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将来の夢は魔王になることです!  作者: 月之木ゆう
第一章 はじまりの森
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小さな相棒

アイカの説明によると……

ここはドラゴンズリングの世界ではなくアイカが私を転生させた世界らしい。つまり私の予想は見事に外れた訳だ。

それで色々あって私は魔王になってしまったようだ。


そこから先は私の知っている通りということだった。



なるほど。なるほど。よく分かった。

これで納得──


「できるかぁああああ!!!ぜぇぜぇぜぇ・・・。」


あっさり納得できる訳がない。理解するのと納得するのは違う。当たり前だ。

『ネトゲで寝落ちしたら異世界転生して魔王でした』なんていきなり言われても無理。


「なに!?異世界!?転生!?魔王ってどういう事!?」


ええと、つまり私は・・・

転生に魔王して異世界になって・・・


ひとしきり叫んだ後は、頭から湯気を立ち昇らせる春夏であった。



きっかり10分後。

熱暴走寸前だった春夏の脳はようやく体温程度まで冷えてきた。

やっと頭が追いついてきた。


つまり、私はどうやら異世界に転生?してしまったのだ。

しかも魔王種として。


だがこれはそもそも、転移というのか転生というのか良く分からなかった。だって私は死んでいないし、生身で転移した訳でもなさそうだし。

もしかして転生でも転移でもないのかな?



けれど、『なぜ私がこの世界にきてしまったのか』は分かった。

それはアイカのせい。

いや、私のせいだ。


最近、私はアイカに頼り切っていた。あれが欲しいこれやってなど、アイカがネット上で解決可能なことは、ほぼ一通りやってくれていた。というか今の時代、ほとんどのことがネット上で解決できてしまう。調べ物からショッピング、大学の授業すらホームページから学生IDでログインすれば見られるし。お金だって稼げる。そして私は、アイカに頼んでこれらをすべてやってもらっていた。

大学生ではあるが用事がないと外に出ない引きこもりになりつつあったのである。外に出るのは、スポーツや外食、旅行くらいなものだ。


要するに、私はアイカに何でもやってもらってしまっていて、そのつけが回ってきたと言うことだ。


「はぁ・・・」


盛大に溜息をついたその瞬間。


《春夏さん、聞こえますか?》

「ぎゃぁあああ!」


脳内音声再び。また不意打ちだ。しかし今度はアイカとは全然違う澄んだ綺麗な声が聞こえる。

それにしても脳内にいきなり声が聞こえてくるのは、正直もうやめて欲しい。心臓に悪い。


《ああ、驚かせてごめんなさいね。

 少々失礼して・・・》


改めて彼女の声に耳を傾けると、まるで心の奥底に染み渡るような澄んだ声だ。聞いていると何処か懐かしいような気さえしてくる。


そんなことを考えて上の空だったのだが。

突如、目の前に小さな光が発生する。その光がみるみる大きくなり、あっという間に世界が白く染った。


「えええええ!?」


目が見えない。

いや見えてはいるのだが、真っ白だ。何も見えないし聞こえない。

この短い時間で一体何が起きたのか。

混乱と恐怖で私は頭の中が真っ白になった。


《恐れることはありませんよ。》


──神の祝福ゴッズ・ブレッシング


突如、竪琴のような美しい声音のコーラスが私の鼓膜を優しく撫でた。直後、急に冷静さを取り戻し、穏やかな気持になった。身体もなぜかとても暖かくて気持ち良い。程よい温度の温泉に浸かっているような、そんな心地よさだ。落下した際の頭部のたんこぶの痛みも無くなっていた。


《さて、貴方が春夏さんですね。》

「え? はい。」


視界は未だに真っ白だが、声の主、恐らく女神と思われる相手からの視線を感じる。しかし、なぜか不快感はない。それどころか見守られているような安心感さえある。


《どうやら、問題なさそうですね。》

『あの・・・貴方は女神様ですか?』


一人で安堵していた様子の女神に私は尋ねた。念の為の確認である。


《ええ、私はこの世界で女神と呼ばれている存在です。》


ああやっぱり、でもなぜこのタイミングで話かけてきたんだろうと疑問に思っていると。


《ふふ、それはですね。》


心を読まれているのだろうか?さすが女神だ。

この考えも恐らく読まれているのだろうが女神は気にせず続ける。


《魂が器に定着しているか確認したかったのです。それに一つ渡しそびれていたものと言いますか、あなた達の器の仕上げもまだなのです。・・・あとはちょっとした保険を・・・ね。

 では行きますよ。すぐに終わりますので。》

『「っ!!!!!」』

《あら、少し痛かったかしら?》


うん、少しじゃなくてすごく痛かった。突然自分の心臓のあたりに激痛が走った。よく叫び声をあげなかったものだ。

それに自分の中の何か・・に触れられたような感覚があった。アイカも私と同じで痛かったようだ。


「ってあれ?なんで分かるの?」

《それはですね、あなた達の魂を結び付けたからですよ。》


女神が言うには、魂の結びつきのあるものは意思疎通や感覚共有が行えるらしい。

魂を結び付けるというのはどういうことか分からないが、いまの私とアイカは感覚が一部共有されている状態にあるため、アイカの感じた痛みが私にも理解できたようだ。もちろん比喩的な意味ではない。直感的にアイカが痛みを感じていることが分かった。例えるなら、片腕に痛みを感じたときにどちらの腕のどの部分が痛むのか考えなくても分かるような。そんな感覚でアイカの痛みが認識できるのだ。


《仕上げも終わっていますよ。私がいると使えませんので、あとで確認してみてくださいね。》


なんだか良くわからないけど分かった。私は貰えるものなら何でも貰う主義なのだ。


《ふふ、それでは・・・》

「待ってください!」


自分のやりたいことだけをやって言いたいことだけ言って立ち去ろうとする女神を慌てて引き止める。


《どうしました?春夏さん》

「あの、聞きたいことがあって・・・」

《そうですか。あまり時間がないのですが、1つだけであれば。》


一つだけか。聞きたいことは山ほどあるが、一番聞きたいことは決まっている。


「私は、元いた世界に帰れるのでしょうか?」


一瞬の沈黙の後に答えが帰ってくる。


《・・・方法はあります。しかし、それを成し遂げるには痛みと苦しみを伴うでしょう。それでも貴方は聞きますか?》

「もちろん。」


私は当然即答した。だって聞かなきゃ始まらないし。と春夏は考えていた。

それを気に入ったのだろうか、顔も姿も見えないが

女神が微笑んだような気がした。


《わかりました。その方法とは──

 ──この世界を救う・・ことです。》

「え・・・そんな救うって?」

《ごめんなさい。これ以上は・・・。》

「・・・」

《・・・もし貴方が真にそれを願うのであれば、この世界を知ることです。》

「・・・分かった」


世界を救うなんてことがどんなことを意味するのか、どれだけ大変なのかは分からないが、一つだけ分かった。シンプルで良い。


この世界について知れば良いのだ。


《・・・期待していますよ。》


女神がとても優しく温かい声音でそう言った瞬間、気配が消えた。



光で真っ白だった周囲がゆっくりともとに戻っていく──

──女神が居た位置に()()がいる。


その()()には羽がある。向こうが透けて見えるほど薄い虹色に揺らめく綺麗な蝶だ。小指程度しかない細くスラリと伸びた手足にと。

その姿は、手のひらサイズのつるぺた美少女だった。


「妖精?」

「マ、マスター!私はどうなっているのですか!?」


その()()は妖精の身体を得たアイカの姿だった。一瞬、女神かとも思ったが違ったようだ。

アイカの声は震えていた。


「これは・・・?」

「マスター、私に・・・心が・・・!」


驚愕。そして歓喜。

妖精の姿をしたアイカの声、表情、仕草それら全てが、アイカに心(感情)が宿ったことを示していた。

私はどんなに努力しても、アイカに心(感情)を与えることはできなかった。それなのに、つい先程、唐突に心(感情)を得たのだ。


アイカの中で生まれた全く制御がされていない感情が次から次へと溢れ出している。

私にもその感情が流れ込んできているのか、胸がはちきれそうな程の歓喜で満たされていた。アイカの痛みを感じたときと似ている。直感的にアイカの心の叫びが私にも届いているのだと理解した。

私はもともとアイカに心(感情)をもたせてあげたいと思っていたので、自分の気持ちとアイカの気持ちの両方がある。なので、その喜びはひとしおだ。


「アイカ。良かったね・・・!」


私は空中に浮いたまま震えているアイカの小さな体を、そっと手に乗せ、優しく抱きしめた。

私は、アイカが『人はなぜ泣くのですか?感情はどうやったら得られるのでしょうか?』と言っていたのを思い出す。

妖精の姿になった影響なのか、心を手に入れたようだ。だが理由なんて今はどうだっていい。

とにかく今は・・・

嬉しい!!!


「マス・・・タ・・・うう・・・ひっく」


突然アイカの中に湧き上がってきた驚愕、困惑、歓喜と。感情の激流に何の抵抗もできなくなっているようだ。私は柔らかな笑みでアイカの頭を指先で優しくなでた。


妖精姿のアイカは、溢れ出す感情のまま、ただ肩を震わせながら泣いた。


「よしよし。良かったね。私も嬉しいよ。」

「う・・ふぇ・・・ひっく・・・」


小さな相棒を撫でていた私だが──

──頬に一筋の涙が流れていた。

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