魔王とロクでもない最終手段
:魔王とロクでもない最終手段
「これこそが!「MAO-6C2・魔王号改二」の真の姿!!!魔王号・ハイブーストモードです!!!」
その姿を変えた魔王号に、レースを見ていた観衆の全てが驚愕する!
「あれが!新しい魔王号!」
「ええ。さすがはギガスです」
ワアアアアアッ!!!!!
魔王軍の面々だけでなく、観客席からも歓声があがる
そして、GA側もソレに動揺を見せていた
「変形だと!?そんな無茶苦茶な手を!!!」
「火力重視と速度重視!二つのコンセプトを変形と言う手段で両立させる!!!けど!走行中に変形なんてありえないっス!!!」
その時、魔王号を操縦していた俺達はマシンの状態をチェックしていた
「変形シークエンス全て正常に終了。成功です!魔王殿!」
「どうやら、変形中にバラバラに吹っ飛んだりはしなかったようだな。正直、心配で気が気でなかったぜ」
そう、この変形を成功させる事は容易ではない
走行中の変形そのものが緻密な作業である上に、変形中の魔王号は完全に無防備
ほんの少しでも妨害があれば、確実に失敗していただろう
(まあその為に他のマシンを全てリタイアさせ、GAとも十分距離を取って行ったわけだが・・・)
それでも、これは俺達にとって一か八かの賭けだった。だが!
「ですが、変形は成功しました。魔王殿!」
「ああ。なら、行くぜ!!!」
そして魔王号背部のノズルが展開し、俺はブースターを点火させる!
キュィィィィィンッ・・・!!!
次の瞬間!
ゴオオオオオオッッッッッン!!!!!
「ぐおっ・・・!!!」
凄まじい加速Gに胸が詰まる!今までの魔王号とは段違いの速度だ!
だがこれなら・・・!
「きたーーー!!!変形を完了した魔王号が急加速ーーー!!!ガーディアンエンジェルを猛追だーーーーー!!!」
ギュゥゥンッ!!!!!
ガーディアンエンジェルとの差を一気に詰めていく魔王号!
凄まじい速度で猛追してくる魔王号に焦るジョシュア!
「なんだと!?あのスピード!!!」
「え・・・!?そんな・・・まさか・・・!!!」
ピットからモニターしていたフィーリスもまさかの事態に困惑する!
「何があった!?報告しろ!!!」
「は、はい!変形したあのマシンの性能はガーディアンエンジェルとほぼ互角!いえ・・・!!!」
その瞬間!
「・・・何っ!!」
「もらった!!」
ギュガガガガガッッッッッオォンッ!!!!!
コーナーを外側から強引に曲がってきた魔王号が!ガーディアンエンジェルを追い抜いた!!!
「・・・ガーディアンエンジェルより速いっス!!!」
「こんなふざけた手段でええええええええ!!!!!」
追い抜かれる瞬間!ジョシュアが叫ぶ!
声は聞こえないが、まあなんとなく何を喋っているのかは分かる
「つうわけで!言ってやれギガス!」
その俺の言葉に、ギガスが堂々と宣言した!!!
「変形は!!!ロマンです!!!!!」
そして!実況が今までにない程大きな声でそれを伝える!!!
「ぬ・・・!!!抜いたーーー!!!ここに来てついに!魔王号が逆転ーーーーーー!!!!!」
オオオオオッ!!!!!
実況の声に大きく湧き上がる観客席、そして!
「やったですにゃーーー!!!ソーマさまーーー!!!」
「おとうさん!!!」
魔王軍の面々も沸きあがる!だが!
「いいえまだです!まだレースは終わりではありません!」
そう、まだ一度追い抜いただけに過ぎない!
カシィッ・・・!
その時!ガーディアンエンジェルから小さな砲門が現れる!
「敵マシンに熱源反応!来ます!魔王殿!」
「レーザーか!?」
前を行く魔王号に照準を合わせるジョシュア!
「ロックオン完了したっス!!!」
「消し飛べ人間がぁあああああああああ!!!」
そしてガーディアンエンジェルから放たれるレーザー!
それはまさに!光の速度で魔王号に襲い掛かる!だが!
ボシュンッ!!!
レーザーが到達するより一瞬早く、魔王号が煙に包まれる!
「スモークだと!?」
「レーザー対策っスか!?」
そしてスモークによりその威力を弱めたレーザーは、魔王号を貫通する事なく装甲で遮られた!
「いくら光学兵器が強力とは言え、ああも堂々と見せ付ければ対策も立てやすいという物。圧倒的なマシン性能故の、その傲慢さが仇となった様ですね」
レーザーを無効化し、その間に更に差をつけていく魔王号!
その時、フィーリスがジョシュアに報告する!
「マズイっス!レーザー射程距離外に逃げられるっス!!!速度はあちらの方が上!つまりこの距離を保たれたらこっちの負けっス!!!」
「そんな事は言われなくても分かってる!!!」
怒りの形相で魔王号を睨みつけるジョシュア!だがその時!
「・・・もうこうなったら!!!ジョシュア先輩・・・!!!」
「・・・何だと!!??」
フィーリスから出された指示にジョシュアが計器を操作していく、次の瞬間!
ボンッ!
ガーディアンエンジェルのパーツがパージされる!そして!!!
キィィィン・・・ゴオッ!!!!!
ガーディアンエンジェルが今までにない程の急加速を見せた!!!
「おおおおおおーーーーーっと!!!ここでガーディアンエンジェルも加速ーーー!!!ここに来てまだ切り札を残していたーーー!!!」
またもや魔王号との差を詰め始めるガーディアンエンジェル!
「まさか!?あっちも変形したのか!?」
「いえ・・・!あれは・・・!!!」
モニターの数値をチェックしていたフィーリスが呟く・・・!
「変形なんてスゴイ物じゃないっスよ・・・!各種武装をパージした上で重量バランスを再計算。今の時点で最高の速度が出せるように、マシンを最適化しただけっス!!!」
この時既に、フィーリスの頭からは天界の指令の事は消え去っていた
(ただ純粋に!メカニックとしての腕を競い合いたい!!!ギガスさんに自分は勝ちたいっス!!!)
そして再調整されたマシンを操縦しながら、ジョシュアがニヤリと笑う!
「フッ。扱いづらくはなったが・・・これなら勝てる!!!」
そして!あっという間に魔王号に並ぶガーディアンエンジェル!
「まさか!この土壇場で走行中のマシンを再調整してくるとは!!!残念ながら敵のメカニックはこちらの想像の上を行く様です!!!」
そう興奮した様に言うギガス!
「残念なら残念そうに言え!!!それで勝てるのか!?」
「分かりません!!!!!」
ここに来て2台のマシンの性能は完全に拮抗した!
もはや勝利の予測など何の意味も持たない領域に到達したと言っていいだろう!
ギュウゥオンッ!!!!!
2台のマシンは縺れる様にしてコースを走っていく!
その時!!!
「消えろゴミ虫がああああ!!!」
ガンッ!!!
ガーディアンエンジェルが魔王号に体当たりを仕掛ける!
「うおおっ!!!」
車体がコースの外にブレそうになるのを、俺は必死に制御する!そして!!!
「くっ!・・・野郎!上等だあああああああッ!!!」
俺はハンドルを切ると、魔王号をガーディアンエンジェルにぶつけ返す!
ガンッ!!!
「がっ!てめえええええ!!!」
怒りの形相を見せるジョシュアに対し、俺はニヤリと笑いながら叫ぶ!
「レース前の余裕ぶった仮面がはがれてるぜ!!!」
「うるせえ!!!てめえは潰す!!!」
ガンッ!!!ガンッ!!!ガンッ!!!
何度も車体をぶつけ合う魔王号とガーディアンエンジェル!
「おおおおーーーーーっと!!!激しく車体をぶつけ合うガーディアンエンジェルと魔王号!!!正に激しい火花を散らせています!!!!!」
そしてレースは終盤へ!
その決着の瞬間へと向かっていくのだった!
「くっ!!!このおおおおおおお!!!」
ギュガガガガガッッッッッ!!!!!
コーナリングで前に出る魔王号!だが!
「勝てると思うなぁあああああ!!!」
キィィィン・・・ギュオンッ!!!!!
直線でガーディアンエンジェルに追い越されてしまう!
「くっ!ギガス!!!」
「はっ!どうやら直線での最高速はあちらの方が上!ですが、速度が上がった分マシンを制御しきれていないようです!コーナリングはこちらの方が有利です!!!」
ギガスの言うとおり
コーナーで追い越し、直線で追い越されを何度も繰り返す!しかし・・・!
「このままじゃマズイぞ・・・!」
俺はそう呟く
そう、このままでは確実に負ける!何故なら・・・!
「はい、ゴール前は何も無い真っ直ぐの直線です。このまま行けば、最高速で劣る魔王号は確実にゴール前で追い抜かれるでしょう!」
「何か策が必要だ・・・!」
どうする・・・?最後の直線で追いつかれない程の差をつける?
いや、それは無理だ
現状魔王号とガーディアンエンジェルの性能はほぼ互角、そんな大きな差をつけるのは不可能だろう
ならば最後のコーナーで追い抜いた後ブロックして前に出させない様に・・・
いやそれも無理だ、大体そんな事したら・・・
「・・・!」
だがその瞬間!俺の脳裏に一つのアイデアが思い浮かぶ!
「スリップストリームだ・・・!」
「それは空気抵抗を回避すると同時に、車体の後ろに発生した低気圧による吸引効果を利用したアレですか!?」
「ああ!それしかない!最後のコーナーで奴の真後ろに付ける!そしてスリップストリームに入り、最後の瞬間エンジンの余剰出力で抜き去る!どうだ!?」
「確かに・・・それしか策は無い様です。やりましょう魔王殿!」
「おう!走行補正は任せたぞ!!!」
最後の作戦、逆転の一手は決まった!
後は決めるだけだ!
「さあーーー!!!ここでファイナルラップに突入だーーー!!!泣いても笑ってもこれが最後の一周!!!果たして勝利するのはどちらのマシンなのかーーーー!!!???」
一進一退の攻防を繰り広げながらコースを走り抜けていく2台のマシン!
そしてついに、2台のマシンは最終コーナーへと入った!
「ここだ!!!ギガス!!!」
「はっ!!!」
ギュガガガガガッッッッッ!!!!!
そしてコーナーを抜ける所で、魔王号はピッタリとガーディアンエンジェルの真後ろに付く!
ソレを察知したフィーリスとジョシュアが叫ぶ!
「まさかこれは!?スリップストリームっスか!!??」
「こいつっ!!!」
「もらったあああああ!!!」
俺は勝利を確信し叫び声を上げる!だが、その瞬間・・・!
「スリップストリーム・・・ああ・・・!」
ニヤリと・・・ジョシュアがその顔を邪悪に歪めた!
「ソレをやってくるって思ってたよ!!!!!」
そして次の瞬間!!!
ドォンッ!!!!!
突然の衝撃が魔王号を襲った!
「何っ・・・!!!攻撃!?どこから!?」
それはガーディアンエンジェルの背部!
真後ろにつけられた砲門から発射された攻撃だった!
「全ての武装をパージしたと思ってたか!?お前等が最後に悪あがきをしてくるのは読んでたからな、一発だけ残しておいたんだよ!ハッハッハッハッハッ!!!!!」
その一撃により急激にバランスを崩す魔王号!
「車体前部にダメージ!右前輪脱輪!!!車体のバランスが!!!」
「ぐおおおおおおお!!!」
ガガガガガッ!!!!!
それでもなんとか制御しコーナーを曲がりきる!しかし!!!
「さあーーーーーーーー!!!!!ついに残すのは最後の直線だけだーーーーーー!!!僅かに前に出ているのは・・・!!!ガーディアンエンジェルだ------!!!!!」
そう、最後のコーナーを抜けたその瞬間!
スリップストリームに失敗した俺達は、ガーディアンエンジェルにリードを許してしまっていた!
「ここからは直線だけっス!!!最高速度はガーディアンエンジェルの方が上!!!」
「勝った!!!!!」
勝利を確信するジョシュア!
「くっ・・・!!!」
それと同時に敗北を理解してしまう俺!
「・・・・・・・・・・・・ッ!!!!!」
だが、それを本当に理解する直前・・・!
その一瞬にも満たない時間・・・!
(しまった・・・!完全にしくじった・・・!)
目の前がスローに見える、だがどうやってもここからの流れは変えられない
(最高速度は向こうの方が上、レースは残り直線のみ。どう足掻いても勝てる目は無い)
そう、この瞬間魔王号の
そして魔王軍の敗北が決定したのだ。だが・・・
(いやまだだ!何か手が!!!)
俺の思考は、まだ勝利への道を探し続けていた
何か・・・加速する手段は無いのか!?
何か・・・ぶっ飛ぶ様な加速を得る手段が!?
何か・・・最後の切り札が・・・!?
その瞬間!!!!!
(・・・!)
俺の直感が「ソレ」を導き出した!だが・・・
(いや、それは俺の都合の良い妄想だ。「ソレ」があるなんて保証は全く無い、分の悪い賭けなんて上等な物ですらない)
俺の思いついたアイデアは全くもってありえない物だ・・・
しかし、それでも!
(それしか手は無い!!!)
だったら俺は信じる!「ソレ」があると信じる!!!
俺は俺のロクでもない部下達を信じる!!!
そして俺は・・・!
「ソレ」を叫んだ!!!
「ギガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアスッ!!!!!」
「!?」
「ファイナルモーーーードオオオオオオオオッ!!!!!」
俺が叫んだその刹那、ギガスはすぐさま答えた!
「承知!!!!!」
次の瞬間!!!
カッ!!!
魔王号が光に包まれたかと思うと!
ドッゴオオオオオオオオオオン!!!
その場で大爆発を起こした!!!
「なんスか!?」
「爆発しただと!?」
いきなりの爆発に動揺するジョシュア達!そして!
「そんな!!ソーマさん!!!!!」
「・・・ッ!!!」
観客席の方でも、突然の出来事に息を呑む魔王軍の面々!
「ななななななんとーーーーーー!!!魔王号が爆発ーーーーー!!!はたして無事・・・!!!」
実況がそう叫ぼうとした次の瞬間!
ビュンッ!!!
爆風の中からそれが飛び出した!それは!!!
「あれはまさか!!!魔王号だーーーーー!!!!!なんと爆発の勢いを利用して超加速ーーーーーー!!!!!」
正に黒の閃光の様に飛翔するその影に、フィーリスが叫ぶ!!!
「なっ!?車体を自爆させた勢いで加速!?あの一瞬で爆発の勢いのベクトルが前方に集中する様、計算した上で自爆させたっスか!!!???」
それはありえない速度でゴールへと真っ直ぐ進んでいく!
「・・・・・ッ!!!!!」
もはや言葉を喋る余裕も無い程のGが俺を襲う!
視界にあるのはゴールだけ・・・!
前輪は片方脱輪した
後輪は車体の後ろ半分ごと吹っ飛んだ
だがもうどっちも必要無い
後は文字通り、このままゴールまで「飛んでいけばいい」!!!
キィィィィンッ!!!!!
加速した魔王号がガーディアンエンジェルに並ぶ、そして!!!
「うぐおおおああああああああ!!!!!」
「こ!!!こんな馬鹿なあああああああああああああ!!!!!」
ゴール直前!!!
ギュオンッ!!!!!
魔王号はガーディアンエンジェルを抜き去った!!!
「ゴーーーーーーーーーーーーーーール!!!!!魔王号まさかの大大大逆転だーーーーーー!!!!!いや!!!だがしかしーーーー!!!」
僅かの差で勝利した魔王号!
ガガガガガガガガガガッ!!!!!
だが半壊した車体は地面との間に火花を散らしながら、猛然とコース外の壁へと突っ込んでいく!
「ソーマさん!!!」
アリアが叫ぶ!
しかしここからでは間に合わない!
「ぐっ!もうブレーキも効かない、俺に出来る事は無い・・・だから・・・」
その間も壁へと突っ込んでいく魔王号!!!
だが前方を見据えた俺は、ニヤリと笑う
「分かってるだろ?」 「ええ、もちろんです」
その時、アリアの目が魔王号の前に立ち塞がる人影を捉えた!
「ウラムさん!?何時の間に!?」
そう、それは先程まで隣に居たはずのウラムだった!
魔王号が自爆した瞬間
すでにウラムは魔王号が突っ込んでいく先に先回りしていたのだ!
ガガガガガガガガガガッ!!!!!
そのウラムに向かい、火花を散らしながら超高速で突っ込んでいく魔王号!
それに対し、立ち塞がるウラムは右手に魔力を集中させ構える!そして!
「トルネードッ!!!アッパーーーーーーー!!!!!」
「うおおああああああ!!!」
ウラムの放った竜巻を纏ったアッパーが、魔王号ごと俺を空中に吹っ飛ばした!
「アリアさん!!!」
「・・・ッ!は!はい!!!」
ウラムが叫ぶと同時に、観客席からアリアが飛び出す!
「ソーマさん!!!」
ガシッ!
そして空中の俺をキャッチすると、地面に着地した!
その後、ワンテンポ遅れて・・・!
ゴシャッ!!!
空中に吹き飛ばされていた魔王号は地面に墜落すると・・・!
ドッグオオオオオオオオオオオン!!!
爆発し炎上した!!!
・・・・・・
シーンと静まり返る場内、観客達は唖然とそれを見つめている
あまりの出来事に声が出ないと言った状況だ
「大丈夫ですか!?ソーマさん!!!」
「ああ・・・まあなんとか・・・それより・・・」
アリアにそう答えると、俺はよろよろと立ち上がり
観客席の方へ向かって歩いていく。そして
グッ!!!
天に向かって右手を突き上げた!
「・・・・・あ」
その時、いち早く正気を取り戻した実況が叫んだ!
「ゆ・・・優勝は!!!第一回セレンディアグランプリを制したのは!!!チーム魔王軍の「MAO-6C2・魔王号改二」だーーーーー!!!!!」
そして次の瞬間!!!
ワアアアアアアアアアアッ!!!!!!!!!!
観客席から、そして各地のモニターの前に集まった人々から
セレンディア中から歓声が上がった!
こうして、俺達魔王軍はセレンディアグランプリに優勝
GAの罠に勝利したのだった




