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将来の夢は魔王になることです!  作者: 月之木ゆう
第一章 はじまりの森
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武技 ~アイカ(Aica)の場合~

「ところで、あんな魔法なんてドラゴンズリングにあったっけ?」

「ああ、もちろん有りませんでしたよ。私のオリジナルですね。」

「え……オリジナルなの!?」

「ええ、せっかくなので試してみようかと。」


にこにこしながら嬉しそうに花が咲いたような笑顔を見せてくるアイカ。

一方の私はちょっと引いてしまっていた。ステータスだけですらラスボス級なのに、そこに新しい魔法を考えられる力が組み合わさると、いったいどんな強さになってしまうのか想像もできない。AIだった頃は、予測・・はできても想像・・はできなかった。無からは生み出せないのだ。しかし、先程の魔法を考えられるということは、想像して行動できるということを裏付けていた。


(私はとんでもないものを生み出してしまったのかも知れない。)

「マスター……?」


考え込んでしまっていた私の顔を、アイカが心配そうに下から覗き込んでくる。

完璧な角度からの上目遣いで。


「ああ、ごめんごめん。大丈夫だよ。

 私も何か新しい魔法考えようかなって思っててさ。」

「なるほど。私も一緒に考えます!」


きっとこの上目遣いで男共はイチコロなんだろう。仮に人間だったらの話だが。

今は妖精なので、それほどの破壊力はない……と思う。まぁでも女の私には全く効果がないから関係ない話なのだが。

そしてアイカを促す。


「アイカ、そろそろ次の試してみる?」

「えーと、あの…武技でしょうか……?」

「ん?どったの?」

「いえ…その。」


口籠るアイカ。


「じつはちょっと自信がないんです……。」

「え、大丈夫じゃない? 私より強いし。」

「うーん……今後のためにもやってみます。」


アイカは腕力だけでも前衛としてやっていける程のステータスなのだ。全く問題ないと思うのだが、先程の魔法のときとは打って変わって、何か心配事でもあるような雰囲気だ。

だが、決心したようでよし。と一言呟いた。


「アイカ、私のアイテムボックス開ける?」

「はい。ちょっとお借りしますね。」


そう言えば、そんな小さな体で自分の何倍もある武器をどうやって持つつもりなのか聞いてみると、どうやら念力とか念動のような力で持ち上げるようだ。小さな身体で大きな剣に一生懸命にしがみついて重たい剣を持ち上げようとしている姿を見てみたいと思ったのは内緒にしておこう。


「……んしょ。」


アイカがかわいい声で取り出したのは──

──グレートソードだ。


「それでいいの?」


グレートソードは俗に言うツーハンデッドソードで、長さ2.5m重量8kgの巨大な剣だ。ちなみに私が鍛冶職スミスで作ったものだ。ドラゴンズリングでは、攻撃力こそあるものの重すぎて装備重量オーバーになる場合が多いためあまり人気のない武器だ。確かにこの世界なら、装備重量なんて概念はないし重さの勢いで叩き切るのも良いかも知れないが、もっと良い剣はいくらでもあるのだ。わざわざ私が経験値欲しさに作った鈍らなんて使わなくても。と思ってしまうのだが。


「はい。重量の感覚も確かめておきたいのと、特殊な効果が付いていないほうが自分の力を測りやすいかと思いまして。それに、マスターが作ったのですから下級武器でも鈍らなんてことは有りません!」


考えあっての事だったようだ。さすがアイカ。真っ先にチート武器に頼ってしまった私とは違う。しかし、それとなく私の事も褒めてくるあたり本当に良くできた娘だ。と思うと同時に、その絶対の信頼は何処から来るのだろうかと思ってしまう。まぁ確かに私の鍛冶スキルが高かったのもあって、クリティカルと攻撃力ボーナスは付いていたと思うが。


「やっぱりちょっと重いですね。」


そう言いながらアイカは片手をグレートソードの柄頭のあたりにギリギリ触れない位の距離で手を添えてブンブンと振り回してみせる。

端から見ているとちっとも重そうには見えない。指揮棒でも降っているような軽々とした動きだ。


「全然重そうに見えないんだけど……。」


私がそう言うとアイカがギクリと振り向き弁明する。


「あ、ごめんなさい。持っている分には問題ないのですが、素早く振ろうとするとやはり難しいと思いまして。」


アイカが後頭部をかきながら、苦笑いを浮かべて応えていた。私とステータスが全然違うからバツが悪いのだろう。いまの私では恐らくグレートソードなんて、なんとか持ち上げることができる程度だ。振り回すなんて無理だ。


「ああ、別に謝ってほしいんじゃないよ。気にしないでいいから、試しにそれ切ってみてよ」

「はい!やってみます!」


私が近くの大木を指差してアイカを促した。

先程から大木を切ったり凍らせたりしているが、獅子の神様とか出てこないよね……。まぁ出てきたらその時はその時で、きっとアイカ先生がなんとかしてくれるだろう。そんなくだらないことを考えていると。


「マスター、行きます。」


アイカが右手を左斜め上に構えた。

グレートソードもそれに合わせて、アイカの斜め上部に浮遊し空中で静止する。

間を置かずに、アイカが吠えた。


「はぁああ!!!」


アイカが手を左斜上から右下に向かって勢いよく振り下ろす。


──斬撃


アイカの手の動きに合わせてグレートソードが大上段から一直線に振り抜かれた。


パッキーーーン!!!


直後、甲高い金属音と共に大木──

──ではなくグレートソードが折れた。


アイカは確かに斬撃を放ったのだが、剣身が横になっており剣の腹で打つ形になってしまっていた。これでは剣本来の切れ味を発揮できないどころか、剣にとって最も弱い方向から力がかかってしまうのだ。これではいくら頑丈さが売りのグレートソードでもあっさり折れるだろう。ポ○キーも羨む見事な折れっぷりであった。


「マスタァアアアアア!!!ごめんなさい!ごめんなさい!!……ごめんなさい!……ごめんなさい!」


剣が折れた直後、ショックで一瞬だけ放心してしまっていたアイカがすぐさま意識を取り戻し、ものすごい勢いでペコペコと頭を下げ謝ってくる。

ヘビィでメタルな人達も真っ青な早さの高速ヘッドバンギング。


「おー!」


必死で謝るアイカに対し、春夏はのん気にも感嘆の声を上げるのであった。

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