十四 ハッピーエンドだった場合
私ったら失恋だわ。
途中で何を言っているのか自分でもわからないくらいまくしたてて、ヒューが良い人だったから良かったもの、普通だったら怒鳴られていたかもしれない。
ううん。
絶対に呆れられてしまっただろう。
でも、私は彼の辛い立場、彼の押さえた恋心を考えた時に、自分についても考えさせられたのである。
貴族階級で無い人に恋心を抱くのは自由かもしれないが、たとえ相思相愛だったとしても、結婚はこの世界ではどうなるのであろうか、と。
貴族の男性が庶民の女性を娶ることはよくあるし、貴族の男性の家に金がなかったり、あるいは唸るほどあったりで、逆に推奨されている場合もある。
金持ちの庶民の娘を娶ることで家名を破産から守る目的だったり、大金持ちの名家なのに結婚できなくて跡継ぎができないから、という理由だったりだ。
また、貴族社会の娘が庶民の家に嫁ぐこともよくあるが、それはやはり破産から家名を守るためであったりする。
しかし、ここで違うのが、庶民の娘を娶った男は社交界に残れるのに、庶民に嫁いだ娘は今後社交界に顔も出せない境遇に陥ってしまうという点だ。
「これこそ男尊女卑な考えよね。」
彼が私を好ましいと思っていてくれたとしても、世間がそれを許さない。
私が彼を好きだと言い張ったら、両親共々社交界から追い出されるのだ。
「ああ。どうしてこの世界は未来なのに、階級ってものがあるの?自由に結婚して自由に好きな人の子供を産んだり、産まないことを選択したり、もっと自由で良い筈では無くて。」
私は空を見上げて、星を眺めた。
両目に滲んできた涙を零したくなかったからであり、一度でも泣いてしまったらそこで終わりになってしまう気がした。
自分には何もできない。
それは何度も経験している。
前世の記憶があろうと、二度目の人生であろうと、私は元々生きることが下手だし、友達も前世でそんなにいなかったし、恋だって前世でした事も無い。
家族にありがとうと一度も言ったことないまま、私は震災で命を失ったのだ。
両親に反発ばかりで、なんて幼くて傲慢だった前の人生だろう。
「でも、あの日より私は一つ年上になっているのだもの。今度こそ長く生きられるのならば、後悔しないで一日一日を楽しく大事に生きるべきなのよ。」
まずはデトゥーラとハルベルトの後押しの前に、私は自分で決着をつけないといけない事がある。
私は踵を返して、ハルベルトの屋敷へと走り出していた。
まず、ハルベルトに謝るのだ。
私は彼に恋心を抱けないから婚約を破棄したいと。
そして邪魔者が消えれば……。
私の足は勝手に止まった。
ハルベルトはデトゥーラに恋心を抱いているからこそ告白できない。
そして、きっと、デトゥーラもそのことを知っているからここにいるのだ。
私が下手に動いたことにより、デトゥーラがここから出ていくしかない状況になるかもしれないのだ。
「ああ。私がかえって余計なことをする所だったわ。」
「本当にそうですよ。あなたはここにいりません。」
私は声がした方を向いた。
ハルベルトの食事介護をしていた青年が私の方へと歩いてきた。
そして、私は彼に地面に叩きつけられた。
そこから記憶が無いのは、地面に叩きつけられるときに彼の拳が私の鳩尾にしっかりと入ったからだろう。




