表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/8

「それで? 例の作戦は成功したの?」


 綺麗に巻かれた髪を指に絡める。その爪もまた、ピンク色で綺麗に塗られている。彼女は隣のクラスの羽田(はねだ) 真澄(ますみ)。あたしの大親友だ。


「もちろん! 大成功だった!!」


 思い出しただけでも、まだドキドキする 。


「うそ! ホントに!?」


「すんげー格好いい王子様だったぜ」


「あたしも行けばよかったー! 絶っっっ対にムリだって思ってたから」


 なんて失礼なやつ。


「相手の見た目は?」


「見た目は……金髪でサラサラヘアー。絵本に出てくる王子様そのもの」


 なんせ馬に乗ってたしな。


「馬に? なんで?」


「さぁ? 好きなんじゃね?」


「ま、まぁいいわ……で、年はいくつ?」


「知らね。あ! でも、通学中って言ってたから……たぶん学生」


「馬に乗って通学……ますます謎ね。で、彼女はいるの? いないの?」


 そこが最大のポイントだと、真澄が鼻息荒く聞いてくる。


「う~ん、分からん。てか、あたし王子様と話ししてないんだよな。緊張しちゃって」


「はぁ? 何よそれ! そんなとこで乙女感だすんじゃないわよ! 王子様見つけたって彼女がいたら意味ないでしょ!」


 ごもっとも。ちゃんと聞いときゃ良かったなー。


「放課後逢いに行くから、そん時ちゃんと聞く!」


「え? デート!? 話ししてない割にはちゃっかりしてるわね」


「違う。デートじゃなくて、お詫びのしるしにケーキ奢ってくれる」


 星夜とあたしに。なんで星夜も一緒なのか分からないけど。


「てか、星夜どこ行った? あたし腹が減って死にそうなんだけど」


 さっきからF1のエンジン並に音を立ててる腹を抑えながら、下僕を探す。


「星夜くんなら、さっき呼び出されたわよ。3組の井手(いで) マリコに」


「井手……?」


「あんたの下駄箱にヘドロを詰め込んだ女よ。ほら、あんたにしつこく付きまとってた剣道部の先輩と付き合ってた!」


 あたしのせいで先輩と別れるはめになったとかほざいてた、プチ整形の女か。あのヒステリー女のせいで下ろし立ての上履きが、見るも無惨な姿になってたんだよな。


「おかえしに、机いっぱいにトミ江の(ふん)を詰め込んでやった時は最高だったな!」


「あの真夏の異臭事件は、3組の間じゃ伝説になってるわ」


 やられたら完膚なきまでにやり返す、それがモットー。校舎裏で大事に育ててる豚のトミ江の糞を集めに、夜中に忍びこんだっけ。


「で、なんで星夜が呼ばれたんだ? ヤキでも入れられんの?」


「あんたいつの時代を生きてんのよ? バカね~! 女に呼び出されたら話しは一つしかないでしょ? 告白に決まってんじゃない!!」


「告白~? 誰が?」


「井手がよ」


「誰に?」


「星夜くんよ! 言っとくけどね、彼すごくモテるんだから。うちの高校もそうだけど、近隣の女子からだって狙われてるんだからね?」


 星夜がモテるだと……! 目から鱗どころか魚本体が飛び出してきそう!


「おかしい! 世間はおかしすぎるぞ!! あの泣き虫星夜が、あたしを差し置いてモテるなんて──!!」


「あんただけよ、星夜くんのこと眼中にないのは。……いや、近すぎて意外と見えてないのかしら?」


「なになに? 何の話し?」


 噂をすればなんとやら。暢気な顔した色男のお帰りだ。


「星夜、お前告白されたんだってな?」


「うん、そうだよ」


 それがなにか……なんて、とぼけた顔がムカつくぜ。


「で、付き合うのか?」


「あれ?伊織ちゃん、もしかして気になる?」


「べ、別に! き、きになんかしてねーよ!」


 下僕が誰と付き合おうが、あたしの知ったこっちゃねー。


「ふ~ん……じゃ、教えな~い」


「なっ!?」


 なんて生意気なヤツ! すました顔して弁当まで食べ始めやがって。……てか、あたしも真澄も、てめー待ちだったんだぞ? なに勝手に食べてんだよ!


「おい、せい」

「こらァ、姫川ァ!!」


 (あるじ)として、ここは一発ガツンとなんて思ってたら、


「また問題起こしやがって!! N高から抗議の電話があったぞ!!」


我らが担任、大熊(おおくま) 三郎(さぶろう)の姿が。


「『うちの生徒をボコボコにしたあげく、亀甲縛りにして道端に放置した』って、電話口で怒鳴られたわ!」


 チッ、そんなんで一々抗議なんかしてくんじゃねーよ。


「この前、先生の車にうんこの絵を描いて怒られた時に誓ったよな? もう悪さはしないって? あれ吉永先生に見られて笑われた時、先生すごく恥ずかしかったんだからな!」


「あんた女子の癖して、なんてことしてんのよ?」


「伊織ちゃんの頭ん中、男子小学生並だから」


「悪さじゃねーよ! 今回のは、ちゃんとした理由があるんだよ!」


「ほう……どんな理由だ。言ってみろ?」


「カツアゲされてた亀(着ぐるみ)を助けてやったんだよ。アイツらノロマとか何とか言って3人で虐めてたから、亀甲縛りにしてやったら少しは亀(着ぐるみ)の気持ちが理解出来んだろーと思って」


 人助けならぬ、亀助け。ただ、血反吐吐くまでボコボコにしてる最中に、ビビった亀(着ぐるみ)は走って逃げてったけど。


「な? ちゃんとした理由だろ?」


「そうかそうか……よぉぉぉ~く、分かった!」


「ホントに? じゃあ、お咎めなし?」


 かめだけに、なんちって。


「んなわけェ……あるかぁぁー!! 今から職員室で30分正座ァ!!」


「なんでだよ! あたし悪くねーぞ!」


「嘘をつくなら、もうちょっとマシな嘘をつけ!どこの世界に街中で亀から金巻き上げるヤツがいるんだ!! ほら、来い!!」


「痛ってーな、腕引っ張んじゃねぇ、三郎! それでも教師かよ? 生徒を疑うなんて最低だぞ!!」


「教師に向かってなんたる口の利き方!! もう、昼休み中正座の刑だ!!」


 そんな! それじゃあ昼メシは? 今日は大好きなハンバーグなのに!


「おい、お前ら助けろ!」


 親友と下僕に助けを求めるが、


「頑張ってね~」


「5限目は音楽だから、忘れずに音楽室に来るんだよ?」


あっさり見捨てられた。


「てめーら、覚えてろよ!!」


 こうして恒例行事と化した職員室へと引きずられて行った。














「黙ってたら、本っっっ当に美少女なのにね。もったいない」


「でも、それじゃあ伊織ちゃんじゃなくなっちゃうからね。個性が死んじゃうし」


「個性って言うのかね、アレは。……で、それはそうと、いいの?」


「何が?」


「分かってるくせに~、とぼけちゃって。王子様よ、伊織が言ってた」


「あぁ! あの馬に乗った!」


「その変人が伊織の王子様になったら、星夜くんどうするの?」


「別に、どうもしないよ」


「またまた~、裏で伊織(あのこ)に興味を持つヤツら全員、あなたがシメてたの知ってるんだからね?」


 あの剣道部の先輩も。伊織を襲おうと計画していた先輩の利き手、へし折ったことも。二度と竹刀握れなくなって結局、学校辞めたっけ。


「あれ? バレちゃってた?」


「ざまぁみろって、あたしはスッキリしたけど」


 相手にされないからって、無理強いする男はカス以下だし。


「……俺はね、伊織ちゃんの王子様には絶対になれないんだよ」


──いいかセイヤ、あたしがおまえをいっしょうまもってやる!!


「俺はいつまで絶っても、伊織ちゃんに守られ続ける存在だからね」


「星夜くん、あなた──」


 なんて目をしてるの。


王子様(それ)に俺がなれないんだったら、他の(ヤツ)にも、その役は絶対渡さない。どんな手を使ってでも捻り潰す」


「……そう。あたしには関係ないから好きにしたら? ただし、伊織(あのこ)を泣かせるような事があったら、あたしはあなたを許さないから」


 大事な親友ですもの。彼女の涙は見たくない。


「肝に銘じます。でも心配しないで、伊織ちゃんだけは泣かせたりしないから。だって俺の命だもん」


 これがヤンデレってヤツね。あたしの親友も大変な男に好かれたものだわ。


「伊織を監禁したりしないでね? ふたりに逢えなくなるのはイヤだから」


「あはは、なに言ってんの! 面白いね、真澄ちゃん」


 否定はしないのね。まぁ、いざとなったらあたしも乗り込んで、一緒に住んでやるけど。


「話し戻るけど、その金髪王子は伊織の王子様になりそう?」


「いや、ならないよ」


「あら? すごい自信、なんで?」


「白馬がインパクトありすぎて忘れてたけど……俺、彼のこと知ってる」


 そう言ったっきり何も教えてくれない。けど彼が言うなら心配ないわね。


「放課後、会いに行くんでしょ? 物語の結末はちゃんと教えてね」


「りょーかい」


 笑った星夜くんの顔が、まるで悪事を企む魔王みたいだったことは、ナイショ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ