魔王とMAO-6C
:魔王とMAO-6C
そして、あっという間に2週間が過ぎ
その会場、GAサーキットは熱狂に包まれていた
「さあ!間もなく始まります、第一回セレンディアグランプリ!!!本日は、予選第一組のレースとなります!!!」
実況の声に湧き上がる観客席
まだ予選にもかかわらず、観客席は満員となっている
「本大会、参加チーム数はなんと120組!本来の予定を大幅に超えるエントリーの数となりました!そこで本戦の前に24チームづつ、5回にわけて予選が行われ。各予選上位4組、合計20組が決勝に進む事となります!」
実況の解説の間にも着々とレースの準備は行われ、各車スタート地点に移動していく
グォンッ!ドドドドドッ!!!
そのまま各車アイドリングを始め、後はスタートシグナルを待つだけの状態となった
そして・・・シグナルが点灯する
5秒前、4、3、2、1・・・
「「・・・!!!」」
0!!!
シグナルが全て消灯したと同時に全車一斉に走り出す!
「さあ!各車一斉にスタート!!!まずは・・・!おっと!ここでいきなり大きく加速するマシンが一台!あれは・・・!!!」
スポーツタイプの車体をベースに改造が加えられた、漆黒の車体が先頭集団に襲い掛かる!
そのマシンは・・・!
「あれは!チーム魔王軍の、登録車両名「MAO-6C・魔王号改」だーーー!!!」
ゴオッ!!!
猛然と突撃を開始する黒い影!
そのハンドルを握るドライバーは他でもない・・・!
「しゃあ!まずは先手必勝!!!」
そう、魔王号の操縦は俺自らが行う事となった
トップに出るべく、俺は更にスピードを上げる!
そして、前方の車両の隙間を縫うようにしてかわし順位を上げていった!
「くそっ!行かせるか!!」
その時!追い抜こうとした横の車両のドライバーが魔法の詠唱を開始する!そして!
「ファイアボール!!!」
ドライバーが叫んだと同時に!
ボウッ!!!
こちらに向かってかざした手の平から火球が放たれ!魔王号に向かってきた!
「・・・!」
ドオンッ!!!
回避する間もなく!高速で飛来した火球が魔王号に直撃する!
爆風に包まれる魔王号!
「おーーーーーっと!!!ここで魔法攻撃が炸裂ーーー!!!ですがこれは反則ではありません!繰り返しますが、これは反則ではありません!!」
そう、この攻撃はセレンディアグランプリのルールに則った行動なのだ
「速さだけではない!並み居るライバル達を打ち倒し自らが先にゴールする!速さと力!!これこそがセレンディアグランプリなのです!!!」
ワアッ!!!
レース開始直後の派手な展開に、観客席のボルテージも上がっていく!
「さあ!ファイアボールの直撃を受けてしまった魔王号!果たして無事なのか!?」
そう実況が叫んだ瞬間!
ギュンッ!!!
爆風の中から飛び出してきたのは!
「なんと!魔王号無傷だーーー!!!ファイアボールの直撃を受けたにもかかわらず、全くの無傷ですーーー!!!」
その実況の声に答える様に、マシン内部に搭載されていた小型のカメラが動き出す
「当然です!この程度の攻撃で、私が開発した魔王号の装甲が抜けると思わないでいただきたい!」
そう、メインドライバーは俺が担当しているが
その他様々な機能を制御する為、ギガスの端末もこの魔王号に移植してあり
ギガスの走行補正のお陰で、素人の俺でも熟練のドライバーの様にマシンを操れる
つまり魔王号は、俺とギガスの二人で操縦するマシンという事だ
「さすがだぜギガス!」
「お褒めに預かり恐悦です、魔王殿」
見た目はただのスポーツタイプ、俺が元の世界から持ち込んだ車両と大差無い
だが、中身は全くの別物だ
特にこの黒塗りの車体は、ギガスが開発した装甲材に加え
魔術的な攻撃を防ぐコーティングも施されている
魔王号の防御は完璧と言っていいだろう。そして・・・!
「さて、効いてないにしても攻撃は攻撃だな?それなら・・・!」
ガシャンッ!!!
俺がハンドル近くのボタンを押すと同時に、魔王号の車体横から銃身が現れた!
「俺はやられたらやりかえす性質なんだよ!!!」
ドガガガガガガガッ!!!
そして銃身から弾丸が連続発射される!
ガガガガガッ!ドオンッ!!!
その弾丸は先程攻撃を仕掛けてきたマシンの装甲を貫通し、エンジン部を破壊した!
「うわあああ!!!」
エンジンを破壊されたマシンは回転しながらコースアウトしていく!
そう、魔王号には攻撃手段も多数装備されている
俺が魔法を使えない代わりに、魔王号には各種重火器が内蔵されているのだ
「おおーーーーっと!レース序盤でいきなりのリタイアだーーー!!!白熱のスタート展開となりましたーーー!!!」
ワアッ!!!
実況の声と同時に、観客席からも歓声が沸き起こる!
「くそっ!あの黒いのを潰す!!!」
その時!魔王号を最大の驚異と認識したのか
他のマシンからの攻撃が全て、魔王号に集中する!
ギィンッ!!!キィンッ!!!
だがそんな集中攻撃を受けながらも、魔王号の装甲はビクともしない!
「ギガス!」
「はっ!火器管制はお任せ下さい!」
「よし!行くぜ!!!」
グォンッ!!!
俺の掛け声と同時に魔王号は更に加速!
仕掛けてくる相手を返り討ちにしながら、一気にトップまで駆け上がる!!!
「つえーにゃ!魔王!」
「余裕だにゃ~」
その後、完全に周りのマシンを寄せ付けずトップを走り続ける魔王号。そして!
「ゴーーーーーーーーール!!!予選第一組をトップで通過したのは、チーム魔王軍の魔王号改だーーー!!!」
そのまま、魔王号は単独首位でゴール
予選レースを、俺達は圧倒的な力で通過した
「よし!あとは本戦で勝つだけだ!」
「お見事です魔王様」
戻ってきた俺に、ウラム達が駆け寄ってくる
「魔王号、すごいマシンですにゃ!」
「やっぱり私が運転したかった・・・今からでも交代する?」
初勝利に沸きあがる面々
しかし、素直に喜んでばかりはいられない。何故ならば
「だけど、GAは別の組だからな。奴等に勝たなきゃ意味は無い」
確かGAは予選最終組だったはず、予選最終組のレースは明日だ
いずれ来るであろう戦いに向けて緊張感を高める俺に、アリアが心配そうに尋ねる
「GAは予選を勝ち上がってくるでしょうか?」
「まず間違いなくな・・・」
そう、本番はこれからなのだ。まだ気を緩める事は出来ない
俺はGAとの決戦に向けて、マシンの調整を行うのだった
そして、同時刻
予選レースをVIP席から観戦していた男が一人
それは、上級天使でありGAのCEOでもあるジョシュアだった
「フッ。予選は勝ちあがってきたか・・・」
その表情には余裕の笑みが浮かんでいる
魔王軍の予選突破、ここまでは彼の想定範囲内と言う事
「で、お前はどう見る?」
ジョシュアは部屋の中に居たもう一人の天使、フィーリスに声をかける
「わずか2週間でここまでのマシンを仕上げてくるなんて、さすがギガスさん・・・。いえ、さすが魔王軍です」
そう答えるフィーリスの顔は、ジョシュアとは対照的に厳しい物となっていた
GAのマシンを担当するメカニックとして、油断や慢心は出来ない
真剣勝負に挑む者の顔がそこにはあった
「ですが・・・」
そこでフィーリスは、一呼吸置いてから続ける
「天界の最先端技術を集め、私がチューンした「GA-F-01・ガーディアンエンジェル」が負ける事は、万が一にもありません」
その答えを聞いたジョシュアはニヤリと笑うと、手元のグラスを傾けた
「決勝の日、それがお前等の最後になる・・・クックックッ・・・」
勝利を確信し、その天使は残忍な笑みを浮かべるのだった




