうちに、もしかしたらベンジャミンはブランズウィックとデトゥーラの未来を潰したいだけの行動だったのではないのかと思い当たった。

 ベンジャミンは自分の恋心と叫んでいたのだ。


「恋する人が手に入らないならば、恋する相手の幸せを踏みにじりたい、それだけなのかな。」

「はは。君がそんな台詞を口にするとはね。」

 俺を笑うブランズウィックは、母親のようにして彼の頭を膝に抱いているイアンの手によって、さらっと髪の毛を撫でつけられた。

 いや、さらっとでは無い。

 髪から抜き出されたイアンの指先には、ごっそりとブランズウィックの髪の毛が絡まっていたのである。


「ああ、あなたはなんてことになっているの。」


 俺はイアンがこんなにも悲痛な声を出すとは思わなかった。


「は……はは。不甲斐なくてすいません。ですが俺はカール卿、アルティミシアプリンセプス公爵を守り切れたことは本望です。」


「もう、お馬鹿さん。そんなことはどうでもいいのよ。いいこと?かわいい子。知らない所で、よく知らない相手から食べ物を貰っちゃいけないと、私はどれだけあなたに教えたと思っているの?」


 包帯で包まれていても目を丸くしているのだと一目でわかる表情をブランズウィックは俺達に見せ、俺は尚更に何が起きているのか意味が分からないと混乱するだけだった。


 しかし、何でも知っている恐ろしいだけの魔物は、母親のような笑みを俺達に見せつけて母親のように俺達を罵った。


「ほんとうにおばかさんたち。」


 まず、俺とブランズウィックは、イアンの言わんとしていることに脳みその理解が追い付かなかった。

「すいません。教官。バカな俺にわかるように説明をお願いできませんか?多分、あなたの膝に転がるあなたの可愛いペットこそわかっていないと思います。」

 イアンは、まあ!、と貴婦人めいた感嘆の声を上げると、自分の膝に寝転ばせている自分の教え子を見下ろした。


「まあ、まあ、本当に解っていなかったのね。自殺を図るお馬鹿さんと聞いて心配していたのだけど。あなた、爆弾で頭までやられてしまっていたの?確かに体は壊しましたし、現在の医術では元通りにできないにしても、あなたの身体がそれよりも衰えていくってあり得ないことよ。」


 俺とブランズウィックは揃って、え?、だ。

 俺達はブランズウィックの身体が日々衰えて、近いうちには死んでいくものだと、そのように考えながら毎日を過ごしてきたのである。


「こいつ、死なない?」


「いいえ、このままだったら死ぬわね。かなり末期の症状よ。解毒を急がなければ数日のうちにこの子は死ぬでしょう。プリンちゃんは体内浄化機能付き肉体再生カプセルぐらいは持っているわよね。こんな未開の土地に住んでいるのに持っていないのだったら、お尻を叩くくらいじゃ済まさないわよ。」


 俺は物凄くむっとした顔をイアンに見せつけながら、彼の膝に横たわっているブランズウィックを抱き上げた。

 俺と同じぐらいの身長なのに、俺と同じぐらいの体重があったはずの彼であるのに、枯れ木のような重さしか感じなかった。


「ブランズウィック。君は三日は地下で熟成する事になるね。」

「少しでも元の俺に戻れるのなら、一年籠る事になってもかまわないさ。」


「まあ!そんな旧型しか持っていないの?プリンにはがっかりばかり。」


 俺はイアンを睨みつけて、……彼は既にソファに座ってはいなかった。

 真っ黒な彼は影の様にするりと応接間から出て行ってしまったのである。

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