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どうしてあなたが婚約者の従者なの?  作者: 蔵前
グリロタルパ二日目!
16/68

十五 大丈夫じゃない!

 ええと、目が覚めると、私は真っ暗で狭くて臭い箱の中だった。

 ぐるぐる巻きに縛られて、猿轡まで嵌められているという状況だ。


 も、もしかして、私は麻薬組織の人間に誘拐された?


 私を人質にして、組織には邪魔なハルベルトに土地を明け渡せなんていう要求でもするつもり?


 ああ、私は何て足手まといな邪魔ものなんだろう。


 この現状から逃げることはできないかと暫し考え、うえ、箱の中はドロッとした臭い汁に満たされいる。

 このままじゃ私は溺れ死んじゃうじゃないの!

 溺れ死ぬのはもういや!

 私は自由になる足で無我夢中で箱の中を蹴り込んでいた。

 ガンガンと、四方八方を、足が蹴りつける事が出来る範囲全部を。

 これは、逃げようという意志ではなく、普通にパニックに陥っていたからだ。


 だって、見えないけれど、私はぐじゅぐじゅになっているのよ!


 とってもとっても臭いのよ!


 こんな場所で、こんな汚いもののなかで死にたくはないわ!


 ガン!


 蹴りどころが良かったのか、はじめて箱はぐらっと傾いだ。


 よし!もう一度!


 しかし、箱が傾いたのは私の蹴りのお陰ではなく、箱が自動給餌器の一部分だったからに過ぎないようだ。


 急に視界が開けたかと思ったら、箱からドロッとした液体ごと私はブタの餌箱に落とされたのだ。


 うわあ、ブタ、ブタ、ブタが落ちる私を見ている!

 このままじゃあ、私ってば、ブタに食べられてしまうじゃないの!


 完全犯罪を目論んだ連続殺人犯が、自分が殺した死体をブタに食べさせていた事件だって、前世の時代であったじゃないの!

 ぶひぶひと囲いにいるブタは可愛いだろうが、餌箱の中の餌を貪り始めるブタの顔をアップで見るのは恐怖この上ない。


 うわ、ブタの口はとっても大きい!

 喰われる!


 ざぶん!


 ブタは鼻先を大きく動かし、うわ!私の腕を齧ろうと歯をむいた。


 ぎゃあ。


 必死で身を捩ったのと縄のお陰で私の腕は無傷だが、二頭目がざぶんと再び鼻先を餌箱に入れてきた!


 私は特にかくにも、急いで立った。


 立ったが、体を餌箱の隅や柵に押し付けておかないと立ってもいられない。

 しかし、餌塗れの身体はぬるぬるしていて、私は足を出来る限り踏ん張って体を柵や餌箱に強く押し付けていたらこそ、物凄い勢いでずるっと滑った。


 今度こそブタに喰われる!


「きゃあああああああ!」


 猿轡の私は叫んでいないが、豚小屋には女性の恐怖の悲鳴が響き渡った。

 そして私は、大きくてしっかりした腕が体に回されたと思ったら、そのままブタの餌箱から上へと体を引き出されたのである。


「何をやっているの?」


 呆れた様な物言いを私にした私の救いの主は、当たり前だがヒューであるが、私は猿轡を嵌められた上に縄でぐるぐる巻きにされている姿なのだ。

 ブタの餌箱の中に入るのが私の趣味と言わんばかりの、その物言いは何事だ。

 私が不信感丸出しの目で彼を睨むと、ヒューは少々乱暴な手つきで縄を解き、それから猿轡を私の口元から下へと引き落としてくれた。


「私が自分でやったんじゃないわよ!」


「いや、わかるよ。それは。」


「じゃあ、どうして大丈夫かと聞いてもくれないのよ!」


「――、元気じゃないの。」


「元気のわけないでしょう!見てわからないの!すっごくショックを受けているの!ブタよ!ブタに食べられる寸前だったのよ!」


 ほら、興奮しすぎで私の両目からはボロボロと涙が零れてきた。

 私は本気で怖くて怖くて死にそうだったのだ。


「大丈夫ぐらい聞いてくれてもいいでしょう!」


 ヒューは私を数秒ほど見つめてから、私をぐいっと抱きしめた。

 そして右手で私の背中を割合と強くぱしぱしと叩き始めたのだ。


「よし、よし。大丈夫だ。落ち着け、落ち着け。どうどう、どうどう。」

「馬じゃ無いわよ!何よそれ!」

 ヒューを両手で押しのけたそこで、私はがくっと足元に崩れ落ちかけた。

 死んでしまうという恐怖と、助かったという安心で、私の膝がこんにゃくのようになっていたのだ。

 だが、私を掬い上げるようにして抱きかかえ直してくれた男によって、私は再び温かくがっしりとした胸板に顔を押し付ける状態に戻された。


 今度の背中を叩く、いや、背中を撫でる手はとっても優しかった。

 私が何も話せなくなるぐらいに、私が怖かったと彼の背中に両腕を回して彼にしがみ付いてしまう程に。


「大丈夫。大丈夫だから。はぁ、俺も死にそうだったから、すまない。ろくな慰め言葉が出て来なくて。ああ、心臓がバクバクしているよ。」

 ヒューは自分にしがみ付く私をいっそう強く抱き返してくれた。

 彼の上等なシャツもブタの餌で臭く汚れてしまっているのに。


「ミモザ!大丈夫なの!ミモザ!」

 ああ、さっきの悲鳴はデトゥーラだったのか。


 なぜ彼女がここにいるのかわからないが、私の助けとなるべく彼女が私の方へと駆けてくる足音は聞こえた。

 戻らない私を、きっとみんなで心配して探していてくれていたのね。

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