魔王とひとかけらの澱み
:魔王とひとかけらの澱み
魔王号の逆転勝利により、観客席より大きな歓声があがっていた
俺はその歓声に、手を振って応える
そんな俺の側に、ウラムが近づいてきて言った
「ギリギリではありましたが、なんとか勝利出来ましたね」
「「レースの方はな」、これで上がった知名度を無駄にしないようにしないと」
そう、俺達の目的はあくまで魔王軍の財政をなんとかする事だ
(とは言え、今回の成果はかなり大きかったと言えるだろう・・・!)
今回のセレンディアグランプリ優勝により世界中に魔王軍の名をアピール出来た事は、今後の魔王軍の展開にかなり大きな進展になる
「つかお前。もう少しマシなやり方は無かったのか?」
「さて?やり方とは何の事でしょう?」
「さっきのアッパーだよ!普通に止めれば良かったじゃねーか!」
「ああ。まあやろうと思えば出来ましたが、その場合Gで魔王様の体が潰れてしまいましたので。こうグチャッと」
ウラムはそう言って両の掌をパンッと合わせてみせた
空気の壁に潰されて圧死とかゾッとする・・・
「ですのでスピードはそのまま、ベクトルだけ上にズラしたわけです。何せ魔王様は貧弱で非力ですからね、こちらも色々頭を使う必要があるというか・・・」
俺とウラムがそんな話をしていた所に、アリアが呟いた
「どうしてですか・・・」
その顔はいつもの快活な表情ではなく、どこか暗い雰囲気になっている
「どうしてって、何の事だ?」
いつもと違うアリアの様子に戸惑いながらも、俺はそう聞き返す
だがその時!アリアは弾かれたように叫んだ!
「どうしてあんな無茶をしたんですか!!!???」
「ッ!」
そのあまりの剣幕に俺は怯んでしまう
だが俺はアリアがそんなに怒る理由が分からず、困惑した表情でアリアに答えた
「無茶って・・・。いやまあ、多少危険だとは思ったが」
「多少!!??分かってるんですかソーマさん!!!あの時ウラムさんが助けに入らなければ!!!あのまま壁に向かって突撃していたら!!!」
そして・・・
「ソーマさんは死んでいたかもしれないんですよ!!!!!」
アリアはそう、涙目になりながら叫んだ
だが・・・
「えっと・・・」
「まあ、それは確かにそうなのですが・・・」
俺とウラムは、尚も困惑した表情のまま顔を見合わせた
「・・・?」
その俺達の態度に、アリアも困惑する
そんなアリアの疑問を解くように、俺はゆっくりとアリアに告げた
「まあ、なんというか・・・。ウラムなら絶対に気付くと、確信があったと言うか・・・」
「え?」
「あの瞬間。俺はギガスが魔王号に、自爆を組み込んである事を信じた。そしてそれと同時に。爆風で止まれなくなった時に、ウラムが助けに入る事も信じていたんだ」
(俺は俺のロクでもない部下達を信じる!!!)
そう。あの時俺が信じたのはのは、ギガスとウラムの両方だ
あれは勝つと同時に、助かる事も確信していたからこそ出来た決断だったのだ
「じゃあ・・・。ウラムさんはどうして、あんな咄嗟に行動出来たんですか・・・?」
アリアは唖然とした顔のまま、ウラムの方へ質問する
「私ですか?まあ、魔王様なら必ず逆転の手を見出すだろうとは思っていましたし。それが危険極まり無い、無茶苦茶な手段である事も読めていました。なので私は、先読みしてそのサポートに回っただけです」
ウラムはそう、アッサリと答えた
「もし気付かない様だったら、即クビにしてやる所だったけどな」
「ハッハッハ。その時はクビを宣告する前に、魔王様は壁の染みかミンチになっていましたよ」
そんな俺とウラムのやりとりを聞きながら、アリアは呆気に取られていた
(凄い・・・)
あの瞬間。二人は言葉どころか視線すら交わさず、互いが互いの最善の行動を取る事を信じていた
友情、信頼
言葉にするならそう言う物なのだろう
けどそれは決して違う、あれは決してそんな陳腐な物ではない
二人の間にある物はあくまで契約だ、互いが互いの利をを得るために利用しあう共生関係
でもだからこそ、互いを完全に信じられる
心から相手を信じて、背中を預ける事が出来る
それは言うなれば、究極の利害関係・・・
(それに比べて・・・私は・・・)
そして、アリアの心にひとかけらの澱みを残し
セレンディアグランプリはその幕を閉じた
そしてレース終了後、GAの控え室では
「がああああああああ!!!!!」
ガンッ!!!
ジョシュアは叫びながら、手当たり次第に周りの機材を破壊していく!
「クソッ!クソッ!クソッ!クソッ!クソッ!クソがああああああああああ!!!!!」
今、彼の心を支配しているのは怒りだ
レースで負けた事への怒り、そして
「あんな人間ごときに!!!人間なんて下等生物に!!!このエリートの俺があああああ!!!」
上級天使である自分が人間に負けた
それはジョシュアにとって、これ以上無い程の屈辱なのだから
ジョシュアは更に手当たり次第に破壊を続ける
「落ち着いてくださいジョシュア先輩!!!」
思わず止めに入るフィーリス、だが
「ッ!!!」
そんなフィーリスを睨み付けるジョシュア、そして!
ドンッ!!!
「うあっ!」
フィーリスの肩を掴むと!
壁に向かって叩きつけるように抑えつけ!叫んだ!
「テメエの調整したマシンが遅いから負けたんだろうが!!!!!」
そしてジョシュアが右腕を振り上げる!
「・・・っ!!!」
殴られる!
そう思ったフィーリスは咄嗟に目を瞑る!
そしてジョシュアがその手を振り下ろそうとした、その瞬間!
「そこまでだ」
突然聞こえてきた声にピタリとその手が止まる!
「なっ・・・!?」
そしてジョシュアが振り向いた先に立っていた、その男は・・・
「あ・・・貴方は・・・!!!」
「・・・あ!!!」
そして、その男の登場により事態は更なる局面を迎える事となる
終わりの始まり
この星の命運を賭けた、最終局面が始まろうとしていた




