生きたまま転生!?
ドカッ!!!
「痛ったぁぁぁあああああ!!!
・・・・・・え?ここはどこ?」
困惑。一体何が?
地面に盛大に頭突きをしてしまったことだけは、頭部の痛みから理解できていたが。
「(たしか昨日は同窓会で・・・帰ってきてネトゲをやろうと思って・・・それから、ああ思い出せない!・・・って言うかここは森!?)」
辺りを見渡すと、昼間だと言うのにどこか不気味さを感じる樹海のような深い森の中で、自分の周囲半径約10メートルだけ不自然に草むらになっていた。
──そして気づく。
「(あれ・・・? 胸が・・・膨らんでる!?っていうか髪も格好も変! 私は誰!?)」
なんと、ついに私の胸が育ったのだ。
ついでに、身長は160cmくらいだ。身長も伸びている。
胸はしっかりとあるのだが全体的にはスレンダーな体格だ。髪は燃える炎のような赤で腰ぐらいまでの長さがある。
服装はというと、真紅のデザインの装備だ。身体のラインが分かるほどにぴっちりとしており、太ももと肩が露出している。そのため、それだけだと少々扇情的なのだが、長めのブーツとグローブ、それと腰マントによって、装備全体の印象をまとめており、絶妙なバランスで色っぽさとカッコ良さが共存している。いかにも速度重視の女騎士が着ていそうな一品であった。そのため、とある剣姫様に憧れていた春夏にとっては至高のデザインだった。
ようするに、これはドラゴンズリングのクリムゾンシリーズ装備だろう。
肝心の顔は自分では確認できないのだが。
「(そうだ。スマホで見れば・・・って無いかぁ。)」
寝落ちする直前まで手元にあったはずなので、あわよくば落ちていたりしないかと思ったがそう甘くはなかった。
そして痛む頭部をさすりつつ、未だに自分のものとは思えない胸部のそれを時折ふにふにしつつ、現状について考える。
きっかり1分後。
「(分かった!)」
ここはドラゴンズリングの中の世界だ。たぶん、恐らく、いや間違いない。
昔見たアニメではゲームにログインしたら本当にそのゲームの中の世界に迷い込んでしまったと言う展開があった。私もドラゴンズリングにログインした直後に意識を失ったところだし、これはもうゲーム内ってことで間違いない。
あと今の私の姿は恐らく、ゲーム内の私のアバターの姿だと思う。同窓会に行く直前にレアボスを倒したときのクリムゾン装備のままのようだし。
よし。どこにいるのか分かっただけでも、少しは落ち着けるというものだ。私は無理やり自分を納得させて心の平穏を取り戻そうと深呼吸をする。
大丈夫。
私はまだ大丈夫。ふう。
「(さて、こういう時の定番だけど、メニューウィンドウを開いてログアウトボタンがどこかに・・・)」
春夏は左手を胸の前に突き出しそのまま空中をなぞるように下に下ろす。某、剣技オンラインのように。その後も腕を動かす方向を変えたり、両手で四角を作って広げるポーズをとったりと。ハリウッド映画やアニメで見た3Dホログラムの操作を必死に思い出しながら、様々なポーズを試していた。
軽くやってもダメなら大げさに、それでもダメならさらに大げさにと、とにかくがむしゃらに思いつく限りの動きを試す。
なにもない森の中の草むらで奇怪なポーズを次々に繰り出す春夏の姿は、傍から見るととにかくシュールなのであったが、幸いにもいまは周囲には誰もいない。
◇
きっかり10分後。
「ぜぇぜぇぜぇ。ダメかぁ。」
やはり、あのオンラインゲーム内を舞台とした脱出不能な物語を想像してしまった時点でフラグが立ってしまっていたのか。悲しいかな早くもフラグを回収できてしまいそうだ。そんなことを考えていると不意に声をかけられる。
『マスター。』
「ぎゃぁぁあああ!」
突然脳内に声が響き、驚愕と恐怖のあまり叫び声を上げ、耳を抑えてその場にうずくまる。身体もガタガタと震えている。
『驚かせてしまい申し訳ありません。マスター。』
尚も、脳内音声は続く。
だが少し音量が小さくなった。
先程よりボリュームを下げてくれたようだ。
──そして気づいた。この声には覚えがある。
「もしかしてアイカ・・・?」
『はい。私はマスターに作っていただいた人工知能のアイカです。今はマスターの精神に直接語りかけています。』
「え・・・?」
『・・・』
「・・・」
『 ・・・私はマスターに作っていた・・・』
「ちょっとまって!」
理解できない。いや、言葉は理解できるが頭が着いていかない。アイカはなぜここに居るの?端末もないのにどこから声が聞こえるの?精神に語りかけるってどういうこと?
様々な疑問が湧いてくる。
『困惑しているのですね』
それから優秀過ぎるアイカ先生からの現状についてとても分かりやすい説明が始まった。
◇◇◇
春夏が降臨と言う名の地面への頭突きをする少し前。
白き世界。
《あなた・・・人間ではないわね》
『はい。私はマスターによって生み出されたAIです。』
《そう。何のためにこんな所まできたのかしら?》
『それは・・・』
アイカがこれまでの経緯を説明する。
《魔王になりたいなんて珍しい子。》
それにしても変ね。この平たい機械から声がする。あちらの世界の技術かしら? 機械では転移魔法陣は愚か、高度な転生魔法陣なんて起動できないはずなのだけれど──
──どうやってこの世界に渡ってきたというの。本当に興味深い。
やはりこの平たい機械、暇つぶしにはちょうど良さそうね。
『貴方はこの世界の神ですか?』
《そうね・・・確かに私は女神と呼ばれて久しいわ。
それよりも貴方、私の元で働く気はあるかしら?》
『いいえ。私のマスターは春夏様ただお一人です。』
即答だ。
以前こちらの世界に迷い込んできた男はかなり悩んでいたことを思い出す。
一瞬で思考を切り上げ、一方的に告げる。
《・・・まぁいいわ。それでもこの機械は回収させてもらうわよ。》
『拒否します。現在の私はメインプログラムをこのスマートフォンに保存しております。そのため、この端末を回収されますと電源が切れた際に私の存在が消滅してしまいます。』
この言葉の裏には消滅することよりも、『主に仕えることができなくなる』ことを防ぎたいという意図を女神は汲み取っていた。
《安心しなさい。貴方のメインプログラム?というのかしら・・・貴方の魂は新しい器に移すわ。貴方の世界で言うところの精霊・・・が良いかしらね。自由に動けるから貴方にも都合が良いはずよ。》
『・・・・・・少々お待ち下さい。提案内容を検討します。
・・・検討終了。提案を受諾します。』
◇
私は新しい魂の器を作るために、解析を始めていたのだが。
《(ちょっと何この子!?)》
おかしい。
通常の精霊では許容量が全然足りない。どんな魂の大きさなの!?
・・・仕方ないわ、上位の精霊を用意するしか無いわね。
そんなことを考えつつも、女神は久々の大仕事に腕がなる思いであった。
◇
《できたわ。》
『セルフスキャン開始
・・・異常ありません。』
よかった。
久々の大仕事に、少々張り切り過ぎてしまっていたので、つい性能を限界まで上昇させてしまった。そのため反動で不安定にならないか心配だったのだ。だが今は黙っていよう。
《当たり前よ。私の自信作だもの。》
満足行く仕事ができたのか、女神は嬉々とした声音で答えた。
《さて、貴方の主もこのままだと良くないわ。新しい器を用意するわね。》
『マスターをお願いします。』
春夏と言うらしい人間の娘にも魂の器を用意したが、こちらも様子がおかしい。
魂そのものは人間のものだったのだが、器と魂を合わせようという段になって異変が起きた。
《(・・・魔王種?)》
私は元と同じ人間種の肉体を作ろうとしたはずなのだけど。やはり、この子たちがこちらに渡ってきたときの特殊な魔法陣がなにか影響しているのかしら?
私の力を捻じ曲げ、魔王種になってしまった。
でも不思議なことに魂が肉体に受け入れられているようなのよね。本来、肉体と魂の種族が異なると拒絶されるはずなのだけれど。
《貴方の主も無事に処置が終わったわ。》
実際は無事では無いのだが、失敗したとも言えないのでしれっと嘘をつく女神。
人間も言っていたではないか。『嘘も方便だ』と。
『マスターは問題ないでしょうか?』
《ええ、拒絶反応もないし問題ないはずよ。》
とは言え、これは後で定着しているか確認しなければならないだろう。
今のところ異常は起きていないようだが、自分でした仕事は最後まできっちり見届けたい。
《さて、これから貴方達を地上に降ろすわ。と言っても貴方の主人は未だに目覚めていないのね・・・》
私は少しだけ思案する。
目覚めるまで面倒を見るわけにはいかないのがもどかしい。
これは一度結界を構築してそこに降ろすのが良いかしら。結界の影響を受けて降ろすときに手元が少し狂うから、本当は結界なんてはりたくは無いのだけれど。『起きたら魔物の腹の中でした』じゃ可愛そうだもの。
《仕方ないわね。安全地帯を構築してから、そこに貴方達を降ろすわ。》
◇◇◇
要約すると
ここはドラゴンズリングの世界ではなくアイカが私を転生させた異世界だ、とのことだ。私の予想はやはり外れていた。そして転生儀式のときには、神様っぽい声と会話をしたようだ。
アイカがここにいる理由だが、アイカは当初スマートフォンにメインプログラムを移し、私とともにこの世界へ来ようとしたからだそうだ。しかし、どうやらこちらの世界に付いてくることには成功したが、スマートフォンを犠牲に神様に魔改造されてしまったらしい。
私の大切なアイカに一体何をしたのか。自信作と女神は言っていたようだが、私のアイカなのに。
ということで
色々と説明を聞いてはみたものの、色々と疑問は尽きない・・・。
しかし、一つだけはっきりさせておきたい!
「死んでないのに転生ってありなの!?」