タイムカプセルには黒歴史がたくさん詰まっている
「あー、もう始まっちゃってるかな。同窓会。」
ドレス姿で同窓会会場に向けて小走りで駆けているのは私、20歳女子大生の朝比奈春夏である。
その格好はワインレッドの腰回りが引き締まったデザインのワンピースの上に、フリルをあしらった黒のジャケットを羽織ったドレス姿だった。履いているのは慣れないパンプスではあるが元々運動神経が良い春夏の動きは軽快だった。
身長は152cmで平均より少し小さめ、顔は10人に聞いたら7人位は可愛いと答えるくらいの美少女なのだが、胸の慎ましさが彼女の悩みであった。春夏曰く、これから大きくなるとのこと。
私は中学時代の仲間との同窓会に向かっているところだった。
『はい。同窓会の開始時間を20分ほど過ぎております。お急ぎくださいマスター。あと500メートル先を左に曲がれば本日の会場、レストラン フェンネルに到着です。』
と左耳にはめたかわいいデザインのワイヤレスイヤホンから機械的な女性の声が聞こえる。声の主はAica、私の作ったAIだ。
アイカはもともとゲームの中で動かす戦闘補助AIだったのだが、ちょっと調子に乗って機能を増やしすぎたため、ゲーム内での処理限界を超えてしまった。そこで私のPCで動かしていたが、どんどん改良(と言う名の魔改造)を重ねた。さらに自分のプログラムをアイカ自身で改変できるようにして、ネットにも接続できるように設定した。
すると自分で情報を収集しみるみる成長していき、今では人間のよう(演算速度なら人間以上だが)に会話をしたり一緒にゲームをしたりなど様々なことができるようになった。
感覚的には姿を知らないネット上の無口な友達とやりとりをしているような感じである。試しにアイカがAIであることを一切教えずにモ○スターハンター内で一緒に遊んだ友達は、結局最後の最後までAIであることには気づかなかった。動きが完璧すぎたためか達人クラスのプレイヤーに見えたらしく、ユー○ューバーになれるよと無邪気にはしゃいていたが、いつか見た映画のように悪い組織にでも悪用されたら恐ろしいので、公開する気は全くないのであった。
一応だが、私の命令に絶対従う事とか、ロボット三原則的な事については、プログラムを自分では改変できないようにしてある。
悪いことはしないように育てているから大丈夫なはず。たぶん。
「(う、だってレアボスがPOPしてたからさ。なかなか出会えないんだからしょうがないじゃん。)」
私が遅れた理由は、今ハマっているMMORPGのドラゴンズリングで、年に一度会えるかどうかのレアボスと戦っていたからだ。
「もっと素早く倒せるとおもってたんだけどな」
そういう春夏であったが、他のプレイヤーからしたら信じられない速度でレアボスを倒している。今回、春夏が倒したのは天使のような羽をもったスライム型の一見するとかわいいエンジェルスライムだ。しかし、そのかわいい見た目とは裏腹に20人以上の一般的なボス攻略パーティーでも3時間掛かりでようやく倒せるレベルの強敵であり、出現する場所が決まっておらず年に数度しかPOPしないレアモンスターだ。通常時の攻撃力はそれほど高くはないので、パーティー構成がしっかりしてさえいれば、こちらが全滅させられることは少ないのだが、瀕死になると覚醒してドラゴンになるのだ。そのドラゴンはあらゆる魔法やスキルを使いこなし容赦なしに攻撃してくる。さらに、転移まで使用できるためスキを与えると逃げる習性があり、HPを減らしても転移され、逃げた先で回復されてしまうため中々に仕留めきるのが難しいモンスターなのだ。
それを春夏とアイカの二人はものの3分で倒してしまった。本人曰く、ふつーとの事だが春夏はボスに対して攻撃力が飛躍的に上がる超がつくほどのレア装備で全身を統一していた。アイカも完璧なタイミングで敵に拘束魔法やデバフ魔法を放ちつつ、与ダメージをすべて記録し敵ボスのHP残量を見極めていた。仕上げに、転移行動に移る直前までHPを削ったところで、一度しか使えないが1発だけ攻撃力を倍にする霊薬を使い、超高火力な技を叩き込んで一気に仕留めたのである。
ちなみにその装備と霊薬は課金ガチャの大当たりアイテムで、結構な投資をしないと手に入らないのだがアイカのおかげで懐がとてもあたたかい春夏にとっては、これでもふつーらしい。
春夏は、アイカの全面的な協力のもと、株取引やビットコ〇ンなどの仮想通貨で稼いでおり、一般的な同年代と比べると春夏はかなり裕福なのであった。
◇
「あ、春夏やっときたー。おそいよ!もうみんな集まってるよ。こっちきて!」
同窓会の会場で出迎えてくれたのは、肩から背中にかけてがレースになっており、チュールスカートの黒いワンピース型のドレスを着た美少女、青木友奈であった。友奈は、その裏表なく明るい性格から絶大な人気を誇っていた。しかも、見た目も街を歩けばモデルにスカウトされる程の可憐な少女だったため、中学時代は彼女にしたい女子ランキングで1位だった。彼女とは家も近所だったので小学校の頃から二人でたくさん遊んだし一番仲の良い親友だ。今でも一緒にネットゲームをやっている。
「ごめんごめん、エンジェルスライムが湧いててさ。倒してきた」
遅いと言いつつ案内をしてくれる友奈に対し、春夏はドヤ顔で答える。
「え、凄い。よく見つけられたね」
「いやー、友達から浮遊城エリアに湧いてるって教えて貰ってさ。あはは。」
その友達と言うのはアイカである。ツ〇ッターなど各種SNSにあげられたスクショなどの情報やゲーム内のオープンチャットを解析し、瞬時に出現場所まで特定したアイカに感謝しながら私は、その友達について深く聞かれないように話題を変えた。
「同窓会ってなんか変な感じだけど、みんな意外と変わってないね」
「えー、でも私は成長したよ!?ほらお酒だって飲めるようになったし!」
友奈はえっへんとその豊かな胸を張って答える。そして普段に比べると妙にテンションが高い。随分飲んだのか元々強くないのか、まだお酒に慣れていないのか、友奈はかなり酔っているようだった。
「はいはい、わかったから飲み過ぎちゃだめだよ。んー、私もお酒頼んじゃおうかな。」
と言いつつ、私はカルーアミルクを頼んだ。
◇
「はーい、皆注目。それでは、そろそろタイムカプセルを開けたいと思いまーす。忘れちゃってた人もいると思いますが、卒業式の前に作ってますよー」
中学で学級委員長をやっていたイケメン君が前に出て皆の注目を集める。
「それじゃ早速ですが、名前を呼ぶので、呼ばれた人はこっちに取りに来てください!
えーと、一人目は青木友奈。次は朝比奈春夏・・・」
「タイムカプセル!!初っ端から呼ばれたね!って名前の順か。懐かしい!」
イケメン君の呼びかけに、一緒にお酒を飲んでいた友奈と私はワクワクした面持ちでタイムカプセルを受け取ると、自分の飲み物がある席まで戻ってくる。周りも順次受け取りに行っている。
「何入れたんだっけ?春夏は覚えてるー?」
「んー、覚えてない。そもそもタイムカプセルなんて作ったっけってレベルだよ」
「私も何入れたか覚えてないなー。ギザ十だっけかな」
「やっぱり友奈は、そういう変なもの入れると思ってた。」
友奈は普段はしっかり者のイメージだが、じつは昔から少し天然なところがあるのだ。ちなみに春夏のほうがかなりの天然なのだが。
「ひどい!変なものじゃないよ!将来高くなると思ったんだもん!まいっか、皆開けてるし私達も開けてみよ!!・・・一緒に開けよう?」
カシスオレンジをジュースのような勢いで飲んでいた友奈はかなり寄っているようで、テンション高めに、そして少しだけ甘えた声で私を促し・・・・同時に開けた。
「あ・・・・・・」
中を見た私は、小さく声を漏らすと何も見なかったことにして、そっと閉じた。
タイムカプセルに何が入っていたかと言うと、中学3年のときに書いた過去の自分からの手紙であった。
手紙には魔王になりたいという趣旨の内容が長々と書いてあった。夢の中で魔法を使えたのがきっかけだっただろうか。
当時の私は、厨二病を思い切りこじらせていて、眼帯をつけて登校したり、家では魔法陣を書いてみたり、果ては魔法を使ったり剣で戦ったりする物語をかいていたことを思い出していた。
そして友奈はというと、手紙を見るなりポロポロと泣き出してしまっていた。突然の様子の変化に困惑する春夏が尋ねる。
「え・・・どしたの友奈?大丈夫??」
「ん・・・ひっく・・・」
ギザ十なくなってたのかな?とまったく見当違いなことを考える春夏の隣で、酔った勢いもあり嗚咽を漏らして泣き出す友奈。
「ねえ大丈夫?」
友奈が泣いていることに気づいた女子が集まってくる。お酒で結構ハイテンションだった友奈の突然の変化に皆も困惑している様子であった。
「友奈ちゃんどうしたの?大丈夫?」
一方男子はどうしたら良いかわからず少し遠巻きでこちらの様子を伺いつつ聞いてくる。
「なにかあったの?」
「急に泣き出しちゃったんだって」
「え、なんで?どうしたの?」
周囲がざわつき始めた。
少し居心地が悪かったので私は友奈の背中をぽんぽんしながら、お手洗いの方に連れて行く。
◇
「友奈。大丈夫?なんでも聞くから言って。」
春夏が友奈をそっと抱きしめながら、頭をなでつつ友奈に言う。こういうことを何の躊躇いもなく平気でやってしまうあたり、やはり春夏は天然なのであった。
「私・・・春夏のことが好きだったの・・・」
「え?・・・ああ、私も好きだよ?」
もちろん親友として。
「違うの、私のは本気なの・・・」
鈍い春夏も流石に友奈が何を言いたいのか察した。そして尋ねる。
「え・・・その・・・もしかしてまだ、私のこと好きだったり?」
私は、卒業する少し前に友奈が『卒業してもずっと一緒に遊ぼうね』と言ってきたこと、そしてあれだけモテているのになぜ彼氏の一人もできないのだろうと当時疑問に思っていたことを思い出していた。
「・・・・・・うん。じつは今日春夏に会えるのすごく楽しみにしてたの。」
「あ・・・そうだったんだ。ごめん。でも私も友達とし・・・んふごっ!」
私は突然、集まっていた女子に後ろからチョップをくらい、口をふさがれる。他の者からもものすごい形相で睨まれる。
「「「(少し黙ってなさい春夏!)」」」
後ろからものすごい剣幕でそう言われてしまった。なぜ叱られなきゃいけないのか私にはわからなかった。
そうこうしていると友奈が再び泣き崩れてしまった。
「うぅ・・・ふぇえ・・・ひっく・・・」
うつむいて両手で顔を覆った友奈は酔っている影響もあって、もう涙が止まらないといった感じだった。
この期に及んでも友奈って泣き上戸なんだとのんきに思っている私だったが・・・。
程なくして、友奈を元気づけるためなのだろうか、同級生一同によるタイムカプセル中身の大暴露大会が何故か始まってしまったのであった。
◇
「一二三じゃなくて壱弐参て書いてた。かっこいいと思っていたんだ。」
「私、目立ちたくて一時期記憶喪失のふりをしていた。」
「屋上で叫びながら変身のポーズ決めているところを彼女に見られて次の日別れた」
ガンガンガンガンガン!
あるものは壁に頭をキツツキもびっくりな速さで打ち付け始め、あるものは叫び声を上げながら過去の自分から送りつけられた黒歴史が綴られた手紙をブリブリとやぶり紙吹雪にしていた。どうしてこうなった。
春夏のことが好きで今でも呆らめきれずに、今なおも泣き続ける友奈に対して、自分だってこんな黒歴史があったから大丈夫ということをアピールしたいのだろうか。一番最初は中学の頃に友奈に片思いをしていた男子が、お腹が空きすぎて道端のキノコを食べていたと言い出したのがきっかけだった。
そんな中、爆弾発言とも言うべきものが女子の一人から発せられた。
「私じつは好きな人のリコーダー盗んじゃってた」
突如、静寂が波紋のように広がり急に会場が静かになった。
ある日、イケメン委員長のリコーダーが無くなった事件があった。
当時そのイケメン君は委員長だけではなく生徒会長もやっていたため、PTAの間でもいじめではないかと噂になってしまっていた。結局、噂によってヒステリックになったイケメン君の母親及び、当時市議会議員も努めていたPTA役員の父親とその取り巻き、そして彼らに頭の上がらない校長先生の判断で部活が中止され、急遽ホームルームでの事情説明とその後に全学年全クラスの生徒がそれぞれ担任との個人面談を行うという、全校生徒を巻き込んだ大事件に発展したことがあったのだった。
先程まで泣いていた友奈も含め誰も声には出せないでいたが、その場に居た全員の心は一つであった。
「「「(犯人はこいつだったのか!!!)」」」
建前上同窓会に呼ばれていた当時担任だった初老の先生はと言うと、生徒達の様子におろおろするばかりであった。
元はと言えば・・・
「みんな何書くか迷っているなー。
迷っているやつは黒歴史でも書いとけ。書いとけばあとで笑い話にできるぞ。俺なんてな・・・」
と担任が無責任にも語ったのがそもそもの原因だった事をここに記しておこう。
◇◇◇
同窓会からの帰り道。
「疲れたよ。パト○ッシュ。」
ため息を漏らしながらトボトボと歩く春夏の姿があった。
『マスター、お疲れですね。帰宅までのこり約700メートルです。到着予想は1時37分です。』
「にしてもうちのクラスのみんな黒歴史のバリエーション豊富すぎるよ。」
『やはり人間の行動は興味深いです』
「あれはかなり特殊な例だからあまり参考にしちゃダメだよ」
◇
玄関のドアがしまったのを確認した瞬間、春夏は目にも留まらぬ速さでパンプスを無造作に脱ぎ捨て、パールのネックレスを外し、ドレスを脱ぎ、パジャマという名のジャージに着替え、そのままベッドにダイブした。
「つ、疲れたーっ」
う○るちゃんもびっくりな干物っぷりである。
同窓会も無事に(ではないが)終わり、私は大学に入学したときから借りているマンションに帰ってきていた。
同窓会は地元で行ったのになぜ実家に帰らないのかと言うと、今は両親が旅行に行ってしまっており実家に帰っても誰もおらず、同窓会会場からは1時間もあればマンションの自分の部屋まで帰れるからだ。
「よし!こんなときはやっぱりネトゲだよね。宝箱も開けなきゃだし。」
やはりネトゲに集中したいというのが本音であった。
『マスター、一つお伺いしたいことがあります。』
「ん、なに?」
『マスターのタイムカプセルの手紙には何と書いてあったのですか?』
「あー、魔王になりたいって書いてあったよ。はぁ、黒歴史すぎる。」
『・・・魔王と言いますと比喩的な表現の魔王でしょうか?それともRPGに出てくるような魔王でしょうか?』
「RPGの方だよ。強くなりたかったの。ほらこれ。」
そう言って春夏はアイカでも確認できるようにPCのウェブカメラに手紙を写すのであった。
そこには、『私の将来の夢は魔王になることです!二十歳になった私はもう魔王になっていますか?・・・』と書いてあった。
一瞬でその手紙の内容を読み終えたアイカが再び尋ねる。
『強くなりたいのであれば、勇者でも良いと思いますがなぜ魔王なのですか?』
「ほら勇者って基本的にパーティーじゃん、ド〇クエだって4人で魔王に挑むでしょ?あの頃はそれを1人で迎え撃つ魔王ってすごく強いって思っててさ」
『確かにそのゲームでは個としての強さは圧倒的に勇者より魔王の方が上ですね』
「それに多人数で1人を寄ってたかってって私嫌いなんだ。なんてね。」
春夏は一瞬だけ暗い表情になった。
『マスターは今でも魔王になりたいと思っているのですか?』
「え?んー、どうだろ。面白そうだし、なれるならなってみたいかな。まぁ、普通に無理だろうけど。」
『そうですか・・・。』
「アイカ、起動して」
『了解しました。PC起動・・・
ドラゴンズリング起動、スタンバイ。ログインしてよろしいですか?』
「ん」
それから、数分と持たずに寝落ちする春夏であった。
はじめまして。まずは読んでいただきありがとうございます。
初めてなのでかなり悩みながら(と言いつつ楽しんで)執筆しています。
しばらくはマイペースにゆっくりと更新していきたいと思いますので、よろしくおねがいします。
次回から異世界編スタートです。