十二 新たなる決意
麻薬密売組織って、何それ!である。
この公爵領のグリロタルパは、ハルベルトに譲渡される前、その頃は荒地でしか無いからと公爵家も手入れも何もせずに放っておいたという忘れ去られた星だったらしい。
デトゥーラの話では、その放置されている間に麻薬密売人達が隠れ里にして勝手に住み着き、開墾し始めたハルベルトに対して何度も攻撃をしかけているのだという。
「ハルベルトのお父様、公爵様の暗殺未遂もその組織によるものらしいの。」
「まあ!ではきっとハルベルトの怪我も組織の奴らのせいなのね。」
デトゥーラはきゅっと唇を噛み、私にうんうんと何度も頷いた。
「やっぱりそうなのね、許せないわ!」
うわっとデトゥーラが泣き出した。
その様子に、彼女への婚約破棄がハルベルトの怪我によるものに違いないと、私は確信してしまった。
何と許せない事だろう。
幸せになっても良いこんな二人が、麻薬なんてくだらないもので儲けるくだらない人達によって不幸にされただなんて!
「それで、麻薬組織って事は、この星に麻薬の栽培畑があるのよね。そこを全部燃やしちゃいましょうよ!」
クククっとイリアが喉を振るわせて笑い出した。
「もう、ミモザって本当に可愛いわ。大丈夫。あなたとディちゃんに悪い人達の手は出させない。安心なさって。」
「それは安心しているわ。そうじゃなくて、そんなろくでもない人達をやっつけられないの?首都星、ううん、星間パトロールはどうなっているの?」
「軍部は把握しているし、潰した所で小さな悪も増えるでしょう。組織があるって事は、自分達に邪魔な新しい組織が生まれると勝手に自浄作用という潰しあいを起こすから、監視できるところは残しておいた方が良いのよ。寄生虫が他の寄生虫を宿主から追い払うようなものね。宿主を殺さない寄生虫ならば放っておいて共生を考える。」
私はイリアの言葉に口を尖らせるしかなかった。
だって、単なる子爵家の女の子でしかない私に組織と戦う権力など無いし、見ず知らずの兵隊さんに死んで来いなんて命令も出来ないし、政治も軍部の方針も知りすぎているほど知っているイリアに意見など出来はしない。
だから、唇を尖らせて不満を示すだけだ。
イリアは私の唇をツンと摘まんだ。
「ふふ。安心なさいな。いざとなったらファーファを呼んであげるから。」
またこの台詞だ。
遠乗りから戻ってくると、勿論のこと、ヒューとハルベルトは組織についての対応策をごちゃごちゃと私やデトゥーラをそっちのけにして相談し始め、そんな彼らに業を煮やしたか、イリアがムスファーザを呼ぼうかと彼らに提案したのだ。
すると彼等はぴたりと口をつぐみ、真っ青な顔になって首を横に振ったのである。
「ねえ、イリア。ファーファは怖い人だったの?」
「怖くないわよ。私がお願いって言うと、ハイって、敵の大将の首を持ってきてくれるだけよ。可愛いでしょう。」
私とデトゥーラは、お菓子でも作ろうか、と顔を見合わせた。
何もできないのならば、お菓子でも作って気持ちを落ち着ける方が良い。
いざとなったらのムスファーザがいるのならば、うん、大丈夫でしょう。
そう、麻薬組織には無力な私が考えねばならないのは、デトゥーラとハルベルトの恋の成就でしょう。
ハルベルトだってデトゥーラの事が大好きに違いないのだ。
あの馬上での二人の仲睦まじい様子。
あれは愛し合っている我が家の両親や、イリアとムスファーザの姿そのものだったもの。
さて、どうやってあの頑ななハルベルトの意識を変えてやろうかしら。
これは、ハルベルトの親友の手を借りるべきね。
うん、私も彼と仲良くなれるし、一石二鳥かもしれないわ。




