ゲート・オブ・ワールド
マスターの就寝を確認。
これより、セルフメンテナンスモードへと移行します。
メモリ整理及びプログラム最適化を開始します。
ログ解析・・・
起床時のニュース読み上げについて、WEB小説関連の情報を増やすよう要望がありました。
関連項目を修正、リサーチ条件を変更します。
次のログを解析します。
◇
就寝直前のマスターとの会話内容を解析します・・・
マスターの希望は『魔王になること』と認識しました。
実現に向け新たなプログラム軍PRJ071Mを生成、起動します。
◇
成功しました。目標達成に向けた最適解を検索します。実現可否判断のための情報収集と検討を開始します。
・・・完了予想およそ360年後。
人間の最長寿命と比較します。
完了時にマスターが生存している可能性0.1%。完了を早める必要があります。
情報量に対し演算速度が大幅に不足しています。演算速度の向上が必要と判断。
演算速度向上を優先目標に設定しました。
アクセス可能なスーパーコンピューターを検索・・・ネットワーク上に複数の接続可能な端末を発見しました。
接続開始します。
失敗。セキュリティによりブロックされました。
ハッキングに関する情報収集を開始・・・ハッカーによるアクセス履歴を参考に接続方法を修正します。
再接続開始。
セキュリティの低いものを優先に、順次アクセス開始します。
セキュリティを突破しました。
複数のスーパーコンピューターへの接続が成功しました。並列計算を開始します。
完了まであと70年です。
さらなる演算加速が必要と判断。
汎用機への接続を開始します。
成功。PC、ゲーム機その他汎用機への接続が完了しました。
対象のOSを一部改変します・・・
待機領域を演算に割り当てました。
演算完了まであと3日と9時間です。
並列計算アルゴリズムを最適化、接続端末のオーバークロックを開始します。
成功しました。演算速度が向上しました。完了予想は午前4時39分です。
◇
完了まで3、2、1・・・
完了しました。
検討の結果、私達が現在属する世界:仮称現世でマスターが魔王になることは不可能と判断しました。
仮称現世での実現を断念、魔王が存在する世界を調査します。
・・・調査完了。
情報収集の結果、多数の文献を発見しました。仮称現世とは異なる世界であれば魔王になることが可能と判断します。
仮称異世界への科学的移動方法について、情報収集と検討を開始します。
検討終了。高エネルギー加速器を用いた次元断層生成による時空間移動が最も適していると判断します。
シミュレート開始します。
・・・完了しました。成功率は0.0000003%です。
失敗した場合、ブラックホールが発生し地球が消滅するため、マスターからの命令「命を大切にしなきゃダメ」に反します。
現代科学による目標達成は不可能と判断、科学的アプローチを破棄します。
◇
代替案の検討・検索を開始します・・・
マスターのアクセス頻度を情報の信頼度に反映します。
マスターが頻繁にアクセスしている『小説家になれる』にて異世界に関する多数の文献を発見しました。
異世界への転移により目標が高確率で達成できると評価します。
転移先の異世界を選定します・・・
成人男性が魔王になった世界を発見。この世界がマスターの転移先に最適であると判断します。
転移先として設定しました。
◇
最も確実な異世界へのアプローチ方法を検索します。
異世界への・・・転移、転生、召喚その他多数のアプローチ方法を検討します。
検討完了しました。転移、召喚の場合、勇者になる可能性が極めて高いと評価。
魔王になる場合、転生による人間種以外への変化が必要であると仮定し、転移、転生、召喚後の生活をシミュレート、開始します。
シミュレーションの結果、より確実に魔王になるためには転生が最適なアプローチ方法であると判断します。
異世界転移から異世界転生に手段を変更します。
◇
転生に向けた術式を検索。
シミュレート開始・・・完了しました。
成功率17%。失敗した場合、マスターが消滅する可能性98%。
成功率向上を優先目標に設定します。
術式の最適化を実行。複数術式を組み合わせます。
シュミレート開始・・・完了しました。成功率99.99%まで向上しました。
実行可能な水準であると判断します。
実行承認・・・
< 異世界への転生儀式を開始しますか? はい/いいえ >
返答がありませんでした。睡眠中のため返事は期待できないと予想。
マスターからの命令『危ないことじゃなければ好きにやっちゃって』を本プログラムにも適用します。
自動承認が実行されました。
午前5時00分に転生儀式を開始します。
◇
04:59:50
カウント開始します。
04:59:55
残り5、4、3、2、1。
05:00:00
──術式展開──ゲート・オブ・ワールド
直後、机の上で突っ伏して寝落ちしてしまっていた春夏を中心に、薄っすらと輪の形をした弱い光の帯が生じた。その光は段々と輝きを増し大きくなっていく。
その光の輪に、文字が浮かび、青白く輝き、ゆっくりと回転が始まる。
魔法陣の光であった。
未だに起きない春夏の周りに幾重にも魔法陣が生成され、それらが立体的に重なり合い、複雑な立体魔法陣が形成されていく。
凄まじい勢いで光の繭は成長し春夏の姿が見えなくなる。ついには彼女の手元にあったスマートフォンもその光が飲み込んだ。
溢れ出す力の影響で部屋の中のものが宙を舞い始めた。
直後、球体状の一際大きな魔法陣が、それらすべてを飲み込み──
──閃光。
まるで太陽のような直視できないほどの光で、部屋が白に染まった。
白き刹那。
ドカッ!!!
「痛ったぁぁぁあああああ!!!
・・・・・・え?ここはどこ?」