魔王とバレットカーニバル
:魔王とバレットカーニバル
ついに、その日が訪れた
会場を埋め尽くす人々
会場外、及び各地に設置されたモニターの周りにも大勢の人が押しかけていた
正にセレンディア中の人間が、それが始まるのを今か今かと待っている。そして・・・!
「さあ!全世界の皆様!大変長らくお待たせ致しました!間もなく!セレンディア最速最強のマシンを決める戦い!第一回!セレンディアグランプリ、決勝戦が開始されます!!!」
ワアアアアアッ!!!!!
実況の声に湧き上がる観客席!
それは昨日までよりも、更に激しい熱狂となっていた!
「参加チーム数120組!ここから予選を勝ち抜いてきた20組、20台のマシンが、最速最強の称号を賭けて競い合う事になります!どのチームも、何れ劣らぬ猛者ばかり!どのチームが優勝したとしても、全く不思議ではないでしょう!!!」
次々とマシンがスターティンググリッドに並べられていき、そして先頭に並ぶのは・・・
「ですがやはり!なんといっても注目なのはこちら!予選で圧倒的な力を見せつけた、グローバルアーキテクチャーの「GA-F-01・ガーディアンエンジェル」だーーー!!!」
ワアアアアアッ!!!!!
熱狂に包まれた観客席に向かって手を振るドライバーのジョシュア、正に余裕の態度と言った感じだ
もはや勝利を確信しているといった風にも見える
だが、そういう訳にはいかない。実況がその名を呼び上げた!
「そして!その守護天使の優勝を阻止せんとするのは、黒の閃光!チーム魔王軍の・・・!・・・おっと?これはどういう事だ!?」
と、そこまで言いかけた所で、実況が手元の資料を凝視する
そして資料に目を通すと、紹介を再開した
「失礼致しました。改めてご紹介します!チーム魔王軍の!登録車両名「MAO-6C2・魔王号改二」だーーーー!!!なんとここに来て魔王軍!更なるマシンを用意してきたーーー!!!!!」
オオオオオッ!!!!!
スターティンググリッドに並んだ黒の車体に湧き上がる観客席
「にゃ!注目されてます!」
「どうやら、改造は間に合ったようですね」
観客席にはミケやウラムの姿もあった、俺とギガス以外は観客席から応援をする事になっている
その時、魔王号を眺めていたアリアが首をかしげた
「でも、見た目はあまり変わってない様に見えますが?」
黒を基調としたスポーツタイプ
確かに、見た目は以前の魔王号改と大差無い
「まあ、すぐに分かりますよ」
そんなアリアの言葉に、フッと笑って答えるウラム
だがその他にも、魔王号に注目する人物が居た
(新しいマシンだと?悪あがきを・・・)
魔王号の様子を窺うジョシュア、だがすぐに余裕の笑みに戻ると
(だが、まあいい。「仕込み」は既に済んでいる・・・クックックッ・・・)
その頃、俺はギガスと最後の打ち合わせを行っていた
「ギガス、セッティングは?」
「ウラム殿より提案があった仕様になっています。ウラム殿の読みは当たるでしょうか?」
「こういう時のアイツの勘は鋭いなんて物じゃないからな。まず間違いなく、アイツの予想通りの展開になるだろう」
「では?」
「ああ、計画通りだ。それで勝てるなら良し、もし無理なら「例のアレ」を使う」
「・・・可能な限り成功率は高めました。ですが・・・」
「その時は一か八かって事だろ?望むところだ」
そして、俺とギガスはスタートの用意に移り
それに続く様に、他のチームも次々とスタート体勢に入る
「さあ・・・!間もなくです・・・!」
先程と打って変わってシンと静まり返る観客席、スタート準備に入ったマシンのエンジン音だけが響き渡る
誰もが固唾を飲んでそれを見守っていた・・・その時!
パッ!
シグナルが点灯する、スタート5秒前の合図だ!
「フッ・・・」
「・・・っ」
4・3・2・1.そして・・・!
パッ!!!
0!!!シグナルが全て消灯した!!!
グォン!!!グォン!!!グォォォォォンッ!!!!!
それと同時に一斉にスタートする20台のマシン!!!
「第一回セレンディアグランプリ!!!レーススタートです!!!!!」
そして!決戦の火蓋が幕を上げた!!!
スタートの合図と共に一気に加速していくマシン達!
そして、会場に実況の声が響き渡る!
「さあ始まりました!まずトップを行くのはやはりこのマシン!ガーディアンエンジェルだーー!!!」
トップを走る白いマシン、他のマシンもそれに続いていく。だが・・・
「おおっと!?これは・・・!!!」
他のマシンがガーディアンエンジェルに続く中
一台だけ他のマシンと距離を空け、最後尾を走るマシンがあった。そのマシンは・・・
「これは!スタートミスでしょうか!?魔王号が他のマシンより大幅に出遅れてスタートだーーー!!!序盤でこの差は痛い!!!」
そう、それは俺が操縦する魔王号だった!
「にゃーーーー!!!何やってるにゃ魔王ーーー!!??」
「びりっけつにゃ!!致命的なミスにゃーーー!!!」
思わず叫びだすリィとマウ、だが
「いえ、これで正解です」
「にゃ?どういう事ですか?ウラム様」
「あれを見てください」
ウナに答える代わりに、ウラムが魔王号の前方、集団になっている他のマシンを指差す
その時、実況がその違和感を口に出した
「おーっと?一体これはどうした事だ!?速さだけではない、他のマシンを倒しながら進むのがこのセレンディアグランプリ!だが・・・!?」
そう。その集団は、一切互いに攻撃行動を行っていなかったのだ
「これはどうした事でしょう!?各チーム、まずは温存の構えなのでしょうか!?」
他の観客達も同意見なのか、特にそれに疑問を抱いていないようだった。しかし
「何で誰も攻撃しない・・・?」
「ティスちゃんの言うとおりです!何かおかしいですにゃ!」
疑惑の声を上げる魔王軍の面々
その声に、ウラムが答える
「攻撃しない理由は単純です。射程外だからですよ」
「射程外・・・?」
「ええ。「標的」が射程の外にいるから、攻撃をしていないのです」
「標的・・・?それってまさか!!!」
アリアがそれを理解したその時
魔王号を操縦する俺とギガスは改めて、その状況を確認していた
「全く・・・。大当たりだったな、ウラムの読みは」
「ええ。まさか「我々以外の全員が敵だった」とは」
「俺もうっかり忘れてたぜ。これはレースじゃなくて「罠」なんだからな。当然、こーいう事態も予想して然るべきだった」
そう。このセレンディアグランプリは、あくまで俺達を潰す為の罠
ならば。真っ当なレース展開になるはずがない、というのがウラムの読みだった
「下手に集団の中に飛び込んでいたら、集中砲火を受ける所でした」
「俺達以外の19台から集中攻撃。そうなりゃ魔王号と言えど耐え切れない。スタート直後に敗北が決定してたってわけか」
最後尾を走る魔王号を確認し、舌打ちをするジョシュア
「チッ!まさか読んでいた!?」
GAが用意していた企みを看破した魔王軍。しかし
「迂闊に前に出れない事は分かった。だが、このまま最後尾を走り続けていたら当然負ける」
「ええ。なんとかして、前方の集団を突破する必要があります」
前方のマシン、GAを除けば18台
勝利する為には、これらを全て突破する必要がある
しかし、これらは頭を悩ませる程の問題ではない。何故なら!
「周りが全部敵だって予想していたなら!当然!今の状況も俺達の想定範囲内だ!ギガス!」
「はっ!積載重量限界ギリギリまで、武装弾薬は搭載してあります!」
「攻撃力は申し分無し!だが、今の状態じゃ重すぎだな・・・派手にぶっ放すとするか!!!」
ガシャンッ!!!
そう俺が叫ぶと同時に、魔王号の各所から砲門が飛び出す!そして!
「フルファイアーーー!!!」
ドガガガガガガガガガガガガガガガッ!!!!!
俺がボタンを押すと、全砲門から一斉に銃弾が連続発射された!
ドオンッ!!!
そして前方のマシンを、次々と吹っ飛ばしていく!
「おおおーーーーーーっと!!!ここで最後尾の魔王号が仕掛けたーーーー!!!車体の全身から弾丸を連射!連射!連射ーーーーー!!!まさに走る火薬庫!!!前方のマシンを全て薙ぎ払いながら、トップとの差を詰めて行くーーーーー!!!!!」
ワアアアアアッ!!!!!
俺が戦いの口火を切った事により、観客席も湧き上がる!
「全部敵だってなら遠慮はいらねえ!お前等まとめて再起不能だ!!!」
ドガガガガガガガガガガガガガガガッ!!!!!
魔王号に搭載されていた弾薬を凄まじい早さで撃ちまくる!
それと同時に重量も軽くなり、じょじょにスピードを上げていく魔王号。そして!
「魔王殿!GAのマシンを射程に捉えました!」
「よし!奴さえ倒せば勝ちだ!ファイアーーーーー!!!」
ドガガガガガッ!!!
ガーディアンエンジェルに向かって放たれる銃弾!だがその時!!!
ドオンッ!!!
炎上しコースアウトしていくマシン!だがそれはガーディアンエンジェルではない!
銃弾がガーディアンエンジェルへ飛んでいく瞬間、射線に他のマシンが飛び込んできたのだ!
その光景に困惑する俺とギガス!
「なっ!?今のは!?」
「明らかに、GAのマシンを庇った様に見えました!」
その時、観客席に居たアリアが立ち上がる!
「・・・ッ!」
その左目が赤くなると同時に視力も強化される!
そして、その目が捉えたのは・・・!
「やっぱり!あの他のマシンのドライバーの人達、あれはサッカー大会の時に感じた物と同じです!」
「アリアちゃん?それって・・・?」
「あの時は違和感ぐらいしか感じていなかった、けど今分かりました!あれは・・・!」
同時に、俺とギガスもその事に気付く
「精神制御系の魔法!?つまり操られてるってわけか!?」
「恐らくは」
「成程・・・。どうやって他のチームを仲間に引き入れたのか疑問だったが、そういう事か。大金を積んだり弱みを握って脅迫したりするより、遥かに簡単で確実な手だ・・・」
そして、魔王号の攻撃の手が緩んだ事を確認しニヤリと笑うジョシュア
「どうやら、こっちの「本当の仕込み」に気付いたみたいだな」
その言葉に、驚きながら聞き返すフィーリス
「これって・・・!?試合前日、魔王軍以外のチームをパーティーに招待したのは・・・!?」
「ああ、この仕込みの為だ」
試合前日。GA主催の決勝戦前日パーティーと称して参加チームを集めたジョシュアは
その時すでに、彼らの精神を制御していたのだ
前方のマシンを突破出来ずにいる魔王号を確認し、更に口元を歪めるジョシュア
「さて、そいつらは何の罪も無い一般市民だ。そいつらを倒さなければ、俺に追いつく事は出来ない・・・どうする?ハッハッハッハッ!!!」
その時。観客席に居たウラムも、魔王号の様子から俺達が気付いた事を察する
「どうやら魔王様も、彼らが操られている事に気付いた様ですね」
「これじゃ攻撃出来ない!どうすれば・・・!」
突破する手段はあるのか!?
アリアが声を上げた、その時!
「・・・!」
ドガガガガガガガガガガガガガガガッ!!!!!
俺は何のためらいもなく、攻撃のボタンを押した!
ドオンッ!!!
そして!魔王号の攻撃を食らい吹っ飛ぶ前方のマシン!
「ええええええええええ-------!!!!!?????」
思わずアリアが困惑の叫びを上げる!
「この野郎!撃ちやがった!!!そいつらは操られてるだけだって分かってねーのか!!!???」
GAのドライバー、ジョシュアも叫ぶ!
だがそれに返答する様に、俺は叫び返した!
「操られてるとか知った事か!!!俺は正義の味方じゃねーんだよ!!!俺は「魔王」だ!!!恨むなら操った奴を恨め!!!!!」
そう、元より俺に人助けをするつもりなど無い!
俺の邪魔をするなら、罪の無い一般人だろうとぶっ飛ばす!
「それが俺のやり方だぁあああああッ!!!!!」
ドガガガガガガガガガガガガガガガッ!!!!!
そして攻撃を再開する魔王号!銃弾の雨を降らし残りのマシンを一掃しにかかる!
「いいにゃー魔王ーーーー!!!ぶっぱなせにゃーーー!!!」
「きるぜむおーるにゃーーー!!!」
俺の容赦ない攻撃に沸きあがる魔王軍の面々!
ワアアアアアッ!!!!!
そして同時に、観客席のボルテージも上がっていく!
だが一人だけ・・・
「うう・・・ソーマさ~ん(泣)」
「流石は魔王様です。前より一層、躊躇が無くなった気もしますが」
「私達、悪の集団みたいです~・・・」
「まあ、魔王軍ですしね」
ウラムの言葉に、ヨヨヨと泣き崩れるアリア
そんなアリアを他所に、更に攻撃を激しくしていく魔王号!
ドオンッ!!!
そして、最後のマシンも躊躇無く吹っ飛ばすのだった!!!
「凄まじいーーーー!!!魔王号の凄まじい攻撃により、GAサーキットは銃弾飛び交う戦場と化したーーー!!!そして20台居たマシンのうち、18台がリタイアする大波乱の展開ーーー!!!レースは、ガーディアンエンジェルと魔王号の一騎打ちとなりましたーーー!!!!!」
GAによって操られていた全てのマシンをリタイアさせた俺達は、最後の標的に狙いを定める!
「しゃあ!あとは奴だけだ!ギガス!」
「はっ!ロックオン完了しています!」
「よし!食らえ!虎の子の・・・!」
俺がそう言うと同時に車体の前方からせり出してくる物体、それは・・・!
「ミサイル発射!!!」
バシュンッ!
そう、ミサイルだった!
俺がボタンを押すと同時に、超高速でガーディアンエンジェルに向かっていくミサイル!
「ミサイルだと!?」
「さすがに、高速で自動追尾してくるミサイルより速く走れたりはしないだろ!」
なんとか回避しようとするガーディアンエンジェル!だが!
「ダメっス!!!完全にロックオンされてまス!!!直撃するっスーーー!!!」
「ちいいいいいいいいいっ!!!」
ドオオオオオオオンッ!!!
ミサイルが直撃!爆風に包まれるガーディアンエンジェル!
「やったか!?」
俺は爆風の中の様子を窺う。だが!
ブォンッ!!!
「なっ!?」
爆風の中からガーディアンエンジェルが飛び出す!
キィィィン・・・!!!
その車体は、光り輝くバリアの様な物で覆われていた!
それを見た観客席のアリアが叫ぶ!
「あれは!ディバインシールド!!!」
「どうやら、尻尾を見せたみたいですね・・・」
間一髪でミサイルを防いだガーディアンエンジェル。だが!
「俺が・・・この俺が・・・!人間なんぞを相手に、神聖防壁を使う羽目になるとは・・・!!!クソがあああああッ!!!」
その一撃はジョシュアの逆鱗に触れ、正常な判断力を奪い去ろうとしていた!
すぐさま、フィーリスがジョシュアに呼びかける!
「落ち着いて下さいっス!ジョシュア先輩!」
「黙ってろ二級天使が!!!奴等はここで絶対に潰す!!!」
もはやフィーリスの言葉など届かない程に、頭に血が上ってしまっているジョシュア
一方俺達の方も、その状況に焦りを見せていた
「クソッ!ミサイルが効かないなんて!あのバリアを破る方法は無いのか!?」
「残念ながら。現在魔王号に搭載している火器で、あのバリアを破る事は不可能です」
「くっ!」
虎の子であるミサイルが効かない以上、リタイアさせて勝利する事は不可能
(だが!それならそれで勝つ方法はある!力で勝てないなら方法は一つしかない!)
ソレを決断した俺は、ギガスに命令する!
「ならプランBだ「例のアレ」を使うぞ!」
「・・・よろしいのですね?」
「ああ。やれ!ギガス!!!」
「承知致しました・・・では!」
そして、ギガスがソレを起動させた!
「全武装及び、車体の一部をパージ!!!」
ボンッ!
走行中の魔王号から武装が全て切り離される!
他にも、格納してあった武器や弾薬も全て捨てていく魔王号!
「武器を捨てただと!?一体何をしている!?」
まさかの展開に困惑するジョシュア
だがそれだけではなく、さらに車体の一部も捨てていく
それにより魔王号はまるで、骨組みのまま走っているかの様な異様な姿になる
「重量を軽くした・・・!?ってまさかアレは!まさかそんな事を・・・!?」
一体何が起こるのか?それを理解するフィーリス!
そしてギガスが叫んだ!!!
「魔王号!!!変形!!!!!」
ギガスが叫ぶと同時にシャーシが格納されていき!魔王号の車体が折りたたまれる様に細くなっていく!
その異様な光景に実況が叫んだ!
「なんだアレはーーー!!!魔王号がーーー!!!アレは一体何をしているんだーーー!!!???」
スポーツタイプだった車体がまるでF1マシンの様な外見になっていき・・・!
ガシィィィィィンッ!!!
ソレは完成した!!!
「これこそが!「MAO-6C2・魔王号改二」の真の姿!!!魔王号・ハイブーストモードです!!!」
その姿を変えた漆黒の車体!スピードに特化した魔王号の真の姿!
ついに、切り札を切った俺とギガス!
そしてセレンディアグランプリ、最後の一騎打ちが始まろうとしていた!




